¥17〉─8・B─出生数80万人割れ。成長が「無理ゲー」のいま、企業に残された最後の人事戦略とは?~No.87 ⑨ 

   ・   ・   ・   
 関連ブログを6つ立ち上げる。プロフィールに情報。
   ・   ・   {東山道美濃国・百姓の次男・栗山正博}・   
 2023年3月15日 MicrosoftStartニュース ITmedia ビジネスONLiNE「出生数80万人割れ 成長が「無理ゲー」のいま、企業に残された最後の人事戦略とは?
 出生数が80万人を切ったと多くのメディアが伝えました。厚生労働省が2月に発表した人口動態統計速報によると、2022年の出生数は79万9728人で過去最少とのこと。NHKは「去年の出生数は79万9728人 初めて80万人下回る 厚労省」と題した記事の中で、国立社会保障・人口問題研究所の予測では80万人を下回る時期が2030年だったと指摘しています。少子化が進むスピードは加速しているようです。
 出生数が80万人を割った。厚労省が1899年に統計を取り始めてから過去最少を更新した。画像はイメージ
 © ITmedia ビジネスオンライン
 ネット上では「すごい速さで衰退していく」「日本終了待ったなし」――などと心配する声が聞かれました。出生数80万人割れが衝撃を持って受け止められていることが分かります。ただ、それは生まれたばかりの赤ちゃんの話。日々の通勤ラッシュや人気の飲食店で並んでいる行列、休日のショッピングモールの人混みなど世の中が人であふれかえる様子を見ていると、少子化で日本が衰退するとは言いつつ、あまり実感が湧かない人もいるかもしれません。
●この先も減り続ける出生数
 会社の人事戦略などにおいても、少子化への受け止め方には温度差が見られます。22年に生まれた赤ちゃんが成人年齢に達するのは18年も先のこと。それでも危機感を持ち、すでに少子化を踏まえた施策を進めている職場がある一方で、労働力として直接影響が表れるのはまだ先の未来だと考えて具体的な施策を打てずにいる職場もあります。しかし、本当に出生数80万人割れは18年先の未来に訪れる課題に過ぎないと見なして良いのでしょうか。
 厚生労働省が発表している人口動態総覧の年次推移を確認すると、21年の出生数は81万1622人、20年は84万835人。ジワジワ少子化が進んできており、直近5年の数値をグラフで表すと以下のようになります。
 さらに、今年23年に18歳となる05年まで遡ると出生数は106万2530人です。上記グラフに並ぶ数値と比較すると多く感じてしまいますが、これは団塊ジュニア世代のピークである1973年の出生数209万1983人と比べると半分近い水準でしかありません。22年と05年、1973年とを並べてグラフにしてみるとその差は一目瞭然です。
 生産活動を中心的に支えているとされる生産年齢人口は15~64歳。出生数が減少するということは、当然ながら生産年齢人口の減少に大きな影響を及ぼすことになります。内閣府の令和4年版高齢社会白書には、生産年齢人口のこれまでの推移と将来を推計したグラフが掲載されています。
 このグラフの中では、生産年齢人口が最も多かったのが1995年の8716万人。そこから減少の一途を辿り21年には7450万人となっています。36年の間に、生産年齢人口は1266万人も減ったということです。これは東京都の人口に匹敵する規模であり、1995年から見ると減少幅は14.5%にもなります。現在の労働市場は、すでにピーク時より14%以上も規模が縮小しているのです。
 さらに推計では、2030年の生産年齢人口は6875万人。1995年からは1841万人減り、減少率は21.1%です。今後生産年齢人口が上昇するとしたら出生数が増える必要がありますが、最初のグラフで直近5年の推移を見た通り、出生数は今も減少し続けています。これからもこの傾向が続くことが、すでに確定しているのです。
●「無理ゲー」社会で企業に残された施策とは
 このようにずっと生産年齢人口の減少トレンドに直面し続けているにもかかわらず、会社としては業績を上げ続けていかなければなりません。そんな一見、実現が難しい「無理ゲー」に思える矛盾した環境の中で取り組む施策を整理すると、以下の3つになります。
 施策1 これまで戦力化が出来なかった人材層を取り込む
 施策2 生産性をさらに高める
 施策3 施策1と2の両方に取り組む
 施策1については統計から、一早く少子化の影響に気づいた職場によってすでに取り組みが進められていることが分かります。総務省労働力調査によると、先ほど紹介した白書で、生産年齢人口のピークだった1995年における65歳以上の就業者数は438万人。そこから増加して、2022年には912万人と倍増しています。グラフにすると以下の通りです。
 また、同様に就業者数が増えている人材層としては女性が挙げられます。労働力調査によると、1995年の女性就業者のうち、生産年齢人口に相当する15~64歳の数は2446万人。それが2022年には2650万人なので、204万人増加しています。推移をグラフにすると、以下の通りです。
 65歳以上や女性の戦力化などが進んだことで、1995年以降生産年齢人口は減少しているにもかかわらず、全体の就業者数はむしろ増えました。生産年齢人口のピークだった1995年の就業者総数は6457万人。それが、2022年には6723万人と266万人の増加です。
 一方で、1995年以降減少している就業者層があります。生産年齢人口の男性です。1995年における就業者数は3569万人、それが2022年には3161万人。408万人も減少しました。
●65歳以上で就業率アップの余地あり
 以上を整理すると、1995年以降、男性の生産年齢人口の就業者数は減少しているものの、65歳以上のシニアと生産年齢人口の女性の戦力化が進められたことで、就業者数はむしろ増えました。ただ、65歳以上のシニアと女性の戦力化の状況は少し異なります。
 労働力調査のデータをもとに65歳以上の就業率を割り出すと、1995年に24.2%で、2022年は25.2%です。1.0ポイント上昇してはいるものの、概ね4分の1程度で大きくは変わりません。それに対し、生産年齢人口の女性の就業率は1995年に56.4%。それが2022年には72.4%と16.0ポイントも上昇しました。
 つまり、65歳以上のシニア層については人口自体が増えているため、就業率はあまり変わっていないものの、母数の増加に応じて就業者数も増えてきたということです。もし65歳以上のシニア層の中に「もっと働きたいのに、働く場所がない」と感じている人がたくさんいるのだとしたら、就業率が上昇する余地がまだかなりあるかもしれません。
 それに対し、生産年齢人口の女性については、人口自体は減少している中で就業率が大きく上昇しました。女性の就業率は、すでにかなりの水準に到達しています。2022年の生産年齢人口の男性は就業率84.2%。この数値を限界ラインの目安と考えると女性の就業率はすでに7割を超えているので、上昇する余地はあってもあと10%強と言えるかもしれません。
●人口減での生産性向上は至難
 生産年齢人口の減少トレンドの中で会社が業績を上げていくための取り組みとして施策2に挙げた「生産性の向上」については、各会社は生産年齢人口の減少に関係なく常に取り組み続けてきました。
 内閣府の国民経済計算によると、1995年の年次GDP国内総生産)は458兆円。それが2022年には545.8兆円に増えました。率にすると19.2%の上昇です。一方、先ほど確認した通り1995年以降の就業者数は2022年までの間に266万人増えました。これは率にすると4.1%の上昇。それだけで一概に生産性が向上したと言える訳ではありませんが、就業者数の増加率を上回る水準でGDPが伸びている背景には、生産性を上げようと努力してきた日本中の会社の頑張りがあったのだと思います。
 しかしながら、今後も生産年齢人口は減少し続けていきます。つまり、生産性をこれまで以上に向上させなければならないということです。ずっとさまざまな創意工夫を凝らして生産力を向上させてきたにも関わらず、その水準をさらに上げなければならない大変さは、血がにじむような努力を重ねてきた会社ほどより強く感じるはずです。
 それでも、機械化やAIの導入など、生産性を向上させる機会はまだまだあるとは思います。これまで戦力化できなかった人材層を取り込めずに社員数が減少したとしても、テクノロジーの発達により、それを上回る生産性向上が実現できる会社であれば問題ないでしょう。しかし、現状は希望的観測の域を出ず、もしできたとしても、業種や職種はかなり限られてくる可能性があります。
●「働きたい」人たちをどう戦力化するか
 テクノロジーを使って社員数の減少を上回る生産性向上が実現できない会社は、「これまで戦力化できなかった人材層の取り込み」「生産性の向上」を並行して追求する施策3に取り組む必要があります。ただ、女性の就業率がすでに7割を超えているように、人材層の取り込みにはやがて限界が来ます。
 また、シニア層や女性たちが全員働きたいと考えている訳でもありません。65歳以上のシニア層の就業率は25%程度ですが、この数値を仮に50%まで引き上げると、約900万人の労働力が生まれることになります。だからといって、シニア層を“働かざるを得ない”状況に追い込むような社会が望ましいはずはありません。
 それは、シニア層に限らず女性や障害者など、いまだ十分に戦力化が進んでいない層すべてに言えることです。大切なのは、“働きたい”という希望を持ちながらも働く場所に恵まれてこなかった人たちをどう戦力化するかです。
 また、施策1として外国人の戦力化も考えられます。コロナ禍による制限が緩和されるにつれ、外国人の戦力化はさらに活発化していく可能性はあると思います。しかしそれは、グローバルな人材獲得競争に飛び込むことを意味します。人手不足の国は日本だけではありません。外国人に、日本に来て働きたいと思ってもらえるような環境を整備し、安心・安全に働けるように受け入れ態勢を構築するといった取り組みが必要になります。
●従来の人事戦略を続ける企業に未来はない
 このように整理して確認していくと、すでに少子化を踏まえた施策を進めている職場とそうでない職場、それぞれに待ち受けている未来の姿が浮かんできます。いつまでも生産年齢人口の男性だけを戦力と見なした人事戦略で時代の変化を乗り切るのは至難のワザです。一方で、これまで戦力化できなかった人材層を取り込むのも、簡単なことではありません。今すぐ取り組みを開始して、ノウハウを磨いていく必要があります。
 出生数が80万人割れしても、赤ちゃんが成人するのは18年後。しかし、決して課題が生まれるのが18年後なのではありません。少子化に伴って起きている目の前の課題が、18年後の未来においても継続しているということなのです。状況はすでに待ったなしであり、対応が遅れるほどツケは溜まっていきます。
 少子化を踏まえた施策に取り組む職場と取り組まない職場とでは、時代の流れとともに差が広がっていくのはもちろんのこと、取り組みが遅れた会社は存続さえ危ぶまれることになるのではないでしょうか。
 著者:川上敬太郎(ワークスタイル研究家)
   ・   ・   ・