🌄8〉─3─観光公害、京都で古い町並み崩壊の危機。中華系資本の無計画な土地買いと大型ホテル建設。〜No.35 

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 観光地では、少子高齢化の人口激減で日本人の国内旅行が減少した為に、大金を落としてくれる外国人観光客に依存しなければ生き残れない。
 それが、人口激減の現実である。
 外国人移民(主に中国人移民)が増えても、彼らは母国への里帰り旅行をしても日本国内での旅行はしないし、国内旅行しても日本人が経営するホテルより同胞が経営するホテルに泊まる。
 中国人観光客は、日本人経営ホテルより中国人経営ホテルに好んで宿泊する。
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 2019年8月5日 msnニュース AERA「京都で古い町並み崩壊の危機…深刻化する「観光公害」を考える
 © Asahi Shimbun Publications Inc. 提供 京都の伝統ある町並みは格好の“インスタスポット”。マナー違反が増えるにつれ、無粋な看板も立てられるようになり、景観が損なわれていく/2019年3月、京都市東山区で (c)朝日新聞社
 観光による弊害が各地で顕在化している。地価が高騰し、町並みやご近所コミュニティーが崩壊の危機にさらされている地域もある。「観光公害」を克服し、量から質への転換を考えるべき時期だ。ジャーナリストの清野由美氏がリポートする。
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 京都市東山区の花街・祇園のメインストリート、花見小路。工事用シートに覆われた向こうに、7月8日に起きた火災の跡が、生々しくのぞいている。5棟が燃えた火災では、100年の歴史を誇る老舗のお茶屋も巻き込まれた。
 「花見小路では、火事とは別に建て替え中の老舗が工事シートで囲まれているし、東京から大型ホテルの進出も予定されている。私たちが親しんできた眺めがどんどん変わっていて、この先、一体どうなってしまうのか……」
 いがらっぽいにおいがただよう通りで、祇園出身の女性(66)が、ひそっと漏らす。その前を今日も大勢の観光客がぞろぞろと通り過ぎる。自撮り棒を掲げて闊歩(かっぽ)する男性。お茶屋の玄関先で撮影にいそしむレンタル着物姿の女性。彼らは、住人が抱く不安には思いが及んでいない。
 仏教美術を専攻していた私は、学生時代から数十年にわたり、京都をひんぱんに訪れてきた。守旧的、伝統的な古都に異変を感じたのは2015年2月、春節のことだった。夕暮れに出かけた花見小路が人で埋まり、通勤ラッシュの様相を呈していたのだ。外国語を声高に話す人々は、お座敷に向かう舞妓さんにむらがって、その顔先でバシャバシャとスマホ撮影をしていた。
 ●五輪後のバルセロナでは、「観光客は帰れ」とデモ
 そのわずか3カ月前、紅葉シーズンに訪ねた祇園界隈(かいわい)は、観光繁忙期にもかかわらず夜は閑散としていた。「こんなに人が来なくて、大丈夫か」と、まったく逆の老婆心を抱いていただけに、この急激な変貌(へんぼう)には衝撃を受けた。
 15年はまさしく日本政府が「観光立国」のかけ声のもと、中国に対してビザ発給要件の緩和を行った年だ。それ以前からの円安で、日本に来る外国人観光客、いわゆるインバウンド数が増加していた中で、特に中国人観光客の存在感は急増。彼らによる「爆買い」が流行語になったのも同じ年だ。
 そこから日本各地に世界中の観光客が大挙して押し寄せる「オーバーツーリズム(観光過剰)」「観光公害」が顕在化していった。とりわけ、その問題を一身に被(こうむ)ったのが、日本を代表する観光都市、京都だった。
 駅や電車内が観光客ですし詰めになり、タクシー乗り場には長蛇の列。市内は渋滞が常態化し、市民の足がマヒする。町には急ごしらえのホテルや簡易宿所が乱立し、古い町並みが消える。清水寺銀閣寺など「超」のつく名所はいうまでもなく、穴場だった寺社や町にも人が押し寄せ、うっかり出かけようものなら、疲労困憊(こんぱい)してしまう。
 ただ、こうした現象は世界的に見て特殊なものではない。
 たとえば1992年の五輪開催を機に躍進した観光優等生都市、バルセロナは、その明暗を世界に先駆けて経験している。名所が集中する狭い旧市街に年間3千万人前後の観光客が押し寄せるようになったことで、交通やゴミの収集、地域の安全管理など公共サービスが打撃を受けた。土地代の高騰で、観光業の従事者が住む場所すらなくなるという事態まで起こった。やがて街角に「観光が町を殺す」という不穏なビラが貼られ、「観光客は帰れ」という市民デモが行われるようになった。
 バルセロナに限らない。アムステルダムヴェネツィアフィレンツェ、フィリピンやインドネシアの島。世界の有名な観光地で、負の事例はいまや枚挙にいとまがない。
 なぜ、観光公害が世を席巻するようになったのか。世界共通の要因として、「経済力をつけた新興国からの観光客の増加」「格安航空会社(LCC)の台頭」「SNSとセルフィー(自撮り)による自己顕示の流行」という3点が挙げられる。
 とりわけ大きな現象は、前述した中国人観光客の爆発的な増加だ。中国国家統計局によると、中国人の海外旅行者数は05年には3千万人だったが、16年には1億3千万人へと膨張。国連世界観光機関の「国際観光支出」を見ると、17年の中国の観光消費額は2位のアメリカに2倍の差をつけて断トツの位置を占めている。
 しかも現在の中国でパスポートを発行されている人は、まだ人口の数%でしかなく、今後は年間1千万人単位で受給者数は増えていくといわれている。その次には、やはり人口が圧倒的に多いインド、インドネシアなども控えている。その意味で「数」の脅威は始まったばかりなのだ。
 ただし「外国人観光客を締め出せばいい」と短絡してはいけない。かつて日本人も海外のブランド店に大挙して出かけ、国際的な顰蹙(ひんしゅく)を買った後、市民として成長したプロセスがある。
 あまたある観光公害の中でも、最も深刻な問題として認識されるべきは、市街地で起こっている投機の動きだ。
 国土交通省による18年の基準地価では、商業地の地価上昇率トップが北海道倶知安町(くっちゃんちょう)で、2位から4位までを京都市東山区下京区が占めた。倶知安町ニセコのスキーリゾート地として外資、とりわけ中華系資本による大型ホテルが次々と建設されている土地だ。
 ●他と差別化できずに、空き部屋をもてあます
 京都で17年から20年までに、新たに供給される客室数は、不動産データベース・CBREの調査によると、既存ストックの1.5倍以上にのぼる。つまり3年という短期間で、それまで積み上げてきた客室数の、実に半数以上が供給される事態になっているのだ。とりわけ前年比で地価が25%以上も上昇した東山区下京区では、高級ホテルから簡易宿所まで大小の宿泊施設が雨後の筍のごとく出現している。
 京都は、人々が暮らしを紡ぐ場所が有名寺院などの観光名所とともに息づくところが、魅力の源泉となっている。
 しかしそこに投機が生じ、地価・家賃が上がると、もとの住民は家賃や税金が払えなくなり、町を出るしかなくなる。京都市中心部は高齢化率が高い一方、地価の高騰は若者や子育て層の流入を阻むので、やがて空洞化が始まる。京都が長い時間をかけて培ってきたご近所コミュニティーが、そうやって崩壊の危機にさらされていく。
 現在、市内の宿泊施設は、すでに供給過剰の局面に達している。簡易宿所や民泊では、ゴミ出しのルールを守らなかったり、深夜早朝に出入りしたりなど、利用者のマナーが問題視され、町に険悪な空気をもたらした。他方で、ブームで参入した業者が、他と差別化できずに、空き部屋をもてあます。
 「私の町内にも手軽な宿泊施設が次々とできましたが、最近は電気が消えている日も多く見られます。新しく来られた方は、地域の活動に参加されることが少なく、昔ながらのご近所関係が薄れてきている気がします」
 そう嘆くのは、東山区で生まれ下京区で暮らす井澤一清さん(57)だ。みずからも宿泊業を営む井澤さんは、十数年前に京都の古い町並みを残す目的で、町家の一棟貸しに取り組んだ。
 「一時、町家をカフェや宿泊施設に転用する動きが増えましたが、今は再びそれらを壊して、エコノミーホテルなどをつくる動きになっています。住民たちが守ってきた暮らしを、どうしたら健全に持続できるか。それを思わない日はありません」(井澤さん)
 ●四国の秘境で一棟貸し、僻地だからこそ魅力的
 ただ、観光が引き起こすマイナス面について語る時、気を付けないといけない点がある。それは、観光の持つプラスの面まで否定することだ。
 21世紀以降の日本は人口減少、経済停滞と行き詰まりが著しい。そんな日本にとって「観光」が20世紀の製造業に代わる、産業としての可能性を持つことは確かである。経済が成熟した国にとって、第2次産業から第3次産業への転換は、雇用の面でも、外貨獲得の面でも、必然的な流れだ。
 たとえば19年版の「観光白書」(観光庁)によると、18年のインバウンド客の日本での消費額は4兆5189億円。これは日本の製造業の代表選手、トヨタ自動車の過去最高純利益である2兆4939億円(18年3月期連結)をゆうに超える。
 「日本の役人や企業の担当者は、いまだに『数』を成功の指標として、300円の入場料で10万人を呼ぶことを重視しがちですが、そこが問題です。それでは行く方も迎える方も疲弊するだけ。これからは3千円の入場料で1万人を迎えて、双方の気分がよくなる、といった『質』の向上を本気で図らねばなりません」
 そう語るのは、来日して55年の東洋文化研究者、アレックス・カーさん(66)だ。カーさんは四国の秘境、祖谷(いや)(徳島県三好市)で、築300年以上の茅葺(かやぶき)古民家9軒を一棟貸しの宿に転用するプロジェクトに長年携わる。
「始めた当初は、こんな僻地(へきち)には誰も来ないと言われましたが、だからこそ魅力的なのだ、と私は力説しました。1泊3万~4万円ですが、数人の滞在が可能です。この形なら地域にダメージは与えません。フタを開けたら、外国人、日本人を問わず、予約でいっぱい。需要があることを実感しました」(カーさん)
 冒頭で記した祇園のように、日本の町並みは、もろさと古さが景観美の原点になっている。だとしたら、それを固有の「資本」ととらえ、その土地に伝えられた景観や町並みと、それらを暮らしの中で守る人々を第一に考えねばならない。
 日本は交通網の信頼性では世界屈指。ハードインフラの充実とともに、近年は一棟貸しの古民家をはじめ、本棚の奥にベッドがあるカプセルホテルなど、ソフトインフラも多様に進化し、成長の芽はいたるところで芽吹いている。景観や町並みの保全と、経済的な収入がともに上昇カーブを描く制度設計は可能なはずだ。(ジャーナリスト・清野由美)
  ※AERA2019年8月5日号
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