⛲17〉─3─下流老人のウソ。〜No.76 

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 産経新聞IiRONNA「関連テーマ 「下流老人」のウソ
 下流老人に老後破産。老後リスクを扱う書籍や雑誌は、年金目減りにおびえるシニアのマインドには刺さったが、日本の貧困問題は、実は現役世代の方が根が深いのだ。
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 アベノミクスを阻む「年金制度の壁」は一刻も早く撤廃すべき
 『月刊Wedge
 熊野英生(第一生命経済研究所首席エコノミスト
 2016年の経済政策はアベノミクス第2ステージとして名目GDP600兆円に向けた消費喚起が大きなテーマになっている。その前提として、14年の消費悪化をしっかりと振り返っておく必要がある。
 14年4月の消費税増税のせいで賃上げの効果が相殺されたというのが通説だが、これは正確ではない。詳しく分析すると、高齢者無職世帯の消費落ち込みが大きかったことが分かる。60歳以上の無職世帯の14年の消費支出は前年比1・5%減であった。勤労者世帯の消費支出が同0.1%増であったのとは対照的であり、高齢者無職世帯が消費低下を引っぱったといっても過言ではないだろう。
 国民に提供する福祉・介護などの高齢者サービスの負担をまかなうために、17年4月の消費税の再増税は回避できない側面がある。しかし、14年を教訓として高齢者の消費支出を減らさないようにしなければ、600兆円など夢のまた夢である。
 高齢者向けの直接給付を増やせばもちろん、消費は増えるだろう。しかし、それには限界がある。まず必要な政策対応は、高齢者の勤労収入を増やすための環境を整えることだ。これは消費税再増税のときに避けては通れない課題である。そのためにはまず、「年金制度の壁」を取り払うことが必要となる。
 総世帯数のうち、世帯主60歳以上の高齢世帯の割合は、すでに53・2%(15年7~9月)と過半数を占める。その7割は無職世帯であり、彼らの主な収入源は公的年金である。
 60歳以上の人口がどのように推移するのかを、国立社会保障・人口問題研究所の中位推計に基づいて調べると、17~25年までの年平均の伸び率は0・4%とごく僅かな人口増加ペースになっていく。さらに、40年には減少に転じる見通しである。
 加齢とともに縮小する消費
 高齢者世帯の中でも〝高齢化〟が進んでおり、加齢とともに世帯の消費支出は縮小している。年代別の消費支出額をみると、世帯主年齢が60歳代の時期が最も多く、70歳以上になると急速に少なくなる。シニア世帯の中で、勤労を続ける割合は、60歳代から70歳代にかけて漸減し、70歳を超えると一段と減少していく。だから、加齢とともに消費金額も減っていく格好になる。高齢者人口の増加だけをもってして、シニア消費が今後増えていくことは期待しづらい。
 過去10年間、シニア消費は年3・6%のペースで高成長を遂げてきた。背景には、団塊世代(1947~49年生まれ)のボリュームゾーンが60歳以上になっていく効果があった。しかし彼らも、16年時点では67~69歳に達し、消費支出を減らしていくステージに移行する。東京五輪が開催される頃の消費市場は、団塊消費の存在感がいくらか小さくなるだろう。
 シニア消費の悲観的な未来を好転させるにはどうしたらいいのか。
 現在、60歳以上の総人口は、4241万人(15年12月初)。それに対して、公的年金受給者数(重複を除く)は、3991万人(15年3月末)である。もちろん、彼らが受け取る公的年金の支給額が増えれば、シニア消費も増えるはずである。
 しかし、それは不可能に近い。公的年金には物価スライド制があり、前年の消費者物価また賃金上昇率が1%上昇すれば、それに応じて年金支給額も増える仕組みであるが、そこにはマクロ経済スライドという制度が組み込まれている。それは、インフレ率や賃上げ率よりも少ないペースでしか年金支給額が増えていかないルールである。
 目減りしていく年金支給額
 例えば、14年は消費者物価(総合)が2・7%、賃金上昇率(名目手取り)が2・3%の上昇率になった。物価スライドでは、消費者物価と賃金上昇率の低い方を基準にして、マクロ経済スライド分の0・9%を差し引くことになっている。この0・9%は公的年金制度の収支を長期的に維持するために、年金加入者の減少や平均寿命の伸びを勘案して決められている。年金財政の今後の展望を考えると、マクロ経済スライドを廃止することは難しい。
 15年度に限ってみると、過去の年金支給額を物価下落分だけ減らさなかった過払い分の調整がここに加わって、さらに0・5%ほど減額された。
 年金支給額が15年4月に物価スライドで増加した比率は、0・9%(=2・3%?0・9%?0・5%)だった。15年といえば、消費税率が5%から8%へと引き上げられた翌年だ。年金支給額が0・9%しか増えなかったことで、実質的に年金支給額は切り下げられたのだ。
 以上のことを勘案すると、シニア世帯の収入が増えるための活路は、公的年金収入以外に頼らざるを得ない。
 政策対応を考えるとすれば、①高齢者の事業収入を増やすか、②労働参加率を高めるか、③株価上昇を促して資産効果を発揮させるか、④預金金利を引き上げて財産収入を増やすのか、などの方法がある。まずは①、②の環境整備を行い、勤労収入の増加を行うことが必要だ。
 現在の家計収支の状況を調べると、60歳以上の勤労者世帯は、勤め先収入が月27・5万円(14年)。これは無職世帯(年金生活世帯)の月収入16・0万円(夫婦計)を大きく上回る。事業収入もあるが、それには多くは期待できない。
 勤労意欲を削ぐ”年金制度の壁”
 しかし、そこに大きな壁が立ちはだかる。年金収入と勤労収入を合算して、毎月28万円以上になると、それを超過したときに超過額の2分の1ほど年金収入を減らしていくという在職老齢年金制度の調整があるからである。これが「年金制度の壁」だ。
 60歳以上の有業者数は、1267万人(12年10月)。このうち、雇用者に限ると、正規雇用者は31%に過ぎず、非正規雇用者は69%である。定年延長が行われても、給与水準を減らしたり、非正規形態を選択する人が多い。
 高齢者は十分に働く能力があっても、自分がもらえるはずの年金が削減されることを嫌って、勤労収入を低く抑える傾向がある。給与所得よりも年金所得に対する控除が手厚いので、年金を減らされるくらいならば、低賃金で働く方がましだと考える高齢者も多いからだ。
 こうした28万円の壁は、60~64歳に適用される「檻」のような存在になっている。なお、65歳以上の高齢者については、年金と給与の合計が47万円を超えると、年金支給が停止されるという47万円の壁が存在する。
 筆者は、シニア層の勤労意欲を高めるためには、一刻も早く28万円の壁を撤廃すべきだと考える。これほど日本の成長力を死蔵させている残念な仕組みはない。
 しかし、現在、厚生年金の報酬比例部分の支給開始が65歳へと段階的に引き上げられている途上であり、在職老齢年金制度を見直そうという機運は乏しい。過去、11年に見直しの機運が高まったが、その後の政権交代で改革は宙に浮いたまま先送りされた経緯もある。安倍政権下でも、女性の活用を掲げて、配偶者控除の見直しに動こうとするが、在職老齢年金の見直しは後回しにされているようにみえる。
 筆者が在職老齢年金の見直しの優先順位が先だと考えている理由は、それが年金問題の改善にもなり得るからだ。もしも、シニアの高度人材が一段と所得水準を上げることになると、シニア層の給与所得から支払われる年金保険料が増える。すると、年金収支の改善が見込まれて、マクロ経済スライドの必要額を減らすこともできる。
 前述のとおりシニア消費に悲観的な未来が予測されるなか実現が難しいことは否めない。しかし、本質的に年金問題を解決するには、給与所得の総額を大幅に増やして、年金保険料の総額を増やすことが最善の道である。筆者は、社会保障と雇用を一体化して変革することが、わが国の社会保障システムにある活路であると信じている。
 くまの ひでお 1990年横浜国立大学経済学部を卒業後、日本銀行に入行。同行調査統計局等を経て、2000年7月に退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。11年4月より現職。
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 バラマキでは効果薄 シニアの財布の紐はこうやれば緩む
 『月刊Wedge
 飯田泰之明治大学政治経済学部准教授)
 聞き手・構成 Wedge編集部
 今国会では低年金受給者の消費を下支えするために、3万円を臨時支給する補正予算案が審議される。一時的な現金の支給は貯蓄に回り、消費への影響は小さいだろう。使用期限や用途が決まったクーポンなどの方が、まだ効果的かもしれない。恒常的に高齢者の消費を下支えするには、社会保障制度と税制の抜本的な改革が必要である。
 高齢者の消費を抑制する要因は「想定よりも長生きした場合の将来不安」と「子孫に財産を残そうという動機」というある意味正反対の2つの理由に拠ると考えられる。経済理論では前者をライフサイクル仮説、後者をダイナスティ(王朝)仮説と呼ぶ。
 ライフサイクル仮説では、若い頃に働いて貯めた貯蓄を、生涯をかけて取り崩していくという消費行動を想定している。このとき、遺産は想定よりも短命に終わったために使い残してしまった額ということになるわけだ。
 一方、ダイナスティ仮説では自己だけでなく子孫の繁栄まで考慮した消費・貯蓄を行う。なお、両者のある意味中間とも言える考え方に、財産を見せ金にして子孫から介護サービスを引き出そうとする「戦略的遺産動機」というものもある。
 どちらの仮説が正しいかについては判断の分かれるところだが、いずれにせよ、高齢者の消費を喚起するには、将来不安を和らげるセーフティネットの整備と遺産動機の低減策とがセットで必要になる。
 将来不安の緩和には、例えば高齢者に毎月6万円を一律支給する最低保障年金や高齢者給付金制度への移行などが考えられる。このような一律の制度に移行すると無年金・低年金の高齢者はいなくなる。
 この財源は相続税の引き上げにより確保することが望ましい。相続税を引き上げると遺産動機も弱まり、貯蓄が消費に回るからだ。
 日本の相続税は、相続対象の相続資産額は年間で約80兆円にも上るが、控除額が大きく約1.5兆円しか納税されていない。そこで控除額を配偶者は2000万円に、子は1人当たり100万円に引き下げ、課税額を一律20%に引き上げると、相続財産額が大きくなる将来的には毎年10兆円は捻出できる。これを原資にして社会保障を拡充すれば良いのだ。ちなみに、相続税増税できれば、現役世代の階層の固定化を避けられ、格差社会も是正される。
 このような最低保障年金や高齢者給付金での生活を維持するためには、高齢者が部分的に働き続けられる労働環境を作らなければならない。現在も高齢者向けの求人は少なくない。技能労働者や専門性の高い職種では高齢者の雇用は拡大している。一方、健康で身体は動くが、専門的な知識や技能を持たない高齢者がいかに稼げるかが、今後の大きな課題である。
 老齢年金は72歳で「元が取れる」ようになっており、平均寿命が80歳を超える高齢社会では現行のまま持つはずがない。支給開始年齢は引き上げざるを得ない状況にあることから、企業も高齢社員を70歳まで適度な給与水準で継続雇用する方法を模索していくことになろう。
 いいだ やすゆき 1975年生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。駒澤大学准教授を経て、2013年より現職。財務省財務総合政策研究所上席客員研究員。専門は日本経済・ビジネスエコノミクス・経済政策・マクロ経済学
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