¥37〉38〉─1─「カジノ解禁」でぼったくられる日本人。ギャンブル大国は必ず破綻する。〜No.197No.198No.199 

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 産経新聞IiRONNA 関連テーマ「「カジノ解禁」でぼったくられる日本人
 日本でもついにカジノが解禁される。そもそも刑法が禁じる賭博を例外的に「合法化」するという、かなり強引な理屈だが、解禁されれば経済効果も大きいらしい。ただ、ことがギャンブルだけに誰かが得をすれば、必ず損もする。むろん、巨大利権だって生む。とどのつまり、誰が一番儲かるんでしょうか。
 ギャンブル大国は必ず破綻する? 国民を欺くカジノ合法化の皮算用
 『鳥畑与一』
 鳥畑与一(静岡大学教授)
 衆院内閣委員会でわずか6時間の審議で「カジノ推進法」が可決された。国会会期内での成立を目指して6日には衆院本会議で可決される予定だという。良識の府である参院でのまっとうな議論を期待して「カジノ推進法」の質疑に対する疑問を述べたい。本稿では、 「統合型リゾート(IR)」の収益エンジンとして組み込まれたカジノをIR型カジノと呼ぶ。
 国際観光業推進にIR型カジノは必要か
 推進派は、国際観光業の発展にIR型カジノは欠かせないと言う。シンガポールでIR型カジノオープンを機に大きく外国人観光客が増大し観光収入も大きく伸びたことで、IR型カジノの絶大なる観光効果は証明済みだと言う。
 確かにリーマンショック等の影響で外国観光客を減少させたシンガポールは、2010年のIR型カジノのオープン効果もあって外国観光客等が大きく伸びた。しかし2013年以降はIR型カジノの不振と相まって外国人観光客等は停滞している。カジノ頼りの観光政策の脆さを早くも露呈させているのではないだろうか。
 一方で日本とシンガポールのボトム期から2015年までを比較すれば、日本の外国観光客の増加とその支出額は、シンガポールの実績をはるかに凌駕している(表1)。円安効果もあるが日本の文化と自然の魅力がビザ緩和等と相まって大きな競争力を発揮している。シンガポールこそ日本に学べと言うべき実績であり、東京オリンピックまでに外国観光客2000万人達成のためにIR型カジノが必要だという論理はすでに破綻済みなのである。そこで東京オリンピックまでに4000万人と目標を倍増させ、そのためにIR型カジノが必要だと論理の衣替えを行っているが、あまりにも恣意的ではないだろうか。
ギャンブル依存症対策は成功しているのか
 推進派は、シンガポールにおけるIR型カジノの経済効果はもとより、ギャンブル依存症対策の成功を大前提にして、日本でIR型カジノをオープンさせてもギャンブル依存症の発生を最小限に抑制できるとする。カジノ収益を基にしたギャンブル依存症対策を講じることでパチンコ等の既存ギャンブル産業による依存症も抑制できると言う。
 確かにシンガポールのNCPG(問題ギャンブル国家審議会)の2014年調査によれば、ギャンブル依存症率は大きく低下している(表2)。しかしそのデータを子細に見れば、カジノ参加率が7%から2%に大きく減少している。住民数に置き換えると26・5万人から7・7万人への減少となる。一方で「自己排除制度」でカジノ入場禁止措置を講じた人数は大きく増大している(本年9月には31・7万人)。住民にカジノをさせない政策が効果を発揮させている可能性が高いのである。さらに、上記調査の回答率が大きく減少しており、「隠す病気」と言われるギャンブル依存者が回答していない可能性も考えられる。
 ギャンブル依存症は時間をかけて発症してくるとされており、2010年オープンのカジノの負の影響を現時点で評価するのは早すぎる。それでも自己破産数が2011年の5232件から14年には7891件へ、そして犯罪件数も2013年以降増加傾向に転じ、とりわけ「詐欺横領(コマーシャルクライム)」が2012年の3507件から15年には8329件に異常な増大を示している。米国の1999年と2013年のギャンブル依存症率の比較を行った調査によれば、さまざまな対策にもかかわらず決して減少はしていない(表3-1)。さらにカジノに通いやすい環境にある住民の依存症率が高いこともあらためて確認されている(表3-2)。シンガポールギャンブル依存症対策の成功を結論付けるにはまだ早すぎるのである。
 経済効果にどのような根拠があるのか
 推進派は、1兆円規模の投資と巨大なIR施設運営を支える数千億円規模の収益がカジノによって実現するという。例えば関西経済同友会の構想では毎年5500億円(50億ドル)の収益を想定している。かつて香港の投資銀行は、東京と大阪でそれぞれ80億ドルのカジノ収益が生まれると煽り立てた。カジノ単体の構想が基本であったお台場カジノの収益予想は300億円であったので、IR型カジノに衣替えすることで桁違いのカジノ収益が実現するというのである。
 しかし、IR型カジノのモデルでもあるラスベガス・ストリップ地区の大型23カジノの収益合計(2015年)は53億ドルで平均2・3億ドルでしかない。例えば、米大手カジノ企業MGM(表4)のラスベガスを中心とする米国内12カジノの収益合計は27億ドル(平均2・2億ドル)でしかない。一方でマカオのMGMチャイナだけで最盛期(2013年)33億ドルの収益があったが、そのうち21億ドル(63%)はVIPからの収益である。マリナベイサンズの最盛期(2014年)は26億ドルであるが、やはり大半はVIP収益であった。
 米国内よりも一桁大きなカジノ収益をアジアで実現できるのは、中国富裕層(VIP)のおかげなのであり、普通の外国人観光客にちょっとカジノに寄ってもらうだけで、マカオシンガポールよりもさらに大きなカジノ収益を実現できると想定するのは極めて困難である。ところが国内候補地のカジノ収益推定の根拠は、通常の観光客数の推計を基にしたものでしかなく、どうやってアジアのVIP市場で競争力を発揮できるのかの説明は一切なされていない。
 推進派は、日本国内ではIR型カジノ数を制限するので過当競争にはならないというが、この肝心のアジアのVIP市場におけるIR型カジノ数を日本はコントロールできない。現にマカオのカジノ収益がVIP収益減少によって最盛期から4割減少したように、アジアのVIP市場は縮小局面に突入している。そこへ韓国のリゾート・ワールド・ジェジュをはじめ、IR型カジノの参入が相次いでいる。そこに周回遅れの日本が参入してどのような展望があるかについても願望しか語られていない。
 アトランティックシティーのカジノ産業は、最盛期の収益65億ドルから15年には35億ドルに半減し、12カジノ中5件が経営破たんに追い込まれているが、同じような過当競争に巻き込まれないという保証はどこにもないのである。
 IR型カジノは地域経済を活性化させるか
 外国観光客とりわけVIPが獲得できず国内客の比率が高まるほど、国内における購買力の移転でしかなくなり、日本経済の成長促進は幻想でしかなくなる。ましてや2012年以来148億ドルを株主に利益還元したと誇るラスベガス・サンズ等の外資がIR型カジノの運営を担った場合は、利益流出で日本の貧困格差を一層促進することになる。また周辺のマネーがIRに吸い込まれることで地域間の経済的格差や貧困が拡大し、犯罪誘発などの社会的被害が地域社会に負わされていく危険性が高まっていく。さらに高齢者の貯蓄等が狙われていく危険性が、米国の事例を見ても高い。
 推進派は、IRのなかでカジノの占める面積はほんの一部でしかなく、あくまで家族みんなが楽しめる統合型リゾートの建設であると言う。しかしシンガポールのIRでは収益の8割をカジノ収益が占めるように、収益構造の中心はカジノである。それも巨額の投資と巨大なIR運営を支えるために毎年数千億円の高収益を必要とするカジノであり、まさに国民のギャンブル漬けへの極めて強い経済的衝動をもつカジノなのである。
 大阪の夢洲構想では毎年6500万人の来客が想定されるが、うち82%は国内客とされている。ラスベガスでは、ギャンブル目的の客は10%でしかないが、平均3泊4日の滞在中に73%がギャンブルを経験するという。IR型カジノは、家族ぐるみで来訪させ、お父さんもお母さんもギャンブルを経験させることで、ギャンブル依存症になる可能性を国民全体に広げる危険性の高いカジノなのである。
 年間4000万人以上の来訪があり、IRモデルの成功例とされるラスベガス。しかし全体としてはリーマンショック以降赤字に転落したままである(表5)。巨額の投資のみが先行し、期待された収益が実現しないことで、経営破たんに追い込まれたリゾート開発の繰り返しになる危険性が高いのではないだろうか。そしてその時、収益優先のために国民のギャンブル漬けに拍車をかけるような依存症対策の形骸化が進められていく可能性が高いのではないだろうか。
 カジノの負の側面が明らかにされた「国家ギャンブル影響度調査」(1999年)以降、米国内で新たにカジノ合法化を進めようとする州政府は、カジノ解禁の経済的効果のみならず社会的コストの調査を行うことが一般化している。例えば、ニューハンプシャー州は地域によってはカジノのマイナス効果が上回る評価が出たことで議会では否決が続いている。
 このような経済的効果の真偽と社会的コストの調査もまったくされないまま、基本法と実施法を分離することでまともな議論を回避してカジノ合法化の道を突き進むことの是非が今国会に問われているのである。
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