🌁29〉─3・A─日本企業に「働かないおじさん」が大量発生する根本原因は終身雇用と年功序列。~No.122 

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 2022年10月3日 MicrosoftNews プレジデントオンライン「転職できない年齢になるまで飼い殺す…日本企業に「働かないおじさん」が大量発生する根本原因
小林 祐児
 © PRESIDENT Online ※写真はイメージです
 「働かないおじさん」はなぜ生まれるのか。パーソル総合研究所上席主任研究員の小林祐児さんは「出世以外にモチベーションを持てないような人事制度に構造的な問題がある。これを解決しない限り、社内の中高年を『妖精さん』などと皮肉に眺めている若者も、いずれ同じ道を歩むことになる」という――。
 ※本稿は、小林祐児『早期退職時代のサバイバル術』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。
 中高年ビジネスマンのモチベーション欠如は構造問題
 日本企業の人事担当者と話しても、多くの人事が「出世の天井が見えてしまった中高年のモチベーションが上がらずに困っている」「なんとかモチベーションが上がる刺激を与えられないか」という問題意識を持っています。
 しかし、そうした意識を言葉通りに受け取っていても、問題の根っこにある本質は見えてきません。今から確認していきますが、中高年になってからモチベーションが欠如する要因の根本には、出世「以外」の動機づけを無化させてしまうような、中高年になるまでの人事管理のあり方そのものがあるからです。それを、「出世意欲がなくなっている」という「今」の心理状況だけに注目するのは、構造自体を所与のものにしているために、表層的です。
 日本企業におけるキャリアの歩み方を日常的なものにたとえれば、それは小・中学校で多くの人が経験する、「校内マラソン」に似ています。
 入学(入社)した年ごとに「ヨーイドン」の合図でキャリアを一斉に走りだし、「同期」はライバルでもあり、励まし合う仲間としても形成されます。マラソンなのでペースはゆっくりしており、レースが中盤にさしかかるにつれて集団が分かれ、最後は一握りの人たちだけがトップを目指して走り抜いていきます。
 このマラソンは、スタートが同じですぐに大きな差をつけないという意味で「平等主義的」な体裁を保ちます。しかし、後半戦から最後にかけては当然ながらきっちりと差がついて、順位が付きます。「平等主義的」であると同時に「競争主義的」です。しかも、多くの場合そのレースは生徒の手あげ制による「任意参加」ではなく、その学校に所属している限り「強制参加」です。
 長い出世レースの間、企業から「査定」され続ける
 日本の雇用の独特さは、こうした校内マラソン大会に似た、「未経験からスタートする、広くて長い出世レース」にあります。
 仕事を限定せずに雇い、会社都合の異動で広い範囲で仕事内容を変えながら、10年、15年といった長い期間を経て課長や部長になることを目指していきます。正社員であれば多くの人が幹部候補としての出世機会を得られ、モチベーションを長く保てる仕組みですが、組織内の自身の仕事内容を決めるイニシアチブは会社に握られ続けます。
 日本企業はすでに「年功賃金」ではありません。「査定付き職能給」という形をとり、賃金は「結果的に」年功的になっています。このことの意味は、キャリアの歩み方をこの校内マラソンとして見たときにより鮮明になります。
 日本の正規雇用労働者は、「同期」という同年代の横並びの幹部候補生が集まって、「査定」という形で企業から評価の良し悪しをずっと比較され続けます。
 若いうちは同年代の昇進昇格はあまり差をつけないように進んでいきます。同期入社つまり、校内マラソンを固まって走る「仲良しグループ」の中では、一人が飛び抜けて速いわけでもなければ、誰かが飛び抜けて遅いわけでもない、ダンゴ状態で長く走っていきます(こうした比較基準となる集団を、専門的には準拠集団といいます)。それによって、同期同士の少しの昇進の差を、当人にとって大きく実感させる、競争的な状況を作り出します。
 例えば、中高年ビジネスパーソンの中には、同期とわずか500円の月給の差がついていたことを知り、とてもショックを受けたという人がいました。若いころは盛んに行われていた同期会も、徐々に人数が減っていきます。同期という集団は、未経験入社から苦楽をともにする「仲間」であるとともに、「競争相手」です。このことは、画一的な卒業年次・新卒一括採用(正確には一括入社)、先程述べた「仕事」に紐付かない職能資格制度という日本独特の制度の組み合わせだからこそ成り立つものです。
 強制参加のレースで「降りる」のは個人の意思
 こうした「平等主義・競争主義」が支配する内部昇進レースは、「校内マラソン」と同様に「オプトアウト方式」、つまり原則的には強制参加です。
 介護、育児、病気などの「特別な事情がない限り」参加するのが当たり前だと思われています。「自分は出世なんてどうでもいい」と言いつつも、走り始めると、多くの若手がこうした構造に飲まれていきます。平等主義的な面を持っているがゆえに、そこから「降りる」ということは、本人の「意思」や個別の「選択」として理解されます。このことは、女性活躍が女性の「意欲」の問題になってしまうことの理由でもあります。
 「42.5歳」で迎える曲がり角
 とはいえ、この「校内マラソン」はいつか終わりを迎えます。
 出世する人はいつか絞られ、それぞれのキャリア・アップは停滞を迎えます。専門用語では「キャリア・プラトー(高原)」と呼ばれる、いわばキャリアの踊り場です。企業はすべての人を管理職にするわけにも、幹部にするわけにもいきませんし、そんな企業は世界にも存在しません。高度経済成長の時代ならまだしも、出世の限界が見えたからといって、さらに出世の天井を引き上げる、つまり「ゴールを引き延ばし続けること」などは現実にはできません。
 特に最近では高齢化とシニア世代の引退が延びたことによって、それまで部長クラスになっていた人が、課長クラスにとどまるようになっています。52歳、55歳といったタイミングで役職定年(ポスト・オフ)もあります。こうした中で企業には「キャリア自律」だ、として50歳ごろからいきなりキャリア研修などを受けさせられます。
 図表1は、「出世に対する意欲の変化」を示したグラフです。平均で42.5歳を境目にして、「出世したい」と「出世したいと思わない」の割合が逆転しています。「出世したいと思わない」の比率は、逆転して以降はひたすら右肩上がりで伸びているのが見て取れます。
 出意欲がなくなるといきなり「引退モード」
 対して、図表2は「キャリアの終わりを意識している」人が「していない」を上回るタイミングを示しています。出世意欲がなくなってくると、すぐに「引退モード」が来るのが日本の正規雇用の就業意識です。このデータは出世以外の「代替物のなさ」を物語っています。
 出世できないとわかるのが「あまりにも遅い」
 では、この独特さを、その他の先進国と比べることで確かめてみましょう。
 少し古いデータですが、国際比較した定量調査によれば、入社後に個々人の「昇進の差」が出始めるタイミングは、ドイツ企業で入社後平均3.7年、アメリカ企業が3.4年、日本企業は7.9年程度です。その後、昇進の見込みがない人が5割に達する時期は、ドイツ企業がおよそ11.5年、アメリカ企業が9.1年、日本企業は22.3年です(図表3参照)。日本では22歳前後で入社する人が多いとすると、先程の「出世意欲の限界」とおおよそ一致します。
 日本企業で働き始め、ようやく昇進に差が付き始めるころには、アメリカ企業ではそろそろ過半数が昇進の限界を迎えるのです。つまり、先程のデータで示した、日本における昇進の「頭打ち」の平均42.5歳という数字は、世界的水準で言えば、あまりにも「遅い」のです。
 逆に言えば、それまでの長い間、組織内出世という可能性を広く与え続けるのが日本企業の人事管理です。
 転職市場の「35歳限界説」は本当だった
 転職市場にはかねてより「35歳限界説」という言葉が流布していました。
 35歳限界説とは、会社員は35歳を超えるとなかなか転職が難しくなる、企業から採用されなくなる、という意味です。この俗説は、ミドルの転職が増えていくにつれて消えてきた、なくなってきたと言われることが多くなりました。
 そこで筆者は、こうした中途採用時に年齢の与える影響を、採用担当者を調査対象にしたコンジョイント分析というやや特殊な実験的方法で測定してみました(※)。
 その結果、やはり高齢になるほど、特に、35歳以降は採用されにくくなっていました。企業規模や採用担当者の属性による差は特になく(医療・教育・福祉の業界はやや年齢によるバイアスが少ない)、こうした年齢によるバイアスは広い範囲で見られました。
 どの程度採用されにくくなるかというと、35歳を超えると、5歳分歳をとるごとに出身大学偏差値が10低下することと同程度の採用抑制効果が見られました。受験のときを思い返してみれば、偏差値10の差はかなり大きな差です。学校や塾などで頑張った分の教育投資効果がまるごと失われています。
 その他にも、転職回数が多いほど、無職期間が長くなるほど、採用費(人材紹介費)が高くなるほど、採用されにくくなることも示されましたが、それらの効果とは独立して、年齢という要素だけで大きく人は採用されにくくなります。「35歳限界説」はかなり明確に、広く日本の転職市場に根強く残っていそうです。
 ※コンジョイント分析とは、主にマーケティング分野において商品やサービスの持つ複数の要素のどれが重要なのかを分析する、実験計画法と呼ばれる手法の一つ。例えば、ある人が自動車を購入する場合、色、価格、エンジン、乗車定員、メーカーなど多くの要素を総合して購入を決定する。それらの複数要素の無数にある組み合わせをすべて評価しなくても、要素を組み合わせたいくつかのカードを評価させることで項目別の影響度(効用値)を算出することができる。
 かくして転職できない中高年が大量に生まれる
 さきほど校内マラソン大会のような出世競争から「降りる人」や「限界を感じる人」が多くなるのは、平均で42歳ごろだというデータを紹介しました。校内マラソンにたとえているのは、同年代の「同期」を準拠集団としつつ、職種や配属にかかわらず「みな」が同じスタートでヨーイドンの出世競争を始めるからです。
 最初のころは「みな」が競争しているので、その中でリードしていること(勝つ見込みがあること)が動機づけやパフォーマンスを向上させますが、40歳をすぎるころには、まだ出世の見込みが残っている、先頭集団だけの競争になります。どんな企業でも、上位のポストになればなるほど仕事の複雑性が増してポストも限られてくるので当然です。
 しかし、先述したとおり、35歳神話が根強く残っているので、そのころにはすでに転職市場では価値がガクンと下がってしまっています。
 不満だけを溜めて外にでない中高年層が大量に発生するのは、この長すぎる出世競争が終わるころにはすでに「簡単には外にでられない」状態になってしまっているためです。しかもその動機づけ競争を主導しているのは企業側です。
 その状態の中高年にいきなり「外にでることも考えて」と告げるだけでは済まされないでしょう。
 キャリアを自分で選ぶ権利もはく奪されている
 これまで見てきたことのまとめとして、それらを従業員側の経験(EX:Employee Experience)の面からまとめて記述してみましょう。
⓪学生時代――偏差値を基準にした(学ぶ内容を基準としない)大学入試と、学んだ内容と紐付かない就職活動
①就職時――卒業と同時に入社する、未経験での間断なき就職
②入社時――スタート地点における幹部候補の「横並びのスタート」
③若年期――職能等級によるゆっくりとした「能力による査定・選抜」と、意欲のシンボルになる長時間労働の慣習
④若手中堅期――何回かの異動による企業内経験・広い人脈の蓄積と、キャリアの計画性の喪失
⑤若手中堅期――職務内容と関係なく、査定を繰り返し少しずつ年功的に上がっていく処遇
⑥ミドル期――出世の天井が来てモチベーションが下がるが、会社をでてまで計画的にやりたいことは見つからない
⑦シニア期――管理職まで出世した場合も、50代をすぎてポスト・オフや出向などで管理職から離れ、一気に処遇とやる気が落ちる
⑧シニア期――60/65歳の定年を迎え、処遇が大幅に減少。引退モードの気持ちのまま、ゆるく働き続ける
 日本では、若手従業員にとっては、大企業から中堅企業まで未経験者でも就職できる間口が大きく開いていることで、学校卒業と入社が同時に起こる「間断なき就職」が実現しています。
 勤務地・部署は希望こそ出せますが、入社後に広範囲に配置・職務異動があるために、キャリアを自分で選ぶ権利が半分剥奪されています(逆に言えば、新卒時に配属希望が通っている従業員は、自律的なキャリア意識が高くなっていることがわかっています。後ほど詳しく論じていきます)。
 長時間労働が「頑張っている」シンボル
 実際にどこまで異動するかどうかは個別性が高いものの、異動主導権が企業にある限り、「キャリアの先が見えない」という状況が長く続きます。専門性を磨きたいと思っても、2~3年後にはその職務についているかわからない状態では特定の職業への教育コストを投じる動機が生まれにくくなります。
 また、社内昇進レースにおいては、「同期」という疑似共同体を作りながら切磋琢磨し、小さな昇進差を大きく捉えながらどんぐりの背比べを続けていきます。そこにおいてはオフィスに長く残り、長時間労働しているその姿が上司にとって部下の意欲や「頑張っている」ことのシンボルになっています。
 出世以外のモチベーションが必要
 ここまで言えば、もうおわかりでしょう。
 中高年の「働かない」問題は、こうした職業生活のスタートから規定され、中高年になるまでにその働き方を20年近く続けてきたことによる、「代替なきモチベーションの欠如」なのです。
 「働かない」問題の核心は「モチベーションがない」ことではなく、「モチベーションのエンジンが組織内出世に偏ってきた」ことによる「代替物のなさ」のほうにあります。
 窓際で暇そうにしている「個人の姿」や現在の「心理」の問題を遥かに超えたところにあるのが「働かない」問題の本質です。当然ながら、処方箋もまた、この深みに届くものでなければほとんど意味がありません。
 「目に見えている景色」から離れられない心理還元主義的発想では太刀打ちできませんし、社内の中高年を「妖精さん」などと皮肉に眺めている若者も、この真因が変わらない限り、同じような道を歩むことになります。「働かないおじさん」問題の本当の問題点は、この人材マネジメントが変わらない限り繰り返されてしまう「組織内再生産」の構造にあるのです。

                    • 小林 祐児(こばやし・ゆうじ) パーソル総合研究所上席主任研究員 上智大学大学院総合人間科学研究科社会学専攻博士前期課程修了。NHK放送文化研究所に勤務後、総合マーケティングリサーチファームを経て、2015年パーソル総合研究所入社。労働・組織・雇用に関する多様なテーマの調査・研究を行う。専門分野は人的資源管理論・理論社会学。『働くみんなの必修講義 転職学 人生が豊かになる科学的なキャリア行動とは』(KADOKAWA)、『残業学 明日からどう働くか、どう働いてもらうのか?』(光文社)、『会社人生を後悔しない40代からの仕事術』(ダイヤモンド社)など共著書多数。 ----------

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