¥3〉─4・A─異常な円安で死ぬ会社と死なない会社。~No.9  

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 2022年7月4日 MicrosoftNews 現代ビジネス「1ドル=136円…なぜ「異常な円安」は止まらないのか? その「根本的な理由」
 真壁 昭夫
 24年ぶりの円安水準
 外国為替市場で、わが国の円が米ドルをはじめとする主要な通貨に対して減価傾向で推移している。
 6月22日には一時、ドル/円の為替レートが136円70銭台まで下落(ドル高・円安が進行)した。
 24年ぶりの円安水準だ。
 © 現代ビジネス 〔PHOTO〕iStock
 年初来から6月28日までの間、円はドルに対して15.5%下落した。
 為替レートの理論値に関する考え方の一つである“購買力平価”などに比べ、現実に取引されている円はかなり安い。
 その背景として、1990年以降にわが国経済が直面してきた複数の問題が深刻化していることが大きい。
 その一つが内需の低迷だ。
 需要が増えないため、わが国の企業は海外の企業に比べて購買力が低下している。
 足許では、世界全体でインフレが最大の問題となっている。
 経済が脱グローバル化し、世界全体で企業がコストプッシュ圧力の高まりに直面している。
 内外金利の拡大観測が加わることによって主要通貨に対して円は弱含みの展開が予想される。
 輸入物価の上昇などによって生活水準の引き下げを余儀なくされる家計は増えるだろう。
 購買力平価を「大きく下回る」円安
 為替レートの水準を説明する理論の一つに、“購買力平価”がある。
 購買力平価とは、世界各国で特定のモノの価格が、単一の価格に収れんすること(一物一価の法則)を前提にしている。
 その上で、10年や20年など長期の時間軸でみると、同じモノの価格は、一つの水準に落ち着くと考える。
 英エコノミスト誌が公表する“ビッグマック指数”は、各国で販売されているビッグマックが同じ価格になる為替レートがいくらかを示す。
 2022年4月に国際通貨基金IMF)が公表した“世界経済見通し”によると、米ドルと円の購買力平価は2021年末で96.51円、2022年末に91.15円と予想されている。
 2021年末の購買力平価に比べ、足許のドル/円の為替レートは35円程度も円安に振れている。
 これが、経済の基礎的条件=ファンダメンタルズから乖離した円安進行、と言われるゆえんだ。
 影響を与えているのは、為替取引のほとんどが資本取引であることだ。
 為替取引は貿易取引と、クロスボーダーでの株式や債券、通貨などの売買からなる資本取引の二つに分けられる。
 貿易取引は基本的には各国の経済の実力を反映する傾向にある。
 為替取引全体に占めるウェイトは10%程度だ。
 なお国際決済銀行(BIS)によると2019年4月の一日平均の通貨取引額は6.6兆ドル(約891兆円)、その7%が非金融企業などによるものだった。
 それに対して、資本取引は全体の90%近くを占める。
 主要投資家はわが国と米国など、各国経済の今後の展開を予想する。
 現在、米国の個人消費は依然としてしっかりしている。
 投資家は金利が低い円で資金を借り、より多くの金利収入が期待できる米ドルを買い、利得を目指す。
 足許のように日米の金融政策の違いが鮮明な状況では円売りが増加し、売りが売りを呼ぶ形でドル高・円安の流れが強まる。
 円安の「負の側面」が加速する
 わが国の金利が低水準で推移してきた最大の要因は、自律的な需要の創出が難しいことにある。
 1990年はじめにバブルが崩壊し、わが国の経済は長期の停滞に陥った。
 実質GDP成長率は伸び悩んだ。
 国税庁によると1997年に平均給与は467万3000円に達した後は増えていない。
 その背景には、不良債権処理の遅れによって、経済全体に過度なリスク回避の心理が広まったことがある。
 また、1990年代以降、冷戦の終結によって世界経済はグローバル化した。
 国境のハードルが下がり、世界の企業は最もコストの低いところでモノを生産し、最も高く売れるところで供給する体制を強化した。
 グローバル化の最大のベネフィットは、世界的に景気が回復しても物価が上昇しづらくなったことだ。
 その状況下、わが国の企業は環境の変化に対応することが難しく、グローバル化に後れを取った。
 リーマンショック後は国内企業の海外進出が加速し、徐々に本邦企業はグローバル化のベネフィットを手に入れ始めた。
 しかし、2018年以降の米中対立、さらには2月24日のウクライナ危機の発生によって世界経済は脱グローバル化し始めた。
 各国の企業はサプライチェーン(供給網)の寸断などに直面し、コストプッシュ圧力が急速に高まってインフレが進行している。
 その状況下、わが国経済にとって円安のマイナス面が増える。
 当面、円は主要通貨に対して弱含むだろう。
 内需縮小均衡しているため、国内で持続的に給与所得が増加し、可処分所得が増える展開は期待できない。
 他方で、世界的に資源価格はピークアウトしたあとも高止まりし、わが国の交易条件は追加的に悪化しやすい。
 電力料金や食品価格の上昇に対応するために生活水準の引き下げを余儀なくされる家計が急増する展開が懸念される。」
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 7月4日 MicrosoftNews 現代ビジネス 週刊現代「超円安時代で「死ぬ会社」「死なない会社」…生死を分ける決定的な差があった! キーワードは「事業転換」にあり
 富士フイルムは過去最高益に
 「円安やロシア・ウクライナ情勢の影響はやっぱり痛いよ。けれど、原材料が上がったり、市場価格が下がったり、そんなことも全部吸収してやればいい。いかなる時でも利益を生み出す方法を考えるのは、会社として当たり前のことじゃないか」
 こう語るのは、20年にわたって、富士フイルムHDのトップに君臨し、今年6月29日付で同社最高顧問を退いた古森重隆氏。本誌記者が東京都目黒区の自宅を訪ねると、82歳とは思えぬ矍鑠とした応対を見せてくれた。
 新型コロナウイルスの感染拡大、ロシアによるウクライナ侵攻以降、「超円安」の加速が止まらず、産業界への影響も深刻だ。内閣府が発表した'22年1~3期の実質国内総生産(GDP)は年率換算でマイナス0. 5%減と、日本経済の停滞ぶりを示している。
 ところが、この逆風下でも絶好調な会社がある。冒頭の富士フイルムだ。
 © 現代ビジネス Photo by GettyImages
 同社の'22年3月期の連結売上高は前期比15%増の2兆5257億円。純利益は17%増の2111億円と、2期連続で過去最高益を更新した。なぜ同社は先行き不透明なこの状況でも、成長を続けられるのか。その答えは「変身」にある。
 「かつて富士フイルムの中核事業は写真フィルムでした。ところがデジタルカメラの普及によって'00年頃をピークに、年間2~3割のペースで需要は落ちていった。そこで当時社長だった古森さんは『第二の創業』を掲げ、事業転換を決断した。
 その最たるものが『ヘルスケア』事業です。長年レントゲンフィルムを扱ってきた経験を生かし、その延長線上にあった医療分野の画像診断技術へと昇華させたのです」(経済ジャーナリストの磯山友幸氏)
 注目を集める「両利きの経営」
 大胆な事業転換から約20年。X線画像診断システムから機能性化粧品「アスタリフト」、抗インフルエンザウイルス薬「アビガン」など、同社のヘルスケア領域は多岐にわたる。今や社内にある4つの事業部門のうち、ヘルスケア部門は売上高、利益共にトップを誇っている。
 会社が危機的状況に晒された時、長期的な生き残りをかけて、かつての本業さえも容赦なく切り捨てる。「富士フイルムのような経営が今こそ求められる」と話すのは早稲田大学ビジネススクール教授の山田英夫氏だ。
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 「企業が環境変化に耐え、『死なない』ためには、既存事業に縛られず、大胆な事業転換を行うことが不可欠です。本業で培った技術やノウハウを生かせる新事業領域を見つけ、体力があるうちに事業転換を行う。現在、企業の多くがこれを実践しようとしています」
 事業転換が会社の生死を左右するという考え方は、経営学の世界でも「両利きの経営」という概念で注目を集めている。
 提唱者である米スタンフォード大のチャールズ・A・オライリー教授によれば、〈組織の進化には、異なる二つの能力が必要とされる。ひとつは既存事業を「深掘り」する能力。もうひとつは新規事業を「探索」する能力。両利きの経営とはこの二つの能力を同時に追求することにある〉という。
 明暗分かれる任天堂ソニー
 明暗がはっきり分かれ始めているのがゲーム業界の二大巨頭、任天堂ソニーだ。
 前者は昨今の半導体不足によるコスト上昇などを原因に売り上げが落ち込み、'22年3月期決算で減収減益を記録。一方、ソニーは過去最高となる営業利益1兆2023億円と、日本の製造業ではトヨタに次いで2社目となる営業利益1兆円超えを叩き出した。
 「任天堂は『ニンテンドースイッチ』などのゲーム機やゲームソフトを事業の中心に据え、『モノを売る』ことにこだわり続けた結果、環境への対応が遅れてしまった。片やソニーは、事業を『エンタメを売る』と捉えた。ゲーム機だけではなく、通信や音楽、映画などの分野にも舵を切ったことで、成長を続けているのです」(前出・山田氏)
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 山田氏によれば、最近、増収増益を発表した企業の多くが、過去、事業転換の経験があった企業だという。
 住宅・就職情報などを紙からネットへ大転換したリクルート、一時は世界トップのシェアを誇っていたフロッピーディスク事業から撤退した花王がそうだ。彼らは社内や周囲から反対されようとも変化を選択し、成功したのである。
 しかし、すべての企業が変化に対応できるわけではない。往々にして伝統的な日本の大企業は、変化のリスクを恐れ、目の前の危機を先送りにして、「死に体」に陥る。迷走を続ける東芝はその象徴かもしれない。
 東芝は時代に取り残された
 「'15年の粉飾決算発覚以降、東芝は経営改革を求められ続けてきたにもかかわらず、常に問題を先送りにしてきました。本流とは言い難いが、東芝メディカルシステムズ東芝メモリなどの虎の子事業を次々と売却してしまったのも、目先の利益しか考えていなかったためでしょう。
 最後に残った原発事業や防衛事業も国頼みで、自らリスクを背負うことはしたがらない。東芝では無理な案件を通す時、『これは国策だ』というのが決まり文句だったとも言います」(経済ジャーナリストの大西康之氏)
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 東芝のように成熟しきった企業は、過去の成功体験にしがみつき、経営陣は保守的かつ惰性に流されがちだ。変革より現状維持がまかり通り、時代に取り残されていく。'19年に経営難で香港ファンドに身売りされ、上場廃止となった音響機器の名門メーカー、パイオニアも同様だ。
 同社はオーディオやカーナビ分野で高級路線を貫いて成功を収めてきた。しかし、価格競争の激しいディスプレイ事業でも「高品質・高価格」を投入し、業績を大幅に悪化させてしまった。過去の成功体験の自信と誇りが原因で身を滅ぼしたのだ。
 もうひとつ、両利きの経営を実現するのに大切な要素がある。それはトップのリーダーシップだ。
 「事業転換を成功させるため、経営者が会社の未来に対して明確な意志を示し、事業の価値判断を行う。小さい会社はトップダウンも打ち出し易い。しかし大企業のトップはしがらみが多く、意思決定が遅れがちなのです」(前出・山田氏)
 脱皮できない蛇は滅びる
 適切なリーダーシップがとれず、業績が鳴かず飛ばずとなる。それはかつての名門、パナソニックでも起きている。
 同社の'22年3月期の連結売上高はグループ全体で7兆9000億円と、体裁を保っているようだが、これは初めて7兆円を突破した'92年からほぼ横ばい。この30年間、世界で勝てる製品やサービス、技術は見当たらず、直近の調査では20代の若者の約5割がパナソニックを知らないという。
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 同社を長年取材しているジャーナリストの岩瀬達哉氏はこう話す。
 「長年、創業家出身者とそれ以外で人事抗争を続けてきたパナソニックは組織の事情を優先するあまり、肝心の事業を蔑ろにしてしまった。トップが具体的な中期経営計画も立てられない状態なので、下の社員たちも何をやればいいか分からない。
 同社は'21年に8560億円を投じてブルーヨンダーという米IT企業を買収しましたが、事業をどう生かすのかまったく見えない。IT分野というだけで、形だけでも時代の流れに乗ろうとするからますます迷走してしまう」
 やってる感をいくら演出しようとも、トップは肝心の進むべき方向を具体的に示さなくては意味がない。前出の古森氏が経営者の在り方を説く。
 「経営者が選択を間違えると会社は傾くだろ。だから右へ行く、左へ行く、真ん中に行く、止める、戻る、こうしよう、と毎日必死に考えて、社員たちを導いてやるしかない。それが経営者の覚悟ってもんだよ」
 脱皮できない蛇は滅びる、とドイツの哲学者・ニーチェは言った。生き残るには変わるしかない。それが今の企業に与えられた至上命令なのだ。
 「週刊現代」2022年7月2・9日号より」
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