🥓25〉─3─親が低年収だと、子は学力だけでなく運動能力も低くなる。~No.119No.120 ⑳ 

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   ・   ・   {東山道美濃国・百姓の次男・栗山正博}・  
 2022年1月24日 MicrosoftNews プレジデントオンライン「「親が低年収だと、子は学力だけでなく運動能力も低くなる」最新研究でわかった残酷な現実
 © PRESIDENT Online 出所=『子どものスポーツ格差 体力二極化の原因を問う』)p.77 表2-3-1
 親の収入や学歴は、子どもの運動能力と相関していることがわかってきた。筑波大学体育系教授の清水紀宏さんは「親の収入や学歴が低いほど、子どもの運動能力も低くなる傾向がある。こうしたスポーツ格差は深刻な問題になりつつある」という――。
 ※本稿は、清水紀宏編、春日晃章、中野貴博、鈴木宏哉『子どものスポーツ格差 体力二極化の原因を問う』(大修館書店)の一部を再編集したものです。
 学力が低い子どもは体力がない傾向にある
 ここからは、児童生徒及び保護者へのアンケート調査と体力・運動能力の測定データを関連づけて分析した結果を中心に紹介する中で、①スポーツ格差の存在(格差はあるのか)、②スポーツ格差の原因、③スポーツ格差が子どもたちに及ぼす影響などについて明らかにしていきたいと思います。
 お茶の水女子大学(2014)が文部科学省による平成25(2013)年度の全国学力・学習状況調査(ナショナルビッグデータ)と補完的に実施した保護者用調査のデータを結合させて、家庭背景による学力格差の状況を明らかにして以降、学力格差の存在はもはや揺るぎのない現実と認識されています。しかし、体力・運動能力のデータについては、未だ非公開のため体力や運動能力が子どもたちの家庭背景とどのように関係しているのかについては、未知のままです。
 しかし、特に近年になって体力と学力・認知機能との関係性に着目した研究が国内でも少しずつ進められています(東浦・紙上、2017)。
 例えば、春日らの研究グループは、スポーツ庁の全国体力・運動能力、運動習慣等調査と文部科学省全国学力・学習状況調査のデータを用いて体力と学力の関連性を分析し、小・中学生ともにすべての学力項目(国語の基礎・応用問題、算数・数学の基礎・応用問題及び学力合計)と体力合計点との間に有意な関連(0.1%水準)が認められることを2019年開催の日本体育学会第70回大会において発表しました。
 このように国内外の研究成果ともに、体力と学力が有意に関係していることを明らかにした研究が多くなっています(ただし、完全に見解が一致しているわけではありません)。
 そこで、本調査の対象者にも同様の関連が見られるのかを分析した結果が図表1、図表2になります。
 今回の調査では既述の通り、学力テストの実測値を取得しませんでしたので、児童生徒自身によるによる学力の自己評定を「上の方」から「下の方」までの5件法で回答してもらった結果を使用しました。
 学力の段階別に体力得点を比較(一要因分散分析)したところ、小学校高学年では、握力とボール投げを除くすべてのテスト種目で、中学生では握力を除くすべての種目で有意な関連が認められました(特に、反復横跳びとシャトルランは学力と関連が強い)。
 体力が向上すれば学力も向上するという研究もある
 また、小学校高学年よりも中学生において、学力の高低による体力差は拡大していました(特に学力低位の生徒の体力が低い)。このことから、学力の低い子どもは体力・運動能力も低い傾向があること、また、この傾向は学年が進むにつれて顕著になる傾向にあることが明らかとなりした。
 先行研究では、学力と体力の因果関係(どちらが原因でどちらが結果か)についても検証が進んでいます。日本の子どもを対象にした縦断的研究では、運動部に所属して体力が高まると学業成績が向上し、運動部を途中退部すると学業成績が下がったことから、運動することが体力を高めるだけでなく、体力の変化が学力の変化を引き起こす要因であると考えられています(石原、2020)。
 今回の分析結果と先行研究の成果を踏まえると、教育関係者が関心を寄せる学力問題(学力低下や学力格差)の改善に向けた一方策として、体力低下傾向に歯止めをかけ、体力・運動能力の二極化傾向を改善することが有効だといえるのではないかと考えます。
 つまり、体力問題への対応が、同時に学力問題の解決につながっていくということです。
 子どもにとってスポーツはどれほど重要なのか
 本稿では、スポーツ格差すなわち家庭の社会経済的条件(所得・学歴・職業)による運動・スポーツ機会への参加及び体力・運動能力等の不平等な差異に焦点を当て、これを問題視するスタンスをとっています。
 しかしながら、現代の子どもたちにとって「スポーツをすること」や、「スポーツができること」が、彼・彼女らの日々の生活の中でとるに足らない些細なことなのであれば、いかに格差が明らかになったとしてもさほど大きな社会問題とはなり得ないでしょう。そこでここでは、親と子どもの双方の立場から調査した結果をもとに、現代の子どもにとってスポーツがどれほど重要なのか、について検討してみましょう。
 まず、親に対しては、次のような調査を行いました(*1)。子どもたちが生活の中でよく利用・使用する26項目の「モノ」や「コトガラ」を挙げ、これら各々について、「小学6年生の子どもが普通に生活するために次のことがらはどのくらい必要だと思いますか」と質問し、「絶対に必要」から「全く必要でない」までの5件法で回答を得ました。
 全データ(幼児の保護者から中学生の保護者まで)を用いた集計の結果は図表3に示す通りです(ちなみに親の生活必需品意識について、子どもの学年による差はほとんど見られませんでした)。
 全26項目の中で、最も必需品意識が高かったのは、「1.毎日の朝ご飯を食べること(5点満点中4.88)」であり、最も低かったのは、「スマートフォンタブレット(2.08)」でした。
 (*1)調査の企画にあたっては、阿部(2008)による「子どもの生活必需品に関する合意基準アプローチ」を参考にした。
 親は子どもが運動できる状況になることを重要視している
 次に、各項目に対する必要度の高さに着目してみると、子どもの生活財は、以下のように五つの層に分類できるのではないかと考えます。(図表4)。
①「最低限の生活必需財」:毎日の朝ごはんや手作りの夕食、学校行事への参加のように50%以上の親が「絶対に必要」と回答した生活財
②「生活必需財」:病院に行くこと、子ども用の本など、50%以上が「絶対に必要」「かなり必要」のいずれかに回答した生活財
③「生活必要財」:誕生日プレゼント、お年玉、大学までの教育など、70%以上が「必要」と回答した生活財
④「中間財」:生活必要財と贅沢財の中間的な位置づけのもの
⑤「贅沢財」:携帯用ゲーム機やおもちゃなど50%以上が「必要ない」と回答したもの
 ところで、調査26項目の中にスポーツにかかわる項目が7項目含まれていました。それらの項目が五つの層の中のどこに位置づいているかを確認してみると、「12.友だちとスポーツをすること」「18.運動遊びができる公園」「20.好きな運動やスポーツ活動をすること」は、「3.病院へ行くこと」等と並んで②生活必需財に属しており、また、「13.スポーツや運動をならうこと」や「23.親子での運動遊び」は、「5.誕生日プレゼント」などを含む③生活必要財に属していることがわかりました。
 これらの結果から、現在の親にとって子どもが運動・スポーツ活動をできる状況にすることはかなり必要度の高いことであるととらえられているようです。
 スポーツ格差はスクールカーストに影響する
 次に、子ども側(小学校高学年及び中学生)に対しては、「あなたのクラスで“人気者(みんなから尊敬されたり好かれる人)”になるには、次のことがどのくらい重要ですか」と質問し、提示した10項目についてその重要さの程度を「とても重要」から「まったく重要ではない」までの4件法で回答してもらいました(図表5は小学校高学年の結果)。
 その結果、「運動やスポーツができること、うまいこと」は、小学校高学年男子では「クラスをまとめられること」と並んで1位、女子でも「クラスをまとめられること」に次いで2位、中学校男子では3位、中学校女子でも4位であり、子どもたちにとってスポーツはクラスの中での相対的な位置(スクールカースト)を決める重要なファクターであると思われます。
 以上のことから、現代の子どもたちにとってスポーツは、親のサイドからも子どもたち自身にとっても生活上かなり重要なポジションを占めているものと推察されます。
 よって、スポーツが何らかの理由でできないとすればそれは一種の社会的な剥奪状態にあると見ることができるでしょうし、彼・彼女らの選択の余地のない家庭の社会経済的条件等によるスポーツ格差は当事者たちにとってもやはり重大な問題だといえるのではないでしょうか。
 中学年以下の小学生は、親の年収と体力が比例している
 続いて、家庭の社会経済的条件による体力の格差(結果の不平等)を検証します。
 まずは家庭の経済的条件に焦点を当てます。図表6と図表7は世帯収入別、図表8と図表9は学校外スポーツへの投資額別に体力総合点を比較したものです〔世帯収入及び学校外スポーツ費(月別支出額)については、回答の分布状況に基づいてカテゴライズしました〕。
 まず世帯収入については、高学年を除く学年段階において、体力総合点に有意な差が認められました。特に低学年と中学年の段階において、世帯収入の違いによる体力の差、すなわち低収入家庭の児童よりも高収入家庭の児童の方が体力総合得点は高いという傾向が顕著です(なぜ高学年で有意差が確認されなかったのかについては、さらなる検証が必要です)。
 また、学年進行に伴う一貫した傾向は見られませんでしたが、年収400万円未満の家庭の子どもが、高所得家庭のグループに比べて明らかに体力が低いということは共通しています。
 幼児期からのスポーツ投資が子どもの体力を左右する
 次に、学校外スポーツへの支出額別に体力総合点を比較した結果を見てください。図表8、図表9に示すように、幼児期から中学生までの各学年段階において、いずれも有意な差が認められました。
 特に、学校外のスポーツ活動に「ほとんど支出なし」の児童とその他の児童生徒との間に大きな体力差があること、また、「月に1万円以上」をスポーツに支出している子どもとの体力格差は、学年進行に伴って大きくなっていくことが明らかとなりました。
 このことから、幼少期から家庭におけるスポーツ投資の成果が年齢とともに蓄積され、中学校期には大きな格差となって現れるのではないかと考えられます。
 図表10は、家庭によるスポーツ投資の違いがどのような体力要素と関連があるのかを検討するため、体力テストの項目別に学校外スポーツへの投資額との関連を分析した結果を示したものです。
 この結果から、①「シャトルラン」「50m走」のように投資額の違いが顕著に認められる(格差が生じやすい)ものと格差が生じにくい体力要素があること、②しかし、多くのテスト項目において、スポーツ投資額の違いによる体力格差は学年が上がるにつれて拡大し、中学校段階では、ほとんどのテスト項目で極めて大きな体力差となってしまっていることが明らかとなりました(紙面の関係上、男子のみの結果を記載しましたが、女子にもほぼ同様の傾向が見られました)。
 特に、学校外スポーツへの投資による体力格差が大きくなるのは、男女ともに小学校中学年であるようです。そこで、3年生と4年生に分けてさらに分析してみたところ、4年生が体力格差の拡大期であることが明らかとなりました。
 中学生以降の子どもの体力は親の学歴に比例する
 次に、家庭の社会経済的条件の中で親の学歴(文化資本)及び職業と子どもの体力・運動能力との関連について検討します。図表11は、中学生のデータを用いて父母の学歴別(大卒以上、短大・高専・専門学校卒、高卒の三分類)に体力の総合点を比較したものです。
 幼児及び小学生については、両親の学歴による体力の有意な差は認められませんでしたが、中学生では父・母ともに学歴の高い親の方が低い親の子どもよりも体力が総合的に高い傾向が見られました。他方、両親の職業については、今回の調査データからは顕著な体力差は確認されませんでした。
 保護者に友達が多いほど子どもの体力は向上する
 続いて、親の社会関係資本と子どもの体力の関連について検討します。社会関係資本ソーシャル・キャピタル)は、近年、健康格差にかかわる研究分野で特に注目をされている概念です。
 そこでは、地域の人々との交流・つきあいや組織・団体への参加を通じて形成された、人々への信頼やパーソナルネットワーク、そして地域における互酬性の規範などが蓄積されている個人や社会の方が健康によい行動をとる傾向があることがわかってきています。要するに、人々の間の社会関係が良好であること、また、他者とのネットワークが広く親密であることなどが健康によい影響を与えるということです。
 そこで、保護者用調査の質問項目に含まれていた「子育てや子どもの教育について相談できる知人・友人」の数(「たくさんいる」「ある程度いる」「いない」の3件法で回答)を親の社会関係資本を測る変数ととらえ、これと子どもの体力との関連を分析してみました。
 図表12によれば、小学校低学年の段階から、豊かな社会関係資本をもつ親の児童の方が社会関係資本をもたない親の児童に比べて、体力総合点は有意に高くなっていました。また、その格差は、小学校高学年・中学生へと上がるにつれて拡がる傾向が見られます。
 以上のことから、子どもの体力・運動能力は、家庭の経済資本だけでなく、学歴のような文化資本社会関係資本の影響も受けていることがわかります。

                    • 清水 紀宏(しみず・のりひろ) 筑波大学体育系教授 1961年静岡県生まれ。専門分野はスポーツ経営学。一般社団法人日本体育・スポーツ・健康学会副会長、日本スポーツ体育健康科学学術連合運営委員長、日本体育・スポーツ経営学会副会長。著書に『子どものスポーツ格差 体力二極化の原因を問う』(大修館書店)、編著に『よくわかるスポーツマネジメント』(ミネルヴァ書房)などがある。 ----------」

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