🚷7〉─11・B─人口激減楽観論に逃げる日本の避けがたい未来。~No.50 

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 2022年10月4日 YAHOO!JAPANニュース 東洋経済オンライン「「人口減少」楽観論に逃げる日本の避けがたい未来、見たくない現実に目をそむける3つの問題点
 地方ではシャッター街が増加している(写真:pasta/PIXTA
 いま日本の人口減少が加速しています。日本の人口は、2021年10月1日現在1億2550万人で、前年から64万人減少しました。たった1年で鳥取県の人口(7月現在54万人)を上回る数の日本人が減ったわけです。
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 国は、1990年の「1.57ショック」以降、少子化対策を強化してきました。にもかかわらず事態が一向に改善しないのは、それだけ人口減少が難題ということです。と同時に、人口減少を楽観視する意見が強いことも、政府・国民の危機感を弱めています。
 人口減少を示す統計が公表されるたびに、次のような人口減少楽観論がマスメディアやSNSに踊ります。
 「明治維新の時の日本の人口は3300万人で、それからわずか150年で4倍近くに急増した。現在の人口がむしろ多過ぎるのだ」
 「通勤地獄・交通渋滞・住宅問題など現在の日本の社会問題の多くが、人口減少によって解決される」
 しかし、本当に人口減少を楽観的に考えて良いものでしょうか。今回は、人口減少楽観論に潜む3つの問題点を検討しましょう。
■トータルではデメリットの方が大きい
 人口減少楽観論の1つ目の問題点は、トータルではメリットよりもデメリットの方がはるかに大きいという現実に目をふさいでいることです。人口減少楽観論者は、通勤地獄・交通渋滞の緩和など人口減少のメリットを強調します。悲観論者は、年金・医療の財政難などデメリットを強調します。お互いが言いっぱなしの状態です。
 たしかに、メリット・デメリットには多数の項目があり、一つひとつを正確に把握し、総合的に比較するのは、極めて困難です。ただ、国の資産と負債の状況に目を向ければ、大まかな結論が見えてくるのではないでしょうか。
 楽観論者が言うメリットは、人口減少で社会インフラなど1人当たりの資産が大きくなる(=資産当たりの利用者数が減る)ことです。悲観論者が言うデメリットは、社会保障費など1人当たりの費用が増すことです。日本では、社会保障費などを税収で賄えず、国債の発行などで調達しており、1人当たりの負債と言い換えることができます。
 財務省が公表したの国の貸借対照表(令和3年3月31日現在)によると、資産は720兆円、負債は1375兆円、655兆円の債務超過です。負債は資産の1.91倍に達しています。人口減少によって1人当たりの資産が増える額(メリット)よりも、1人当たりの負債が増える額(デメリット)の方が2倍近く大きいわけです。
 もちろん1人当たりの資産の増加=メリット、1人当たりの負債の増加=デメリットとは言い切れませんし、「2倍」という数字はこれから変わっていきますが、メリットよりもデメリットの方がはるかに大きいという大小関係は間違いありません。
 なお、「国は国債を返済する必要がないのだから、負債のことは無視しても良い(=資産の増加にだけ着目すれば良い)」という主張を耳にします。ただ、負債を返済しないとしても、現実に財政難を理由に年金・医療の水準が引き下げられており、負債を無視して構わないというのは、あまりにも乱暴です。
■人口減少でデフレが深刻に
 人口減少楽観論者が無視・軽視する2つ目の論点が、デフレです。人口減少は、デフレを深刻化させ、経済を停滞させます。2010年に藻谷浩介氏は『デフレの正体』で、高齢化・人口減少による個人消費の減退がデフレの原因であると主張しました。ところが、2013年から始まったアベノミクスでは、リフレ派の「デフレは貨幣現象である」という主張が“国教”になりました。
 日銀は、リフレ派の主張を全面的に取り入れ、異次元の金融緩和を断行しました。しかし、それから10年近く経っても、金融緩和を解除できていません。「デフレは貨幣現象である」という認識は間違いで、実体経済の現象だということでしょう。
 人口減少という実体経済の現象がデフレを深刻化させるのはなぜでしょうか。簡単な例で説明します。
 地方のある商店街に10店が営業していて、今後20年間で商圏の人口が半分に減るとします。人口減少=需要の減少に合わせて、店の数が半分の5店に減るのが自然な流れです。
 ここで経済学者は、「需要の減少に合わせて20年かけて店を5店に減らせば良い」と言います。しかし、そうは簡単に行きません。どの店の主も、自分が潰れる5店にはなりたくないので、何とかお客様を呼び込んで生き残ろうと、値下げ競争をして頑張ります。
 5店が競争に敗れて商店街から姿を消して最終的に5店になるまで、供給過剰の状態と値下げ競争が延々と続きます。これが、人口減少が著しい地方でデフレが収まらない基本的な構図なのです。
■資金も人材も流入しなくなる
 最後に、意外と注目されていない3つ目の問題点が、海外からの資金と人材の調達です。人口減少社会では、国民生活を維持するために必要な資金と人材を調達することが難しくなります。
 いま日本では、巨額の財政赤字国債発行で賄い、その国債を日本国内の金融機関が買っています。国内金融機関は、高齢者から集めた預金で国債を買っています。政府-日銀-国内金融機関-高齢者という繋がりで、国内で財政資金の調達が完結しています。
 しかし、今後さらに高齢化が進み、高齢者が生活費のために銀行預金を取り崩すようになったらどうでしょうか。国債を国内金融機関だけでは消化できなくなり、海外投資家に依存するようになります。海外投資家は、借金が膨らむ一方の日本の国債を、リスクを顧みず買ってくれるでしょうか。
 民間のリスクマネーも同様です。東証1部上場企業において、外国人投資家の持ち株比率は30.4%に達し(2022年3月末現在)、無視できない存在になっています。外国人投資家は、諸外国の株に比べてパフォーマンスで劣る日本株を今後も買うでしょうか。民間のリスクマネーも、先細りすることが確実です。
 さらに心配なのが、人材です。少子化による労働力人口の減少で、すでに人手不足が深刻化しています。飲食店・コンビニ・建設・介護といった業種は、外国人労働者抜きではもはや事業が立ち行かない状態です。
 いまのところ、中国・ベトナムインドネシアなど近隣の発展途上国から日本に出稼ぎに来てくれています。しかし、今後これらの国の給与水準が上昇したら、他の先進国と比べて賃金が低い日本は、見向きもされなくなるでしょう。
 このように、人口減少社会では、資金も人材も十分に集まらなくなります。この状況では、現在の豊かな生活はもちろんのこと、最低限の生活を維持することすら困難になってしまうのです。
■「である」と「べき」を混同してはいけない
 京都大学・人と社会の未来研究院の広井良典教授は、『人口減少社会のデザイン』(2019年)などで「日本の人口はある程度減少してもよい」とし、人口減少社会は都市集中型の社会モデルを見直し「持続可能な社会」を作るチャンスであると前向きに捉えています。
 人間は、悲観的な話を聞くのが嫌いなので、こうした楽観論が出てくると、喜んで飛びつきます。しかし、ここまでの考察から、人口減少で日本が悲惨な状態になることは避けられません。「悪いことばかりではない」のは事実ですが、「悪いことの方が圧倒的に多い」のもまた動かせない事実です。
 広井教授が言うように、「人口減少社会を明るい未来にするべき」ですが、「人口減少は社会は明るい未来である」という間違った事実と混同をしてはいけません。広井教授は、「事実(sein、である)と当為(sollen、べき)の混同」という重大なミスを犯しているように見えます。
 私たちは、まず人口減少の厳しい現実を直視し、その上で、少子化対策を進めるとともに、人口減少の悪影響を抑えるために国家のデザインを見直す必要があるのです。
 日沖 健 :経営コンサルタント
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