🚱13〉─1─日本の空き家問題は需要がなくなるアパート節税投資で増えていく。~No.51No.52No.53 

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 2023年3月21日 MicrosoftStartニュース 文春オンライン「日本の空き家、実は半分が“賃貸用”…需要がなくなるアパート節税投資のワナ
 2010年前後を境に日本の人口は減少に転じた。20年現在で1億2600万人。働き手の主体となる15歳から64歳の生産年齢人口は7400万人。国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、10年後の2030年に人口は1億1600万人、生産年齢人口は6700万人になるという。
 世の中の中心を占める働き手の人口がどんどん減っていくことを前提とすれば、住宅需要は次第に萎んでいくと考えられる。ところが日本では新築の住宅着工戸数はここ10年間80万戸台から90万戸台を保ち続けている。そしてそのうち4割近くを貸家が占めている。貸家とはアパートや賃貸マンション、戸建て賃貸を指すが、特に活発なのがアパート建設だ。
 相続対策で貸家を建てたい人々
 アパートと言えば、若い学生や結婚前の独身者が住むというのが常識だったが、最近では高齢者の利用も増えつつある。しかし数が増えている高齢者だが、高齢になると定収入がなく、賃料の支払いに不安が残る。また高齢単身者だと健康を害して孤独死するリスクもあり、オーナー側は貸したがらない。
 © 文春オンライン
 需要が明らかに減少していくのに貸家建設が進むのは、それだけ貸家を建てたい人がいるからだ。その理由は相続対策である。
 現金で持っていると相続時には金額そのままが課税対象となる。しかし、これを不動産に換えておけば、土地は路線価評価額、建物は固定資産税評価額で評価されるので、現金のままで課税されるよりも評価額はかなり低くなる。富裕層にとっては都合の良い対策だ。
 また貸家はテナントが入れば、賃料収入が得られる。子供や孫に相続すれば、彼らにとっての定収入になる。テナント集めについても業者にお任せすれば、彼らが集め、日々のクレームなどの処理をしてくれる。建物のメンテナンスも請け負ってくれる。賃貸管理に精通していなくて大丈夫だ。さらに業者によっては、賃料保証をしてくれるので、たとえマーケットが悪化しても、収入は保証される。
 賃貸用の空き家が約半分を占める
 そんなこんなで続々建設される貸家だが、本当に大丈夫なのだろうか。現在日本国内では848万戸(2018年)の空き家がある。メディアなどで取り上げるのは、朽ち果てて倒壊しそうな家、ゴミ屋敷となって周囲に悪影響を与えている家などだが、実際に848万戸のうち賃貸用の空き家が431万戸と約半分を占めている。
 それでも貸家建設は旺盛だ。次々と新製品が出てくるようなマーケットだから、借りる側も目が肥えてくる。昭和平成であればあたりまえだった3点式ユニットバス(バス、トイレ、洗面台が一体のもの)は最近では見向きもされない。面積30㎡以上、バス、トイレ別は最低条件といってよい。
 これだけ新規物件が登場すれば、既存の物件、築年が20年を超えると競争力が衰える。建設当初は最新鋭の貸家でも、立地などによほど恵まれていないとマーケットの中で埋没し、大量の空室を抱える事態になる。
 それでも貸家建設が衰えないのは相続に対する恐怖心だ。とにかく一族に財産を承継しようと、なるべく税金は払わず、有利な条件で引き継ぎたい。この思いが貸家マーケットを歪んだものにしている。
 相続対策の新築物件を待ち受ける未来とは
 相続対策という目の前に迫ったニーズを満たすためだけに業者や金融機関、税理士などの勧めにしたがって、多額のローンを組んだ上にアパートや賃貸マンションを建設してしまった結果、待ち受けるのはどんな未来なのだろうか。
 たとえばアパート業者の多くが実施している賃料保証サービスでトラブルが多発している。アパートオーナーと業者の間では、通常、期間20年程度の建物賃貸借契約を結ぶ。その中で、賃料保証を謳うものが多いのだが、問題はその中身だ。当初の10年程度はたとえテナントが十分に集まらなくとも、業者は一定の賃料は必ず支払う旨の保証を行っている。
 ところが問題は、一定期間経過後は、業者側の指示でリニューアルをオーナー側が行うことが条件になっているものが多いのである。外壁塗装や、空調設備や衛生設備などの更新など多額の費用負担を求められる。しかもこのリニューアルの施工については業者側に一任する内容で、オーナー側に選択の自由はない。もし業者側が満足する工事が行われなければ、以降の保証は解除する内容になっているのだ。
 相続対策で受け取ったアパートなのに…
 この時点になると、すでにアパートを建設したオーナーは亡くなり、相続人が受け継いでいる例も多い。相続するにあたって親と業者との間で取り交わされた契約内容を細かくチェックしていることは稀で、相続対策で受け取ったアパートを、いきなりリニューアルせよ、しないと今後賃料の保証はしない、などと迫られ途方に暮れることになる。
 親がつきあっていて「いい人だよ」などと言っていたアパート業者の元気で明るい営業マンはすでに担当を外れて連絡つかず、多額のローンを組んでくれた銀行員はすでに転勤。対策を熱心に勧めてくれた地元税理士も、すでに相続は終了しているので、「いやいや、私は不動産のことについては門外漢でして」などと言って逃げ回る。
 はじめのうちは瀟洒なアパートで人目をひき、テナントも順調に埋まっていたものが、築10年以上も経過すると、周囲に似たようなアパートが林立。しかも最新鋭アパートは部屋も広く内装もきれい。自分のところにいたテナントも近所の新築アパートに移っている。リニューアルを拒むと、業者は手のひらを返したように自分のアパートのテナントに声掛けして、近所で自社が新築したアパートに引き抜きをはじめる。
 こうした仁義なき戦いが繰り広げられるのがアパート相続に待ち受ける未来だ。都市郊外などを歩くと、ひとつのエリアにたくさんのアパートがひしめいている光景に出くわす。多くが都市農家などで、農地を宅地化し、相続税対策を目的としてアパート建設を行ったものだ。ただ、中には空室が目立つものもあり、明らかに供給過剰であることがわかる。
 節税対策だけが目的化した結果
 なぜこんな事態になるかと言えば、目の前の節税対策だけが目的化して、できあがったアパートが将来にわたって安定した収益が確保できるかのマーケティングが抜け落ちているからだ。どんな商品やサービスであっても、自分の欲望や目算だけでいくら供給したところで、これを利用する需要がなければ、マーケットは成立しない。
 ところがどうしたことか、相続対策という魔法にかけられて多くの地主たちが、よく考えもせずに相続対策としてのアパート投資に手を出してしまう。
 その結果、たしかに自分が亡くなって相続人である子供に課せられる税金は安くなり、アパートを含めた資産が無事に相続されることになるのだが、これで本当に子供は幸せになれるのだろうか。賃貸経営は、建物が経年劣化していくほどに難しくなると言われる。経営の極意など学ぶ機会すらなかった子供たちが、いきなり親の残していったアパートに悩む日々が来るなど、亡くなった親にはおそらく思いもよらない出来事なのだろう。
 金融機関から借りたローンの存在
 さらに相続人である子供たちに襲い掛かるのが、金融機関から借りたローンの存在だ。相続対策におけるローンの効能は、ローン=負債を「あえて」利用することで、相続評価額を低め、節税効果を高めることである。相続対策において調達したローンは相続評価額から減額する、その結果税金が節約できることはたしかなのだが、これを引き継ぐ相続人、子供たちがローンを返済することができるかについては別問題だ。
 ローンの返済原資はアパートを借りて賃料を支払ってくれるテナントだ。中長期にわたって、少なくともローンの返済期間中に安定したキャッシュフローを生み出してくれる賃貸経営が実現できるかにかかっている。
 ところが多額のローンを借りるオーナー側にそういった意識は希薄だ。投資は一部の詐欺行為を除けばすべて自己責任だ。相続対策の場合、これを企図したのは親、そしてこれを引き継ぎ、ローンを返済していくのは多くの場合相続人である子供である。自分だけで解決しない未来を子供に託することについて、慎重であれということだ。
 ローンを貸し出す金融機関側にもリテラシーがない。彼らの作る収支計画は、最初に想定した賃料水準どおりに推移する、空室率は常時ほとんどない、などといった空想、妄想に近い内容で決裁していることが多く、アパートにおける将来リスクを十分に評価しているケースは稀である。
 一番困るのが、相続人である子供
 なぜそんなことになるのだろうか。これはもう金融機関の性としかいいようがない。ローンを組み立てたときの銀行員はとにかく目の前にあるノルマを達成したい思いでいっぱいだ。相続対策目的のアパート建設は多額のローンを組みやすいので担当者にとっては実績を上げる大きなチャンスなのだ。アパート業者も物件獲得ノルマを果たしたいのでアパート経営の夢ばかりを語って、肝心の運用リスクに対する説明は疎かになりがちである。それをよいことにバラ色の収支計画を作る。そしていざというときのために土地および新築されるアパートを担保に取っておけば転ぶことはなかろう、くらいで決裁してしまう。ましてや銀行員はたいてい3、4年程度で違う店に転勤になるはずだから、あとは知らない、になりがちだ。
 一番困るのが、実は相続人である子供たちだ。何せ当時、親の周りでさんざんにアパート投資を喧伝した関係者は今やどこにもいない。膨大な額のローンが残り、テナントがきちんと入居している、アパート業者がしっかり保証している間はまだしも、いきなり多額のリニューアル資金を出せだの、できなければ今後は保証しないなどの脅かしを受けるようになると大海に放り出された小舟のような気分になる。
 商品寿命の短いアパートに長期で多額のローンを組むのは考えものだ。多少節税効果が下がっても適正範囲でのローンを組むようにしないと、相続税対策をしたはずの親が、実はその対策のせいで子供が苦しむ、路頭に迷うといった不幸を作り出すことになるのである。
 (牧野 知弘)
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