¥3〉─4・B─「超円安」で日本がどんどん貧しくなる…それでも「日本人の給料」が上がらない根本的原因。~No.9 ① 

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 2022年7月20日 MicrosoftNews 現代ビジネス「「超円安」で日本がどんどん貧しくなる…それでも「日本人の給料」が上がらない根本的原因
小出 フィッシャー 美奈  
 歴史的な円安が進む中、私たちの家計はますます逼迫している。にもかかわらず、賃金が上がる気配はまるでなし。日本はなぜ、ここまで貧しくなってしまったのだろうか? 米国の投資運用会社で働いた経験があり、『マネーの代理人たち』の著書もある小出・フィッシャー・美奈氏が、日本人の給料が上がらない根本的原因を分析するとともに、日本が活気づくシナリオを提案する。
 家計はパニック、でも日本株は堅調
 円安が止まらない。7月14日にはついに1ドル139円台に突入した。
 でも、円安による物価高で家計が悲鳴を上げているのを尻目に、日本株の動きはさほど悪くない。
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 TOPIX東証株価指数)は年初来5%程度下落(7月18日現在)。下がっているじゃないかと言われるだろうが、米国のS&P指数やMSCIワールド指数で見た世界の株が2割もの大幅調整となり、仮想通貨などその他の資産も一斉に売られたことから見れば(関連記事:テック株、仮想通貨、NFT、ポケモンカードまで総崩れ…世界の「金融引き締め」で市場はどうなるのか?)、日本株はすこぶる堅調なのだ。
 2022年3月期の決算で上場企業の約3分の1が最高益を記録したのもそれを裏付ける。
 でも面白いことに、輸出企業の株が一様に買われているわけではない。ニコンキヤノン、スバルやマツダは市場を上回っているが、トヨタは年初来さほど動いていないし、ソニーやシャープなどは市場よりパフォーマンスが悪い。
 「超円安」よりも、むしろ「資源高」や「金利上昇・インフレ」の方がより明確な市場のテーマになっていて、東京電力三菱重工東京海上や三菱不動産、といった銘柄が高騰している。
 なぜ1ドル139円という超円安でも輸出銘柄がこぞって買われないのかというと、円高が厳しかった時代に日本企業が意図的に「為替感応度」を下げる努力をしてきたためだ。
 筆者が思い出すのは、2011年の東日本大震災後に一時1ドル76円まで進んだ「超円高」で輸出企業が瀕死状態だった頃。その時と今を比べればドルに対する円の力は8割も落ちたのだから、隔世の感がある。
 2012年3月期決算では輸出企業の下方修正が相次ぎ、テクノロジー企業ではソニーパナソニック、シャープなどがいずれも何千億規模という大赤字を計上した。
 特に問題はアジアの競合に対して価格競争力を失ったことだった。例えば日本の工場で1000円のコストで作られていた商品があったとすると、1ドル100円の為替なら製造コストは10ドルで、12ドルで売れば2割の利益が出る。
 だが1ドル80円に円高が進めばコストは12.5ドルに上がって12ドルでは赤字になってしまう。この時期には韓国ウォンがドルに対してドル高・ウォン安に動いたため、日本メーカーにとってはダブルパンチだった。
 それ以降、多くの日本企業は現地生産や現地調達への切り替えを進めるなど、為替感応度を下げる努力を続けてきた。その結果、日銀の分析によれば2008年には10%の円安で日本の輸出が3%増える感応度があったが、2018年には感応度が「ゼロ」まで下がっている。
 例えば自動車メーカーなどは、過去には円建てで価格を決めて、円安になれば現地通貨での価格を下げてシェアを取りに行っていた。だが、今では現地通貨で価格を設定しているので、円安になっても販売量が伸びないのだ。
 日本の格差は拡大していく
 円高の時代に、企業の「競争力」を維持するために真っ先に削られたものが、国内投資と人件費だった。「構造改革」という名の人員削減や工場閉鎖のニュースを何度聞いたことだろう。
 こうして世界で生き残る強い日本企業はさらに強くなった。でも、多くの国際優良企業にとっての主戦場は、もはや日本ではない。
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 上場企業だけの「日本株」と個人の家計を含めた「日本経済」はどんどん乖離しているように見える。もはや「日本株」イコール「日本」ではない。
 例えば日本のGDPに占める製造業の比率は2割弱でしかないが、日本株を動かす時価総額上位企業には、トヨタソニーをはじめとする製造業がずらっと並ぶ。
 また日本の輸出はGDPの18%程度でしかないが、国際的な大企業の中には海外売上が7割を超える企業も珍しくない。日本株を買う外国人投資家も「日本」を買っているわけではなくて、「強い日本企業」を買っているにすぎない。
 もちろん、日本の大企業の業績が上がれば、日本人従業員の報酬が上がったり日本での投資や採用が増える効果も期待できるかもしれない。また中間材などGDPに反映されないサプライチェーン効果、下請け企業への恩恵など、経済全体への良い影響はあるだろう。
 それでも、力のある上場企業やその恩恵を受ける人々と、それ以外の「日本」の格差は拡大していく。
 日本の勤労者は、どんどん貧しく
 2021年3月期の日本企業の役員報酬は1億円越えが過去最高の635人(東京商工リサーチ)となった。上場企業ではソフトバンクの19億円弱を筆頭に、日本人でもソニー東京エレクトロン信越化学工業などのトップ報酬が7~12億円に上るなど、企業の報酬体系は欧米に近づいている。
 その一方で、日本の平均賃金はほぼ30年間据え置き。OECD主要国の中で、これほど賃金が上がっていない国は他に見当たらない。
 80年代以降の欧米の役員報酬の高騰に妥当な理由が見当たらないことについては記事(最大5000倍!社長と従業員の「報酬格差 」が止まらないカラクリ)で指摘したが、日本でもこうした傾向が進めば一般勤労者の不公平感はさらに強まるだろう。
 そして今の円安では、ドルで比較した時の日本の勤労者は、世界の中でどんどん貧しくなっている。
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 OECDの世界平均賃金比較を見ると、日本は昨年の時点で4万850ドルで、36カ国中24位。OECD平均以下で、韓国にも2015年に抜かれた。
 なお、このOECDの国際比較には、通常の為替レートではなくて2020年を基準年とするドルに対する「購買力平価(PPP)」が使われている。購買力平価については後述するが、OECDが公表している2020年の円・ドルの購買力平価は1ドル101.24円だ。
 日本の賃金を「平均」よりも実態に近い「中央値」で見ると、約440万円。仮にこの440万円を購買力平価の代わりに7月14日現在の1ドル139円でドル換算すれば3万1650ドル程度となり、順位はイタリアやスペインのみならずポーランドエストニアより低くなってしまう。
 「購買力」で見る日本の現実
 超円安でも、海外旅行に行かず、国内の物価が安く抑えられているならば、そう痛みは感じないかもしれない。肝心なのは、例えば1000円でどれくらいの商品やサービスが買えるかという通貨の購買力だからだ。ユニクロのフリースまで1000円値上げ、という昨今の生活感覚とはかなり違うものの、実は世界との比較で見れば日本の物価は上がっていない。
 先の記事(怒涛の「値上げラッシュ」のウラで「日本のインフレ」は本物なのか?この国の景気の行方)でも取り上げたが、輸入価格の高騰が国内販売価格に十分転嫁されていないために、国際比較で見た「デフレ」はむしろ進行している。給与が上がらず消費者の購買力や消費意欲が上がらないために、企業が販売価格を上げられないのだ。
 物価と為替の国際比較では、経済誌エコノミスト」が毎年出している「ビッグマック指数」が有名だ。
 この指数は、世界各国のマクドナルド「ビッグマック」の値段を使って通貨の実力を比べたもので、為替レートというものは、ある国の通貨建ての資金の購買力(この場合「ビッグマック」1個を買う力)が他の国でも同じ水準になるように決まるという「購買力平価(PPP)」の考え方に基づいている。
 もし同じ商品がよその国で自国より割安となる為替レートになっていたとしたら、自国よりもその国でその商品を買おうという需要が強くなり、自国通貨が売られてその国の通貨が買われるので、その通貨が切り上がる。この「アービトラージ(鞘取り)」によってやがて歪んだ為替は解消されるはず、というのが前提だ。
 今年2月に発表された最新版「ビッグマック指数」によれば、日本のビッグマックは390円。一方米国は5.81ドル。日本の390円でも米国の5.81ドルでもビッグマックは同じはずなので、「購買力平価」に基づけば、1ドル67円程度が妥当な為替水準ということになる。
 つまりビッグマック指数を使えば、今の1ドル139円という為替は、円が実力値の半分まで過小評価されている、とんでもなく行きすぎた円安だということになる。
 でも「為替」よりもハンバーガーの値付けの方が間違っている可能性もあるかもしれない。米国のビッグマック5.81ドルに1ドル139円の為替レートを使えば、本来日本のビックマックは390円ではなくて807円になるはずだ。
 可能性で言えば、「海外のバーガー好きが割安な日本のビッグマックを食べるために外貨を円に換金して、その結果円安が修正される」という購買力平価のシナリオが動くより、日本のビッグマックの値上げの方が現実的に見える。
 円安で日本が活気づくシナリオは?
 世界の中での日本の労働力がこれほど安くなったのだから、本来日本企業が投資を国内に還流させたり、日本での雇用を増やしても良さそうなものだ。
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 なぜ、そうなっていないのだろう。
 一つには、日本の労働者の声が弱いことが考えられる。
 実は今、米国ではかつてないほど、労働組合結成の動きが高まっている。Z世代、ミレニアル世代を中心に所得格差についての強い関心が高まり、グーグルの親会社のアルファベット、スターバックス、アマゾンといった今の時代を代表する企業に労働組合結成の動きが出ている。だが、日本では高齢化もあって非正規雇用が増える中、労働者の組織化は進まない。
 だが、もう一つは世界の中で見ると日本の労働力の生産性が低い、という問題もある。
 日本生産性本部が昨年の12月に発表した「労働生産性の国際比較」によると、日本の時間あたり労働生産性は49.5ドル(5086円)で、OECD加盟38ヵ国中23位。米国の労働者の生産性の6割程度、チェコ(49.5ドル)やエストニア(48.6ドル)など東欧諸国程度の水準だ。
 こちらのデータも1ドル103円程度の「購買力平価」を使っているので、1ドル139円を使えばさらに順位は大幅に下がってしまう。労働生産性が低いなら、低賃金が正当化されてしまう恐れがある。
 日本の生産性が向上しない理由は、高賃金の新しい産業を生み出すイノベーションが足りないとか、IT投資が遅れていて効率化が進んでいないとか、様々なことが言われている。
 だが、もう一つは価格の伸び悩みだ。労働生産性は、アウトプットとしてのGDPを労働インプット(労働人口と労働時間をかけたもの)で割って計算されるので、企業が生み出す製品やサービスの単価が上がってGDPが増えれば生産性は上がる。
 なんのことはない、ここでも実はインフレではなくて、「デフレ」が堂々巡りしてしまっているのだ。
 値上げできないから、アウトプットが伸びなくて「生産性が上がらない」ため、給与も上がらないし投資も起きにくい。でも給与が上がらなかったり仕事がないと、消費者の購買意欲も能力も伸びないので、さらに値上げはできない……。
 新型コロナの発生や米中対立、さらにロシアのウクライナ侵攻を受けて、最近ではサプライチェーンを海外に丸投げすることにリスクを覚える日本企業も増えている。円安を好機と捉えて国内投資や雇用を増やす企業が増え、デフレの悪循環が断ち切られるシナリオはないものだろうか。」
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