¥3〉─3─「制御不能な円安」日本企業と家庭にもたらす負担。~No.8 

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 2022年4月22日 MicrosoftNews 東洋経済オンライン「「制御不能な円安」日本企業と家庭にもたらす負担 大規模な介入があっても下落は止まらない
リチャード・カッツ
 © 東洋経済オンライン アナリスト間では、年内1ドル=130円に達するという予測も(写真:Kiyoshi Ota/Bloomberg
 4月11日に円が20年ぶりの円安水準である1ドル=125円に達した時、アナリストの大半は年末までに130円まで円安が進むだろうと答えた。実際にはたった9日後の4月20日には129円に。円安がどれくらいの速さで、どこまで進み続けるか、またその過程でどれくらい上下するかは定かではない。市場は直線には進まないものだからだ。
 制御不能な円からの逃避が起こるのではないかという不安は、特に参議選が数カ月先に迫っていることもあり、日本政府に警鐘を鳴らしている。すでに、円安が130円まで進んだ場合は財務省による為替介入があるのではないかとの報道も出ている。円安が125円まで進んだ時点でもそのような話が出ていた。
 財務相による異例のコメント
 今までのところ、鈴木俊一財務相は口先介入を試みている。下落の速度が速すぎるという通常のコメントに今やとどまらず、円安の程度が行き過ぎているという異例のコメントを述べるに至っている。
 「企業がまだ十分に価格や賃金を上げていない現在のような状況においては、円安は望ましくない。はっきり言えばこれは悪い円安だ」と鈴木財務相は述べた。円安は日本にとって「全体としてはプラス」だと主張し続けている黒田東彦日銀総裁までもが、今や下落の速度が「急速」すぎると言っている。
 エコノミストはますます黒田総裁ではなく鈴木相の側に付いている。十倉雅和経団連会長は論争に加わってこう述べている。「過去の円安局面においては貿易収支も経常収支も経済もよかったが、現在はそれほど単純ではない」。
 昨年12月に東京商工リサーチが7000企業を対象に実施した聞き取り調査によると、30%近くがこのような円安は経営にマイナスだと回答しており、プラスだとしたのは5%だけであった。円安がマイナスだとした回答者によると、平均107円が最適な円相場だとのことである。
 財務省にできる持続的な効果を持つ対策はほとんどないのが現実だ。為替介入は、為替の動きがファンダメンタルズから大きく乖離したモメンタムを得ている場合のみ効果がある。
 そして実際に、円安が進むペースがあるべき水準を大きく越しているということであれば、協調介入は少なくともしばらくの間はモメンタムを止めるか、場合によってはある程度逆転させることが可能になるかもしれない。
 アメリカ政府が日本政府の対策を支援すればその可能性は高まる。しかし実際には、現在の円安は経済のファンダメンタルズを反映しており、こうした場合は、介入には一時的な効果しかない。
 大規模介入ははっきり言って無意味
 最近の大規模な介入について考えてみよう。2003年1月から2004年3月の間に、財務省は35兆円(2003年の円ドルレートで3200億ドル)という巨額の資金を投入した。これは15カ月分の経常黒字合計の1.7倍の額であった。財務省円高を阻止しようとしていたのだ。しかし、介入後の円は介入開始時より9%高くなった。財務省は通貨投機家を儲けさせただけに終わったのである。
 円の下落の背景にあるファンダメンタルな要因は、アメリカと他のほとんどの国がインフレ対策として金利を上げている一方、日本では日銀が金利を上げないことに固執しているという事実である。
 その結果、債券投資家は日本の債券からアメリカの債券に資金を移すことで利益を得ることができる。それが行われると、需要と供給の法則により円安が進むのである。これを悟った為替トレーダーが円安圧力を高めることになる。
 10年米国債と日本国債金利差が1.3%しかなかった9月には、1ドル110円だった。金利差が2.6%に広がった4月19日には、1ドル129円に突入した。実際、2020年初頭以来、円ドルレートと10年国債の日米金利差の間に84%という極端に高い相関が見られる(図を参照)。
 アメリ連邦準備制度理事会は今年中に6回も金利を上げることを発表しているため、投資家は金利差がさらに広がることを知っており、先手を打って円から逃避しているのだ。
 黒田総裁が金利に関する立場を変えるならばある程度の影響があるだろうが、彼はそうしないと断言している。それどころか、日銀は無制限の資金を投入して10年日本国債金利を0.25%以下に維持するとしている。これは、円安が好ましいという考えのためだけではなく、日本が持続的な2%インフレを達成するまでは金利を上げないという誓いのためでもある。
 円安は輸出を促進するという幻想
 為替レートが弱すぎると、強すぎる場合と同様に、国に損害を与える。1ドル=129円はあまりにも弱すぎて全体として国益にならない。
 円安は輸出を促進することによって経済の需要を高めるため全体としては国益となると日銀は主張している。それがひいては生産や投資や雇用を促進するというのだ。このプラスの影響は、消費者が輸入品により高いお金を払わなければならないというマイナスの影響を上回るというのが日銀の見解である。
 ある程度の為替レートの場合はその通りであろう。安倍晋三元首相の任期の最初の4年間には、政府が進みすぎた円高を修正しており、その結果として輸出が促進されると市場は信じていた。そう信じられたことにより円安が進行した。円安が1円進む度に日経平均株価が221円上昇した。
 しかし、最初の4年間が終わった後はその連携は続かなかった。実際、現在では市場は反対の反応を示している。3月30日から4月20日の間、円安が4%進み、日経平均株価も同様に下落したのだ。
 この違いは何に起因するのであろうか。
 第1の原因は、円安が過去と同程度には輸出を促進しなくなったことだ。多くの企業が生産拠点を海外に移していることがその理由の1つである。近年、日本の自動車の3分の2は海外で生産されている。日銀の調査によると、海外生産の多い産業はそれが少ない産業と比較して、1%の円安から受ける輸出促進の恩恵が少ないという。
 「プレミアム感」なくなった日本の電機
 第2の原因は、生産拠点が国内か海外かにかかわらず、日本の電機・機械メーカーの多くがかつての競争力を失っていることである。2008年から2020年の間、世界の電機機器の市場規模は40%上昇したにもかかわらず、日本の電気機器メーカー上位10社のすべてが、世界においては売り上げが停滞している。
 さらに悪いことに、日本の電機メーカーの総売上は30%も下がっている。(自動車以外の)機械セクターでの世界輸出における日本のシェアは、1991年にはアメリカやドイツよりも大きかったのが、2018年にはその2国より小さくなってしまった。この期間に円安が進行したにもかかわらず、そうなってしまったのである。
 結果、かつては優れているという評判によりプレミアム価格を設定することができた日本企業が、今や価格を下げることでシェアを奪い合わなければならない状況に陥った。しかも、ますます大きく価格を下げなければならなくなってきている。
 前述の日銀による調査では2700種類の製品を調べており、2002年から2010年の間では円安に振れた時には86%の製品の売り上げが増加していたことがわかった。2011年から2019年の間ではその割合が72%にまで低下している。残り28%に関してはむしろ、円安はエネルギーや原材料などの不可欠な輸入品の価格を上げることにより輸出に不利に働いた。
 もう少し詳しく見てみよう。10%の円安は製品の売上数を20%上げるだろうか、10%だろうか、それとも5%だけだろうか。
 ほとんどの製品に関しては、円安による促進の程度は、2011年から2019年の間にはその10年前と比較してかなり小さかった。そして、円安が輸出に不利に働いた28%の製品に関しては、円安による売り上げ減少幅は10年前よりひどくなっていたのだ。
 結論としては、日本の輸出業者は鎮痛剤依存者に似ている。同じ効果を得るためだけにますます多量の服用が必要になっていき、その間にも基礎となる健康が損なわれていくのだ。
 輸入への影響、あるいはその欠如
 教科書が教えるところによると、通貨の下落は輸入品の価格を上げることによりGDPをその分上昇させる。これにより、消費者も企業も輸入品の代わりに国内で生産された同じ製品を買うようになる。日本の輸入の構造を見てみると、この理屈が日本の場合には該当しないことがわかる。
 まず、日本の輸入品の約40%は鉱物性燃料や食料や原材料などの品目であるが、それらには国内での代替品がほとんど、あるいは、まったくない。しかも価格が変わっても、国が必要とする食料や石油や鉄鉱石の量はほとんど変わらない。
 円安の唯一の帰結として、日本の企業や家庭は海外の生産者からより高い価格でモノを買わなければならなくなる。これらの商品に関しては、円安は単に収益を日本から海外へと移動させるだけなのである。
 輸入に頼っている食料品をより高い価格で買わなければならないことが、1980年代半ば以来、日本の家庭における食費の割合が増えている理由の1つである。そのためにほかの商品に使う金が少なくなってしまう。食料品に費やす割合は国の発展を示す古典的な尺度である。
 残りの60%の輸入品に関してはどうだろうか。それらはほとんど、化学物質から機械、さまざまな工業部品や玩具に至る工業製品である。結局のところ、これらの製品の60%は海外企業製ではないものの、日本企業の海外支社が生産している。
 例えば、パナソニックのタイ工場で生産された電池や、マレーシア工場で生産されたエアコンといったものだ。ほとんどの企業は、海外で生産している製品と同じ製品、あるいは少なくとも同じモデルは国内では生産さえしていない。
 これら2つの要因の結果、円安になっても日本は多かれ少なかれ、同じ量の輸入品を購入し、より多く支払うことになるのである。
 より多く払って、より少なくしか得られない
 あなたが仕立屋だとして、自分の製品を地元の食料品店を相手に交換しているとしよう。店の人が、よその町の新しい仕立屋はもっといい仕事をするから、あなたのドレス1着と交換する食料品をこれまでの半分だけにすると言ったとする。
 半分しかもらえなくても、まったくもらえないよりはましだ、という理由であなたはその取引に応じるかもしれない。しかし条件は以前より悪くなる。
 円安はこれに似ている。トヨタの自動車を輸出する度に日本がもらえる食料品が減ってきているのだ。トヨタにとってはいいかもしれないが、日本の消費者にとっては好ましくない。それでも円安によりトヨタの輸出が増加し雇用が促進され賃金も上昇するなら、利益がコストを上回るかもしれない。
 しかし、現在の日本ではそれは起こっていない。いかなる経済取引においても利益とコストの両方が常に存在している。かなりの円安のため、利益がもはやコストに見合っていないのだ。」
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