¥7〉─1─日本経済は「ケチと出血受注・激安販売・人件費削減」であった。~No.22No.23No.24 ③ 

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 人口爆発は消費増・生産増であり、人口激減は消費減・生産減である。
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 2022年3月10日号 週刊新潮「なぜ日本だけ30年も賃金が上がらないのか
 『安いニッポン』の真因
♦『安さ=正義』
♦労働者の7割は『中小零細企業
♦『値上げヘイト』狂騒曲
♦『ビックマック』も『賃金』も韓国より安い
 ねじり鉢巻きで賃上げを叫んでみても、今や韓国に抜かれた『安い賃金』は大して変わりそうもない。だが、それは商品の値上げを許さず、激安を求め続けてきた日本人自らが招いた必然の帰納とも言えるのだ。因果は巡る・・・。『安いニッポン』の真因に迫る。
 窪田順生
 スーパーの食肉売り場で女性客たちが、鶏ムネ肉の1.4キロジャンボパックを手にして盛り上がっている。
 『こんなに入って602円って安すぎじゃない?』
 『100グラム43円だもんね。普通のスーパーでは100グラム約80円だからほぼ半額!』
 『すごーい!』
 日本のどこでも見られる庶民の日常会話──ではなく、実はこれは先日、全国ネットでゴールデンタイムに放送された、ある情報バラエティ番組の一コマ。この後も通販番組のような激安食材の紹介が延々と続く。
 今、テレビではこんな『激安ネタ』を毎日のように公共の電波で垂れ流している。例えば、1月20日に放送された『うら撮っちゃいました』(テレビ朝日系)の番組内容は、スーパーの折り込みチラシも真っ青の売り文句が並ぶ。
 《〝税抜き10円〟商品だらけのスーパーに〝1円唐揚げ〟、〝100円焼肉〟、激安〝超デカ盛り弁当〟など・・・サービスのウラ側にあるお店の思いにも迫る!》(番組公式ホームページ)
 なぜここまで視聴者に『激安』の押し売りをするのかというと、このテーマがテレビマンたちにとっれも『コスパがいい』からだ。
 『これまで、動物と子どもを流しておけば数字(視聴率)が取れるというセオリーがあったが、最近はここに〝激安〟が加わっている。特に安くてボリューム満点の飲食店を流していけばまず大コケしない』(キー局ディレクター)
 ……『青果軍』『日配軍』と呼び『赤字上等』等のテロップをつけて大ハシャギで安売り対決を煽っている。
 一見すると、これらの番組は庶民生活に寄り添っているように感じるだろう。しかし、実は『安いニッポン』を悪化させて、庶民をさらに苦境に追いやる罪深い番組とも言えるのだ。
 一昨年、ワイドショーやニュースが『SNSでトイレットペーパーが不足するというデマが流れています』と報じたところ、そのデマの存在すら知らなかった消費者が、スーパーやドラッグストアに大挙して押し寄せ、買い占め騒動が起きた。このように、今なおテレビは大衆の消費行動に強い影響を及ぼすことがわかっている。
 つまり、今のように朝から晩まで『激安』に大喜びして、称賛するような番組が大量に流されると、消費者の頭の中に『安さ=正義』という価値観が強烈に刷り込まれる。そして、少しでも割高と感じる商品やサービスを提供するメーカーや店に激しい憎悪を募らせて、徹底的に糾弾する『値上げヘイト』が横行してしまう。この結果、日本最大の課題『デフレ脱却』はさらに遠のき、庶民はより貧しくなっていくという構図の出来上がりだ。
 要は『ケチ』
 『値上げヘイト』の盛り上がりは既に日本のあちこちで見えてきている。例えば、マクドナルド(以下、マック)は2019年にメニューの約3割で10円の値上がりをしているが、一部の消費者からネット掲示板やSNSで叩かれている。
 《いつからマックは高級路線になったんや・・・》
 《昔250円ぐらいだったダブチーが今だと340円もするんだな チーズバーガーも140円やし ぼったくりすぎだろ》
 『十分安いじゃんか』と思うむきもあるが、叩く側のロジックのひとつとして『昔はもっと安かった』というものがある。
 1971年、日本に上陸したマックのハンバーガーは当初、着々と値上げをして210円にまでなったが、バブル崩壊後に低価格路線へと舵を切り、2000年にはなんと65円まで値下げして若者などから絶大な支持を受けた。
 が、この『激安』アピールが『負の遺産』としてマックを苦しめ続ける。02年2月に80円に値上げをしたところ『高すぎる』と客が離れて売上高が激減し、半年後に『59円』にまで下げた。そんな『激安バーガー』時代のイメージを引きずる消費者からすれば、100円であっても『割高』なのだ。
 それに加えて、日本では、『値上げは企業努力で回避するのが当たり前』という風潮がある。先日、スナック菓子『うまい棒』が10円から12円に値上げ発表されたことを受けて、発売から42年間も10円という価格を維持していたことが美談として語られたことからもわかるように、日本人にとって『安売り』をしない企業は『不誠実』なのだ。
 もちろん、庶民が食品や生活必需品に『安さ』を求めるというのは、万国共通の現象だ。が、日本はちょっと度が過ぎてしまっている感が否めない。
 イギリスのエコノミスト誌が発表している世界各国のビックマックの価格を比較した『ビックマック指数』というものがある。その今年2月の最新データ(今年1月時点のドル115.23円で換算)を見ると、アメリカのビックマックは5.81ドル、イギリスは4.82ドル、中国は3,83ドル、韓国は3.82ドルとなっているのに対して日本は3.38ドル。一部消費者から『ぼったくり』と叩かれる日本のマックは、実は外国人にとって、『激安グルメ』なのだ。
 この『内外格差』は外食以外も同様だ。例えば、ディズニーランドも昨年10月1日に、ワンデーパスポートを8,200~8,700円から、7,900~9,400円に変更したことを受けて、『値上げヘイト』のターゲットになっている。『あんなに混雑していて高すぎる』『もう行きません』などとネットで叩かれているのだ。
 ただ、マック同様、実は日本のディズニーランドは世界で最安値。フロリダや上海、パリなどでは需要に応じて価格が変動する『ダイナミック・プライシング』という制度を導入しているので一律ではないが、閑散期でも1万円を上回ることが多いのだ。実際、中国やアジアの訪日客の中には、『世界一コスパのいいディズニーランド』を目当てにしている人たちもいる。
 そこで気になるのは、なぜ『日本だけが安いのか』ということだろう。
 エコノミストや経済評論家の説明では、『日本が円安政策をとってきた弊害』『デフレが悪い』となることが多いが、実は本質的なとこれは、我々日本人が他国の人々よりも異常なほど『値上げ』を嫌い、『安さ』を執拗に追い求めているということが大きい。要は『ケチ』なのだ。
 赤字覚悟の『出血受注』
 『物価』を研究している東京大学・渡辺努教授の『物価とは何か』(講談社選書メチエ)によれば、米国、英国、カナダ、ドイツの消費者と、日本の消費者に対して『いつもの店である商品の値段が10%上がっていた場合にどうするか』と尋ねたところ、日本以外の国の消費者は値上がりしても、やむなしと受け止め、高くなった商品を買うという答えが多かった。原材料の価格が上がったり人件費などが上がればしょうがないと、値上がりを受け入れるのだ。しかし、日本人の消費者の回答だけはそれらと対照的で、『その店で買うのをやめて他店でその商品を買う』『その店でその商品を買う量を減らす』が多く支持された。この結果を受けて、同書では、『値上げを断固拒絶するのは日本の消費者だけ』と結論づけている。
 では、なぜ日本人だけが『値上げ』に不寛容なのか。この答えは単純明快で、それらの国の人々よりも『貧しい』からだ。
 経済協力開発機構OECD)のデータでも米国や英国が1990年から実質賃金を40%超の割合で上げているところ、日本はわずか4%しか上がっていない。また、2020年の主要国の平均賃金(年収)を見てみると、1ドル110円とした場合の日本の平均賃金は424万円。35ヵ国中22位で、1位の米国(763万円)と339万円も差がある。
 韓国もかつては日本より低賃金だったが、1990年から30年で1.9倍と順調に値上げし、ついに日本を15年に抜いて、現在は日本より平均年収が38万円ほど高い。まさしく『後から来たのに追い越され』である。
 では、この世界の常識に逆らう、『異次元の低賃金』はなぜ引き起こされてしまったのか。それは賃金を支払う側、つまりは企業が様々な言い訳を並べて賃上げしないせいである──そう聞くと、『大企業が内部留保を溜め込んでいるからだ』『政府が財政出動を支援していないからだ』という話になるがちだが、実はそれらはあまり関係ない。『中小企業白書2021』によれば、日本企業の中で大企業の割合はわずか0.3%(1.1万社)に過ぎない。99.7%(357万社)を占めて国内の従業員の約7割(3,220万人)を雇っているのは中小企業である。
 つまり、大企業が内部留保を吐き出して賃金に還元したところで、それはたかだか3割の話ということだ。圧倒的大多数が働く中小企業の賃金を上げないと、日本全体の賃金は絶対に上がらない。裏を返せば、日本が30年ほど賃金が上がっていないのは、中小企業の賃金がこの30年上がっていないからなのだ。
 また、国が惜しみなくカネをバラまけば賃金が上がるという単純な話でもない。日本では中小企業に対する『ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金』をはじめとして手厚い産業支援がなされてきた。受け取れる額は条件によってさまざまだが、1,000万円以上となるケースも少なくない。しかし、厳然たる事実として、賃金はほとんど上がっていない。
 では、大企業や政府支援の不足のせいでなければ、なぜ『低賃金』なのかといえば、産業構造による悪影響が大きい。それは一言で言ってしまうと、『安売り競争を強いられる零細企業で働く人が圧倒的に多い』ということである。
 日本企業の99.7%を占める中小企業のうち小規模事業者(製造業は従業員20人以下、卸売業・小売業・サービス業は従業員5人以下)が全体の約85%を占める。つまり、日本企業の9割近くは、家族経営や社員が2~3人といういわゆる『零細企業』であり、それじれの産業内でその小さな会社が厳しい生存競争を繰り広げている、というのが日本経済の実態なのだ。
 では、そうした環境で中小零細企業が、競合する企業と競り勝って仕事を受注するにはどうすればいいのかというと、『ダンピング』しかない。とにかく仕事を受けるために、赤字覚悟で価格を下げるという、いわゆる『出血受注』をしていくのだ。
 もちろん、『下町ロケット』に登場するような唯一無二の技術を持つ町工場ならばそんな必要がないが、そういうった企業はほんの一握り。一般の中小零細は『よそより安く請け負います』『もっと勉強します』と赤字覚悟で仕事を取りにいくしかない。
 なにせこれまで見てきたように、日本は先進国のなかでもトップレベルの『値上げ』を嫌う民族である。建設業や製造業などはなおさらだ。下請け、孫請け、ひ孫請けという多重請負構造で下部にいくほど買い叩かれるので、『出血受注』が常態化している。
 無間地獄
 この問題の根深さは、『出血受注』という言葉自体が雄弁に語っている。これは朝鮮戦争特需で、とにかく仕事を請けたい企業が始めたものであり、当時、国会で取り上げられほど注目を集めた。この時に、日本人の頭に、『商売とは赤字覚悟で値下げすること』という常識が強烈に刷り込まれ、やがて高度経済成長期になると、スーパーなどの安売りで使われる『出血サービス』という言葉とともにその常識が定着していく。つまり、よく言われる日本の奇跡的な戦後復興は『赤字覚悟の安売りカルチャー』が原動力になった側面もあるのだ。
 ただ、この『出血受注』は中小零細企業で働く3,220万人という従業者にとって、かなり深刻だ。
 中小零細が受注のために『血』を流すとしたら、具体的にそれは何か。原材料費や輸送費を圧縮するといっても、会社の規模的に限界がある。となると、削れる固定費はあそこしかない。そう、人件費だ。日本人の賃金が30年以上もまったく上がらないのは、デフレや経済の停滞もさることながら、日本企業の約9割を占める中小零細企業が、赤字覚悟の『出血受注』を強いられている、という産業構造によるところも大きいのだ。
 さて、ここまでの〝負の連鎖〟をたどっていけば、『激安大国ニッポン』の実像が朧(おぼろ)げながら見えてきたのではないか。
 『激安グルメ』を愛し、『激安スーパー』を称賛して、『もっと安く!』『もっとお得に!』と値下げに踏み切るよう企業を鼓舞しているが、それがまわりまわって、自分たちの賃金までも『激安』にしてしまっている。給料が上がらないので、消費者は『もっと安いものを』と激安への依存を強よめる。企業側は『出血受注』を続けていつまでたっても賃上げができないので、労働者(=消費者)はどんどん貧しくなっていく。今の日本人は『安さの無間地獄』ともいえる悪循環の真っ只中にいるのだ。
 もちろん、これはあくまで日本人にとっての話なので、外国人からすれば全く別の見方になる。わかりやすいのがアニメだ。日本のアニメは世界的に高い評価を受けているが、その品質を支えるアニメーターが今、続々と中国のアニメ会社へ転職している。一般社社団法人日本アニメーター・演出協会の19年の調査では、アニメーション制作者の平均年収は440万円で正社員は14%に過ぎず、新人アニメーターが従事する『動画職』にいたっては平均年収125万円。一方、『日本経済新聞』(21年6月25日)によれば今、中国では『2年以上の3Dアニメ製作経験者』は日本円で月収34万~68万円で募集されている。中国のアニメ会社からすれば、優秀な技術者を、低賃金で買い叩いている日本は『激安天国』なのだ。
 今、デフレ脱却を掲げる岸田政権が様々な施策を表明しているが、これまで述べたような産業構造にまで手をつけようなものではないため、残念ながら『安いニッポン』はまだ続く。ただ、何よりも問題なのは、ほとんどの日本人がこの『地獄』にいることにそれほど危機感を抱いておらず、『こんな住みやすい国はない』などと喜んでいることだろう。『地獄も住み家』のことわざ通りだ。
 今日もどこかのテレビ局が『激安ネタ』を放送している。国民がそれに飛びつくことで、自分たちの賃金をさらに安くしていく。そして叫ぶ。『生活できないからもっと安くせよ』──。
 そんな『安さの無間地獄』で感じる我々の幸福は、夢か現か幻か。令和の世の悩みは深い。」
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 日本の低賃金の原因は、中小零細企業が赤字覚悟の受注を強いられているからである。
 戦後復興や高度経済成長の原動力となった安売り攻勢は、人生50年時代の若者が多く老人が少ない人口爆発が支えていた。
 人口爆発とは、上昇志向の強い野心的な貪欲・強欲な持った若い消費者の急増を意味し、大量生産と大量消費そして物を粗末にする飽食の社会を生み出す。
 人口爆発による浪費社会では、未来は限りなく明るく広がり、夢と希望が将来には満ちていた。
 そして、人生100年時代にして少子高齢化の人口激減で起きるのは、老人が多く若者が少ない暗い未来である。
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 政府が指導した現代カルチャーによる官製クールジャパン戦略は予想通り失敗し、その結果、世界に発信できる日本文化は昔の日本民族が数百年・数千年かけて生み出し長い年月かけて育て来た伝統芸能・芸術文化しかなく。
 が、現代日本人には民族的な歴史力・文化力・伝統力・宗教力はない。
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