⛲5〉─1─なぜ「高齢者の売春クラブ」は必要とされたのか。~No.21No.22No.23 ③ 

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   ・   ・   {東山道美濃国・百姓の次男・栗山正博}・  
 2023年2月4日 YAHOO!JAPANニュース 現代ビジネス「なぜ「高齢者の売春クラブ」は必要とされたのか。超高齢化社会が抱える孤独
 映画『茶飲み友達』より
 2013年10月、日本で“高齢者向け売春クラブ”が摘発され世間を驚かせた。新聞紙の三行広告に「茶飲み友達紹介」と載せて応募してきた男女に10年もの間、売春を仲介していたというのだ。とはいえ、性を売るのは女性で買うのは男性。会員数は約1350人にものぼり、会員の男性は約1000人で最高年齢が88歳、平均年齢は65歳前後。女性の会員は約350人で最高年齢が82歳、平均年齢は60歳前後だったという。
 【写真】高齢者にも恋愛と性がある。抱き合う男女の表情が語るもの…
 この事件をモチーフにしたフィクション映画『茶飲友達』が2月4日に公開される。本作の監督・脚本・プロデューサーを務めたのは外山文治氏。短編『此の岸のこと』や吉行和子主演『燦燦―さんさん』など、高齢者に向き合った映画を制作してきた彼はなぜ事件から10年経ったいま、映画化に踏み切ったのか――。高齢者の性だけでなく、若者の閉塞感、孤独、貧困、女性の自己決定権、生活保護の課題など日本が抱える問題がギュッと濃縮された本作について、外山監督に話を聞いた。

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 『茶飲友達』あらすじ
 妻に先立たれ孤独に暮らす男、時岡茂雄(渡辺哲)がある日ふと目にしたのは、新聞の三行広告に小さく書かれた「茶飲友達、募集」の文字。その正体は、高齢者専門の売春クラブ「茶飲友達(ティー・フレンド)」だった。運営するのは、代表の佐々木マナ(岡本玲)とごく普通の若者たち。彼らは65歳以上の「ティー・ガールズ」と名付けられたコールガールたちに仕事を斡旋する。会員数が1000人を突破し、すべてが順調かに見えたある日、思いがけない事件が発生した……。

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 高齢者にも恋愛や性がある
 『茶飲友達』より
――なぜ高齢者の“性”を描いたのですか? 
 外山監督:高齢者を描いた映画は人生の尊厳や安楽死など壮大なテーマに絞られがちですが、私はもっと人生の身近な視点というか“日常”を題材にしたかったんです。今回、20代から80代までの俳優さんたちとお仕事をしたのですが、高齢者のほうがむしろパワフルでした。個性も様々でエネルギーもたくさんあるのに、高齢者は物分かりのよいお年寄り、誰かのおじいちゃんとおばあちゃん、といった“役割”でしか見られていません。私たちが思う以上に高齢者の一人ひとりが人間的魅力に富んでいるんですよね。
 日本性科学会セクシュアリティ研究会の調査(※)によると、70代男性の31%、70代女性の19%が月1回以上のセックスをしているそうです。にもかかわらず、高齢者の性はなぜかタブーになっている。現場に来ていた若い俳優さんたちも、「え、セックスっていくつになってもするものなんですか?」と驚いていましたが、いまや薬もありますしね。映画の撮影に使わせてもらった老人ホームのお医者さんは、この企画を読んで「高齢者にも恋愛感情や性があることを理解してほしい」と協力してくれたんです。あの売春クラブの摘発は、高齢者の人間性から目を背ける高齢化社会の象徴のようですよね。

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 ※日本性科学会セクシュアリティ研究会による「中高年セクシュアリティ調査」(2012年)のデータより。

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――なぜ事件から10年経ったいま、映画化されたのでしょうか? 
 外山監督:売春クラブが摘発された2013年の少し前は、消えた年金孤独死などの社会問題が話題になっていた一方で、若者の間では婚活が流行り始めていました。その前に老老介護の短編『此の岸のこと』(2010年)を作っていたこともあり、高齢社会に起死回生の一石を投じたいという思いで、高齢者の婚活を題材にした『燦燦―さんさん』(2013年)を作りました。しかし、映画が公開される1ヶ月前に事件を知り、現実は自分の想像のはるか先をいっていることを思い知ったんです。
 もちろん、買春や売春がよいことだとは思いません。ただ、ちゃんとした同意のある、寂しい高齢者同士がつながることはそんなに悪いことなのかなって。そこまで白黒はっきりさせるのが正しいのかと自分の正義感が揺れました。10年経ち、高齢者にとっても若者にとっても、非常に生きづらい世の中になってしまった。今、私はちょうど若者と高齢者の中間地点にいるので、両方を客観的に描けるのもかもしれないと思い、高齢者と若者の群像劇を描くに至りました。
 若者と高齢者、それぞれの生きづらさ
 マナ役の岡本玲(写真右)/『茶飲友達』より
――実際の事件で逮捕された売春クラブの経営者は当時70歳の男性でしたが、外山監督は、岡本玲さん演じる30代の女性マナに設定しましたね。その意図は? 
 外山監督:若者を「ティー・フレンド」の運営者にしたのは、若者の閉塞感を深堀りしたかったからです。若者たちが高齢者を搾取しているように見えますが、同時に若者も苦しんでいることを描きたかったんです。
――若者は何に苦しんでいるとお考えですか? 
 外山監督:日本は、「自分たちは右を向くから、あなたも右を向きなさい」という同調圧力の強い社会。違う意見はすぐに攻撃される。そんなところに若者は生きづらさを感じていると思います。特に最近は多様性という言葉を多用する傍ら、物事を善悪の二元で分けようとする。しかし人間や生きることは簡単に白黒つけられないものです。 
 それに、ロスジェネ世代やバブルがはじけた後の大人を見て育った若者は、失敗した大人を見続けていて、「チャレンジするのって損じゃない?」「だったら冒険しないほうがよい」と思っているのではないかと。傷つきたくないから何もしない。とはいえ、若者には若者ならではの熱量があり、何もしない自分に余計に傷ついてしまう……というジレンマがあるような気がしています。
――高齢者と若者の対照的な描写が興味深かったです。例えば、貧困からティー・ガールズになる高齢者女性は生活保護を絶対に受けたがらない。反対に、不倫相手の子どもを妊娠し、ひとりで産み育てるために生活保護を受けようとする若い女性が登場します。高齢者女性はスティグマから生活保護を拒み、若い女性は行政の水際作戦で生活保護を拒否されます。困窮していても、貯金があったら生活保護が受けられないのですね。
 外山監督:多様性を謳う国が、生活保護を受けにくいような社会意識や制度を作り、どんどん生きづらさを加速させています。それに、状況が整っていなかったら子どもを産むなという同調圧力も強い。劇中で描かれるように「父親に認知もしてもらえず、お金もないくせに子どもを産もうだなんておかしい」と表立って口に出す人はあまりいませんが、いざSNSを開くと、そんなネガティブな声であふれていますよね。
――劇中に登場する若い女性は、不倫相手の男性から中絶を求められても拒絶し、産むことを決意します。このシーンでは、出産における女性の自己決定権を描くことを意識されたのでしょうか? 
 外山監督:女性の自己決定権は、それだけで1本の映画ができるほど重要な問題です。今回は高齢者の性と孤独がテーマだったので、深く言及はしませんでしたが、日本全体の大きな課題ですよね。産みたい・産みたくない人の意思を社会が尊重できないのはおかしいですよね? そんな社会の圧が個人の孤独につながっているのかもしれません。
高齢者の性がタブー化した社会で起こること
 『茶飲友達』より
――ところで、日本には性風俗店がどこにでもあります。高齢者男性はいくらでもそういうお店に入り、若くて美しい人と性行為ができるのに、なぜ高齢者に特化した売春クラブの会員になったのでしょう? 
 外山監督:もちろん、若くて美しい人にキラキラとした憧れがある人もいるでしょう。でも、“気持ちを理解してほしい”という思いや“同じ視点で寄り添ってほしい”という感情はみんなもっているのではないでしょうか。自分よりもはるかに若い人が、必ずしも自分と同じ感情を返してくれるとは限らないですよね……? 
――映画では高齢者のティー・ガールズと運営者の若者たちがシェアハウスで家族のような関係を築きます。とはいえ、決して売春クラブを美化しておらず、ティー・ガールズに人気ランキングをつけるなどクラブの搾取的構造や女性がどの人生のタイミングでも男性のケア要員になっている現象も映し出しています。そういった人間の複雑性が最後のシーンに集約されていますね。
 外山監督:自分が痛みを引き受けることにより、自分の居場所を作るようなことは世の中にたくさんあると思うんです。搾取されているとどこかで分かっていても、ひとりになりたくない。やはりみんな寂しさを抱えているものだと思います。マナはこのコミュニティを「家族」と呼びますが、単なる疑似家族、つまり“都合のいい家族”なんです。嫌な部分を無視してお互いの傷を舐めあう。でも、そんないいところ取りの家族なんてないですよね。
 現代には孤独の対処法がないと感じます。みんなどこかに心の穴がある。そんな孤独に共鳴し合う、つながりを欲している人たちの寂しさと家族の在り方がこの映画のテーマです。一瞬でも夢を見たいという人たちの生きる姿を見てくれればと思います。

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 『茶飲み友達』は2月4日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
 (C)2022茶飲友達フィルムパートナーズ

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 此花 わか(ライター)
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