🚷9〉─2・C─少子化対策“失敗の本質”「最大の原因は未婚化。低収入の男性は選ばれない」。~No.54 

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 2023年3月6日 MicrosoftStartニュース 共同通信社 日刊ゲンダイDIGITAL「社会学者・山田昌弘氏に聞く少子化対策“失敗の本質”「最大の原因は未婚化。低収入の男性は選ばれない」
 【注目の人 直撃インタビュー】
 中大文学部教授の山田昌弘氏(C)共同通信社
 © 日刊ゲンダイDIGITAL
 山田昌弘(中大文学部教授)
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 「異次元の少子化対策に挑戦する」──岸田首相がそう宣言してから2カ月。昨年の出生数が政府予測より8年早く80万人を切るのが確実となり、慌てて対策に乗り出したものの、具体策は先送り。予算倍増の財源もごまかす無責任だ。そもそも従来の対策に何が足りなかったのか。「日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?」の著書がある社会学者に、団塊ジュニア世代の未婚記者が「失敗の本質」を聞いた。
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──岸田首相は「次元の異なる少子化対策」として、児童手当などの経済支援の強化、幼児教育・幼保サービスの拡充、育児休暇制度の強化や働き方改革の推進の3本柱を掲げました。
 これまでの延長線上で「次元」は同じ。対象の想定は全体の約4分の1に過ぎない「正社員同士の共働き世帯」にとどまる。共働き女性の大半はパートなど非正規雇用で、専業主婦世帯も含めると約4分の3の世帯に対策が行き渡らない。フリーランスの女性に育休制度の恩恵は届かず、「育休中のリスキリング」なんて雲の上の話という人もいました。
──ピント外れですよね。
 想定する働く女性像も、大企業、大卒、大都市限定で、中小企業、地方、非正規は抜け落ちています。対策を練る政治家や官僚も恵まれていますから、蚊帳の外の人々が周りにいないか、あまり目に入らないのでしょう。また、岸田首相は肝心の高等教育の学資支援にも言及しない。子育てにかかる最大の出費は大学や専門学校の学費で、将来の出費への不安から出産を控える人は多い。それこそが日本特有の重要な課題なのです。
■意識の異なる欧米モデルで空回り
──日本特有とは?
 日本を含む東アジアと欧米諸国では子育てに関する意識が大きく異なります。欧米では18歳まで育てればお役御免。子どもは自立を求められます。一方、東アジアでは「子どもに惨めな思いをさせたくない」との意識が強い。親が高等教育費を出すのは当然で、負担が重くなる。それどころか、卒業した後の面倒まで見ている親も多い。
──確かに。
 社会学者の宮台真司さん襲撃事件の容疑者である41歳の無職男は、老親に年金保険料を払ってもらっていた。年金を受け取る親が息子の掛け金を納めるなんて欧米では考えられません。米国では家賃を払わず実家に同居する30代の息子を親が提訴し、裁判所が退去を命じたケースもあるほど。「ドラえもん」も中国など東アジアでは大人気ですが、欧米での人気は低いです。
──なぜですか。
 理由のひとつは主人公・のび太の自立志向の弱さ。困ったことがあると、すぐドラえもんに頼り、自立を奨励する欧米社会では非難の対象にもなる。これだけ意識が異なるのに、日本政府はスウェーデンやフランスの少子化対策を真似してきた。出産や子育ては、その国固有の文化や家族観に強く影響されます。いつまで経っても「西洋に追いつけ、追い越せ」では空回りするだけです。
──そもそも対象は結婚した人が前提で、「子育て支援」どまり。未婚で子どものいない僕には、ちっとも響きません。
 より重要な未婚対策にも岸田首相は言及しない。日本が少子化に陥った最大の要因は、結婚しない人が増えていることです。
──身の縮む思いです。未婚化が進んでいる理由はどう考えていますか。
 極めて単純です。収入の低い、あるいは不安定な男性は子育てパートナーとして選ばれにくい。それに尽きます。
──政府関係の研究会で、そう指摘すると、政府のある高官から「私の立場で同じことを言ったら、クビが飛んでしまう」と言われたそうですね。
 1990年代後半のことです。その逸話を昨年、経団連で披露すると、講演概要がHPにアップされた途端、クレームが来たそうです。皆、実感しているのに、公で発表したり論じたりするのは、ずっとタブー視されてきました。誰もが「格差」を認めたがらない。
──現実を直視した対策を打ち出せないわけです。
 若年男性の収入低下と格差拡大は、ここ数年で顕著になったわけではない。バブル崩壊以降、30年も続いています。
──50歳時点で一度も結婚経験のない人の割合である「生涯未婚率」は、80年の男性2.60%、女性4.45%から、2020年は男性28.25%、女性17.81%。男性の増加率の方が圧倒的に高い。
 それは、収入のある男性が2度3度と初婚の女性と結婚するから。女性の場合は離婚後の再婚率は男性に比べ低い。50歳で独身、配偶者のいない人の数は男女で大差ありません。
■親元を離れると生活水準が下がる
──選ばれる男性は何度も……。ますます格差を実感します。
 結婚相手に平均収入を求めるのは普通の望みでしょう。ただ「平均」とは、それ以下の人が半分はいるということ。となると、決して高望みではなくとも半分しか結婚できなくなる。ましてや、日本の未婚者は親との同居率が非常に高い。未婚女性の8割近くが親と住んでいます。自分の収入が低くても親に面倒を見てもらえれば、それなりの生活水準を保てる。だから、今の暮らしを手放しにくい。
──日本は“嫁入り前の娘が親元で暮らすのを肯定する”文化ですものね。
 収入の低い男性との結婚を親が潰すケースもあります。
──「少子化の最大の理由は晩婚化」「出産時の女性の年齢が高齢化している」と言った政治家もいました。今や「晩婚」ならまだマシ。現実を直視していない発言です。
 人口学者でも90年代の主流は「独身を楽しみたいから結婚を遅らせており、いずれ結婚するはず」との判断でした。つまり、結婚は「しようと思えば誰でもできる」と。そんな楽観ムードが今も政府内に残っているのかもしれません。結婚したら経済的に苦しくなるのが未婚化の理由なのに。
──恋愛自体を「コスパが悪い」と面倒くさがる若者も増えているようです。草食化を通り越して、絶食化する中、政府はもっと縁結びの世話を焼くべきなのでしょうか。
 少なくとも、結婚後に親元を離れても生活水準が下がらないようにする支援は必要でしょう。ただ、予算「倍増」では経済格差の解消には不十分。ハンガリーみたいにGDPの5%くらいを少子化対策に費やさないと子どもは増えないでしょうね。
■みんな少しずつ貧しくなっていく
──日本でいえばGDP5%は約25兆円です。
 岸田首相もたぶん「異次元」と言ったのを後悔していますよ。「次元が異なる」と言い換えましたが、よほどのことをやらないと若い世代をガッカリさせるだけ。でも、増税は政治家や官僚は誰も言いたがらないし、国民も反発する。このままだと、だんだん社会保障の水準が低下し、みんな一緒に少しずつ貧しくなっていく社会になります。
──少子化対策は効果が出るまで20~30年かかるといわれています。
 だから政治家も官僚も今まで本気にならなかった。政治家にすれば票にもカネにもならないし、官僚は得点にならない。国民も「今が何とかなっていれば」で問題を先送りしてきた。そのツケが今、回ってきたのです。
──30年後には団塊ジュニア世代も後期高齢者少子化対策に加え、孤立化社会への備えも僕たちには切実な問題です。
 4分の1の人たちが結婚できない状況が続けば、孤立する高齢者も増える。かなり裕福でなければ現行水準の介護は受けられなくなる。これは確実に予測できます。移民だって来てくれるかどうか。今も正看護師の資格を持って豪州の介護施設で働くと、日本の3倍以上の収入を得られます。日本で働くのはバカらしいという人が、どんどん増えていきますよ。
──「過ぎた時間は戻らない」を痛感します。
 結婚できず、十分な介護も受けられず死んでいく。そうした人が何百万とあふれる社会になりますね。それも自己責任だと言う人も増えているんじゃないですか。私にすれば「寂しい未来」ですけど、国民が選択した結果であれば仕方ないでしょう。
──達観されていますね。
 30年前からほとんど同じ提言を訴えてきましたけどさすがに疲れました。もう、私も65歳。自分の予言が30年後に的中するかどうかは見届けられないでしょう。ただ、今も「結婚したい、子どもを産み育てたい」と望む若者の方が圧倒的に多い。彼らの希望をかなえる社会をつくらなければ日本社会は根本から崩れます。
 (聞き手=今泉恵孝/日刊ゲンダイ
山田昌弘(やまだ・まさひろ)1957年、東京都生まれ。東大文学部卒。86年東大大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。2008年から現職。専門は家族社会学。「パラサイト・シングル」「格差社会」「婚活」という言葉をつくり出し、世に浸透させたことでも知られる。男女共同参画会議間議員、内閣府・幸福度に関する研究会構成員など公職を歴任。読売新聞「人生案内」の回答者を務める。
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