🌁26〉─2─外国人技能実習制度のウソ。新型コロナ禍で大量解雇。~No.100 

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 「外国人技能実習制度」のウソ
 「人手不足の補てん」「低賃金労働力」といった批判の中で導入された外国人技能実習制度。新型コロナ禍で大量解雇が進み、政府の「まやかし」が露呈された形だ。そもそも技能実習が目的なら大量解雇は矛盾する。かねてからこの問題を追及してきた立憲民主党石橋通宏参院議員が制度の見直しを提言する。(写真はゲッティイメージズ
 大量解雇!コロナ禍で暴かれた「外国人技能実習制度」のまやかし
 『石橋通宏』 2021/01/08
 石橋通宏参議院議員
 国内に滞在する外国人技能実習生は、今や40万人を超え、事実上、国内の多くの産業・経済分野、特に人手不足にあえぐ地方や農業などの一次産業において、生産・製造現場を支えてくれている。
 その技能実習生たちの中で、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて実習が休止状態となったり、解雇されたりして生活苦に追い込まれ、母国に帰りたくても帰れず、非常に厳しい状況に置かれている人が多数に上っていることをご存じだろうか。
 これは、私たちがかねてから指摘をしてきた現行の外国人技能実習制度の構造的な問題が、今回のコロナ禍で顕在化しているわけだが、この事態を深刻に受け止めるべきであり、これを機に技能実習制度の抜本改革を急がねばならない。
 厚生労働省によれば、コロナ禍の影響で解雇された外国人技能実習生は、すでにおよそ4千人に上っている。そもそも、なぜ、実習計画に基づいて技能を習得しているはずの実習生が、これだけ大量に解雇されなければならないのか。この実態こそ、技能実習制度の根本的な矛盾を露わにしているといえるのではないか。
 これまで政府は一貫して、技能実習制度は国際貢献策であり、人手不足を補うための対策ではないと言い張ってきた。しかし、国際貢献のための実習だと言うならば、受け入れ先の経営状況の都合で解雇されるのはおかしな話であり、受け入れ国としてはまったくの責任放棄である。
 ただ、いくら政府がごまかそうとも、技能実習制度の実態は人手不足を補うための労働力確保策であり、政府が表向き否定をしてきた未熟練の外国人労働者の受け入れ政策に他ならない。その現実の下、このコロナ禍にあって、彼らが雇用の調整弁となり、解雇されているのではないのか。
 確かに、コロナ禍の影響が長期化する中で、多くの産業分野において事業主が厳しい経営環境に晒(さら)されており、当初計画通りの技能実習の履行に困難を生じている実習実施者がいることは否定しない。
 だからこそ私たち立憲民主党をはじめとする野党は、早い段階から、中小事業主に対する国からの各種支援策の創設・拡充、特に雇用の維持や労働者の生計の確保を念頭においた施策の拡充を主張し、政府・与党に対する要請を行ってきた。
 国策として40万人を超える外国人実習生を日本に招聘(しょうへい)しているのであるから、その企業支援において、技能実習生に対する雇用と生計の維持への支援を特に重視し、手当てするのは当然のことではないだろうか。政府には、実習生たちの技能実習の継続と技術の習得はもとより、収入や生活を何が何でも支える責任があるはずだ。
 もちろん、一義的には、監理団体や実習実施者に実習の継続や生計・生活の維持の責任を果たしてもらわなければならない。やむを得ず休業する場合でも、雇用調整助成金など国の助成制度をフル活用して、6割以上と言わず10割の休業手当を支払い、技能実習生の雇用や生活の維持に全力を尽くすべきではないだろうか。
 多くの実習生は、日々の生活に必要な費用に加え、仕送りや帰国後のための貯金や、自らの借金返済のために毎月の手当の支払いが死活的に重要なのである。
 政府はこれまでのところ、解雇された技能実習生への支援策として、最大1年間、別の業種で働くことができるよう特例措置を講じている。そもそも、このような特例が可能であったこと自体、技能実習制度がごまかしであったことの証左だと思う。
 さらに、これは技能実習生のためと言うよりも、新たな実習生が来日できなくなったため、人手不足に窮している実習実施者や監理団体を救済するための措置なのではないかと疑わざるを得ない。
 だが、支援団体などによると、技能実習生を受け入れている「監理団体」の中には、再就職の支援などを行わず、解雇された実習生が住む場所を失って、行き場がなくなっているケースも多発しているとのことだ。
 ひどいところでは、事業主都合で解雇しておきながら、自分たちが不利益を被るのを防ぐために、自主退職したかのように偽装させている事例まで聞こえてきている。言語道断だ。そういった悪しき監理団体や実習実施者に対しては、今後の受け入れ停止や禁止などを含む断固たる処置をとるべきであろう。
 解雇されたり、無給の休業状態に置かれている技能実習生たちの中には、日本語が十分にできなかったり、監視下にあって声を上げられなかったりする人が少なからず存在していると思われる。
 せっかくの特例措置も、実習生たちが知らなければ使いようがない。外国人技能実習機構は、相談体制の強化とその周知の再徹底を行うとともに、技能実習生の実習継続や収入・生活実態について早急に調査し、解雇されたまま放置されたり、長期にわたって無給の休業状態に置かれて、日々の暮らしにも困難をきたしているような実習生がいないかを早急に把握すべきだ。その上で、実習実施者や監理団体に対しては、休業手当の支払いや再就職・生活支援の徹底を指導するなどの対応を行ってほしい。
 前述の通り、今回、コロナ禍において顕在化している問題は、外国人技能実習制度が抱えている構造的な問題であり、もはやパッチワーク的な改善策では対処できない。これを機に、改めてその抜本的な改革に向けた議論を本格化させるべきだ。
 最大の問題は、国策であるはずの技能実習制度が民間の契約ベースの下に運営されており、送り出し国側でも日本国内側でも悪しき民間ブローカーが介在し、多数の実習生が多額の借金を抱えて日本にやってくることである。この多額の借金のため、人権侵害やハラスメントを受けたり、賃金未払いや過重労働などがあっても拒否できず、逃げられず、声を上げられず、帰国することもできない。
 日本で監理団体や実習実施者の違法行為に声を上げた結果、実習途中で強制帰国させられた技能実習生も多数報告されているし、帰国後に契約違反だとブローカーから訴えられ、多額の違約金を払わされるような事件まで発生しているという。
 外国人技能実習法は、手数料や保証金の類の徴収を禁止しているし、意に反した途中帰国や労働法令違反の禁止を明記しているが、今なお違反は後を絶たない。
 また、コロナ禍で解雇されたり、人権侵害などに堪えきれず逃げ出した実習生たちが、生活苦に陥り、詐欺集団らの片棒を担がされたり、犯罪に手を染めたりする事件も発覚している。
 もちろん、犯罪行為は許されないが、彼らをそういった状況に追い込んだ技能実習制度そのものや、彼らを適切に支援・救済しなかった監理団体や技能実習機構にこそ、その責任を問うべきではないのかと、立法府としての責任を痛感している。
 このように、現行の技能実習制度が構造的に破綻していることはもはや明らかだろう。できるだけ早期に、現行制度を発展的に解消し、現在滞在中の技能実習生を含め、正規の労働者として就労・在留ができる外国人労働者のための雇用許可制度を新たに整備すべきだ。
 こうした現状を踏まえ、立憲民主党は、私が座長を務めている「外国人の受け入れ制度及び多文化共生社会のあり方に関するPT」において、この新たな雇用許可制度の具体的な検討を進めている。
 その柱となるのは、国同士の公的な責任の下に制度を管理・運用することであり、これによって民間ブローカーの介在を排除することだ。
 その上で、国が国内労働者では求人を充足できない状況にある事業主を認定し、日本での就労を希望してくれる外国人労働者との透明性あるマッチングや、出国前の日本語などの研修、入国後の継続的な研修や生活支援などにも責任を持ち、現行制度の問題の根源にある実習生の借金問題をも解消することをめざしている。
 このような抜本的な改革なくして、世界から「奴隷労働」とも評されている現行の技能実習制度の改革は実現できないと考える。併せて、国内における多文化共生社会づくりのための努力を国が責任を持って実施しなければならない。
 技能実習生はすでに40万人を超えたが、国内にはすでに166万人(2019年10月末時点)もの外国人労働者が就労し、そして地域において生活し、納税している。子供のいる外国人世帯も多数に上っており、地域によっては就学児童の一定割合を外国人の子供たちが占めている。技能実習生や就労留学生を含む外国人たちは、それぞれが居住する地域における生活者であり、地域共生社会の構成員なのである。
 しかし、これまで国は、本音と建前の使い分けの中で、技能実習生を労働者や生活者として適切に保護する責任を放棄し、外国人労働者や居住者が急増する中にあっても、その責任を地方自治体や事業主に丸投げしてきた。
 その結果として、本来提供されるべき公的な保護やサービスが届かず、人権侵害にあっても声を上げられなかったり、子供たちが就学できなかったり、生活苦に陥ってもなんの支援も受けられなかったりしているのではないだろうか。
 このような社会問題への対応も急務であり、私たちは技能実習制度の改革と併せて、多文化共生社会を構築するために国の責任や施策を明確化するための基本法案も構想している。
 世界に例を見ないスピードで人口が減少していく日本の経済・社会をこれからもしっかりと支え、成長させていくためにも、今こそ、外国人技能実習制度の抜本改革や多文化共生社会の構築に向けた努力を、党派や思想信条を越えて断行すべきである。
 すでに世界は、人材獲得競争の時代に入っており、アジアも例外ではない。これまで夢と希望と憧れを持って日本に来てくれていた外国人技能実習生たちが、今回のコロナ禍で再び顕在化したように、雇用の調整弁や都合のいい低賃金労働者、いやまるで奴隷労働者のように使い捨てられ、日本に絶望して帰国するような事態が今後も続くようであれば、遅かれ早かれ、日本が選ばれなくなる国に転落することを覚悟せねばなるまい。それだけ、状況は危機的だと認識すべきである。」
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🌁35〉─2─副業解禁! 成長への秘策か、体のいいリストラか?~No.148No.149No.150 ⑳ 

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 「副業解禁」で成功する人、失敗する人
 いま大手企業を中心に社員の「副業」を認めるケースが増えている。経産省の調査によれば、副業を容認している企業はわずか3・8%。労働人口の減少が続く日本の働き方改革の切り札としても注目を集めるが、本当にそうなのか。「副業解禁」によるメリット、デメリットを考えてみたい。
 副業解禁! 成長への秘策か、体のいいリストラか?
 月刊Wedge』 2016年9月号
 [WEDGE REPORT]
 WEDGE編集部 櫻井 俊
 8月3日、第3次安倍再改造内閣が発足。新内閣では働き方改革の担当相が新設された。安倍晋三首相は会見で「最大のチャレンジは『働き方改革』」とGDP(国内総生産)600兆円達成への強い意気込みを語った。GDPを上昇させるためには、働き方改革で高齢者や女性など、働く人の数を増やすと同時に、1人当たりの労働生産性を高める必要がある。付加価値の高い新規事業の創出も必要だ。
 それは企業にとっても同様の課題だ。
 「ITの進化によって事業は短命化しており、各企業は短期で非連続な新規事業を生み出さなければならない。経営者は共通してイノベーション、次世代リーダーの育成、労働生産性の向上に悩んでいる」と、転職サイト「リクナビNEXT」の藤井薫編集長は語る。
 日本では長らく、社員を終身雇用して経験を積ませることで、生産性や競争力を高めてきた製造業が産業の中心だった。しかしモノづくりの現場が新興国に移り、ITによる産業構造の変化が起きたことで、経験の蓄積を1つの優良なアイディアが勝るようになった。
 そうした中、注目され始めているのが「副業」だ。副業に詳しい東京大学大学院経済学研究科の柳川範之教授のもとにも「経団連所属の大企業の担当者から副業に関する問い合わせが増えている」という。
 今年2月、ロート製薬が社員の副業を認める「社外チャレンジワーク制度」の導入を発表すると大きな話題となった。同社では入社3年目以降の国内正社員全員が対象で、競業他社を利するようなものでなければ人事部への申請の後、副業が許可される。「新しい事業を生み出すには『多様性』が大きなキーワード。過去の成功体験だけでなく別の価値観が必要だ。各企業はこれまで社内異動でそれを得ようとしてきたが、限界がきた」と広報・CSV推進部の矢倉芳夫副部長は制度導入の背景を語る。
 大手企業がヒアリング専業禁止のベンチャー
 「大手インフラ企業の人事担当者が話を聞きに来た」
 生活雑貨のオンライン通販などを手がけるエンファクトリー(東京都渋谷区)の加藤健太社長は、大手企業の副業に対する意識の変化を語る。同社のホームページには「専業禁止!!」という言葉が枠囲みで表示されており、強制ではないが社員に副業を持つことを勧めている。
 副業に対する唯一のルールは「1年に1度、自分がやっている副業について全社員の前で発表すること」だという。「小遣い稼ぎじゃなく、自分で商売をやってみることで経営者の視点が身につく」と加藤社長は語る。
 ソフトウェア開発を行うサイボウズは、副業の申請すら社員に求めず、原則許可している。また、勤務時間と出社日数で区分した9つの働き方を用意しており、社員は自由に選ぶことができる。給与は、転職市場の相場などから独自に算出しており、50歳を過ぎると金額は下がる傾向にある。
 「定年もないが退職金もない。社員にはサイボウズがなくても生きていけるよう自立することを求めている」(同社人事部の松川隆マネジャー)。終身雇用を維持することで社員に忠誠を求めてきた従来の日本企業とは対照的だが、今のところ同社の離職率は4%台にとどまる。
 「1年に1度の新規事業開発プロジェクトへの応募が、15年度は前年度の5倍の100件でした。今年度は200件に届きそうです」
 結婚情報誌『ゼクシィ』などを発行するリクルートマーケティングパートナーズの田中信義経営管理部長は、副業による予想以上の効果を笑顔で話す。同社は12年10月の創業から副業を認めている。15年4月からは働き方を改革し、社員は会社から2時間以内の場所であればどこでもリモートワークが可能となったことで、副業にかける時間が増えた。
 ヤフージャパンも副業を認めている。同社で副業を持つ社員の数は全社員約6000人のうち数百人に上る。「社員の面倒を会社が一生みられるわけではない。社員にも個人として色々な経験を積んで準備をしてほしい、会社はその環境を整えるべきだ」(湯川高康人事部長)と社員のキャリア形成を後押しする。
 副業に対して、日本では否定的に見られてきたが、優秀な人材の採用や、社員の流出を防ぐために、副業を行える環境を整える必要性が出てきた業種もある。ヘッドハンティングを行うプロフェッショナルバンクの高本尊通常務取締役は「ITエンジニアを中心に、副業OKを条件とする転職者が多い」と語る。
 ITの進化で高まる副業ニーズ
 副業が広まる背景にはITの進化がある。インターネットを通じて低コストでビジネスに取り組むことが可能になり、企業の枠にとどまらない働き方を志向する人が増えている。
 事業への助言を求めるクライアントとその分野の専門家を、ネットで仲介するビザスク(東京都新宿区)。助言を行うアドバイザーの登録者数は、昨夏の5000人から約2万人に急増した。ほとんどが35歳から45歳のこれまで1つの会社に勤めてきた大手企業の社員だという。「エンジニアから経理や財務の文系職まで、自分の経験が社会に通用するのか試したいという人が多い」(同社広報)。
 一方、副業を解禁する上で懸念されるのは副業の成功による人材の流出だ。しかし、副業を促進している企業は一様に「流出するならそれは副業のせいではない」(ヤフーの湯川人事部長)と語る。
 前出の藤井編集長は「副業を促進することで、社員は外部の知恵や人脈を得る。副業で自らがやりたいことをやるために本業の時間意識の向上にもつながる」と語る。
 「副業については禁止も推奨もしていない。制度を変えるつもりもいまのところない」(NTT広報)と、まだまだ副業に対して積極的な企業は少ない。ただし、「労働契約から外れた私生活は自由が原則。副業は、本業と競業したり信用を傷つけたりするなど、合理的な理由がなければ禁止できない」(労働法を専門とする早稲田大学法学部の島田陽一教授)。
 一度副業についてフラットに捉えなおし、働き方改革や評価制度改革などとあわせて、検討してみる価値はあるだろう。
 日本では長らくネガティブに捉えられてきた副業。IT企業やベンチャーだけでなく、大手製造業でも副業が容認されはじめました。現在発売中のWedge9月号では、「副業解禁」と題して、副業を容認することで企業にもたらされる効果を、副業を容認している企業や、実際に副業をしている人へ取材し、特集しています。本誌では労働時間の管理など、副業を容認することで発生するリスクへの対処についても取材しました。こちらの書店や駅売店にてお買い求めいただけます。」
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¥16〉─1─米中覇権戦争の挟間で喘ぐ日本、「失われた経済大国」に陥るなかれ。〜No.64No.65No.66No.67No.68No.69 ⑧ 

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 産経iRONNA
 米中覇権戦争の挟間で喘ぐ日本、「失われた経済大国」に陥るなかれ
PCR検査を受ける市民ら=2020年5月、中国・武漢(共同)
 テレビ会議方式で行われた「RCEP閣僚会合」に臨む梶山弘志経済産業相=2020年11月11日、経産省那須慎一撮影)
 会見で記者の質問に応じるトヨタ自動車豊田章男社長(左)とNTTの澤田純社長=2020年3月24日、東京都千代田区(酒巻俊介撮影)
 『小倉正男』 2021/01/01
 小倉正男(経済ジャーナリスト)
 国の経済にも、何をやってもうまくいく時期があれば、何をやってもうまくいかない時期もある。世阿弥風姿花伝に「男どき女どきとてあるべし」と書いているのだが、今どきは使ってはいけない言葉になっている。確かにそうしたことは経済でもあるものだ。
 「米中貿易戦争」が本格化しておよそ4年を経たが、一方の主役であるトランプ大統領はその座を降りることになった。ただ、大統領がバイデン氏に代わっても「米中貿易戦争」は継続されるとみられる。
 だが、どう継続されるのか、その中身が問われる。バイデン氏の思考がどうあれ、2021年以降の世界は、米中の「経済覇権戦争」にフェーズを変えて展開されることになる。
 2020年の世界経済は、新型コロナ禍でマイナス5%を超える。08~09年のリーマンショックは100年に一度の恐慌といわれたが、それを大きく上回る最悪な事態だ。米国やドイツなどのEU諸国だけではなく、わが日本なども軒並みに大幅マイナス成長を余儀なくされる。だが、紛れもなく新型コロナの発生源である中国は、なんと一人だけプラス成長(2%内外)に達する状況である。
 なんとも納得できないというか皮肉なことだが、中国は新型コロナ禍を機に米国との経済覇権戦争で先手を打てるポジションを確保している。中国は「ロケットスタート」で世界経済のトラックに戻りすでに走り出している。だが、米国は新型コロナ禍でトラックにまだ十分に立てないでいる。
 トランプ大統領は「チャイナウイルス」と中国を非難してやまなかった。だが、新型コロナ禍で順風満帆だった米国経済がまさかの大変調に陥り、大統領の座も失うことになった。新型コロナ禍で政権を降りることになったのは、安倍晋三前首相に次いで2例目である。
 トランプ大統領には厄災そのものだが、新大統領となるバイデン氏には思わぬ追い風になったことは否定できない。新型コロナの抑え込みに必死に取り組み、これを取り除かないと経済はまともに立ち行かない。ひいては政治権力トップの座も吹き飛ぶ。
 菅義偉(すが・よしひで)首相にとってもこれは重要な教訓である。危機管理(クライシスマネジメント)をにわかに身に付けて、この有事に当らなければ安倍前首相、トランプ大統領の轍(てつ)を踏むことになる。
 コロナ禍直前の2019年、米国の国内総生産(GDP)は21・4兆ドルで、それに対し中国のGDPは14・7兆ドルだった。米国のGDPに対して中国は7割弱(69%)の経済規模に追い付いたことになる。中国の経済統計は、一般にカサ上げされているという疑念が伴っているが、それを割り引いても中国はトップに君臨する米国をピッタリとマークする位置まで攻めのぼっている。
 ちなみに日本のGDPは5兆ドル規模であり、中国の3分の1。日本企業の世界化(国内空洞化)もあって日本のGDPは小さく表示される面がある。もちろん、中国とは人口の違いもあるのだが、リーマンショック後のわずか10年でずいぶん引き離されたものである。
 中国は言うまでもないが、共産党一党独裁国家であり、ウイグル、香港に見るように民主主義や人権などの抑圧を「国内問題」として断行している。南沙諸島海域の人工島、尖閣諸島への領海侵入など露骨な領土拡大の野望を隠さない。新型コロナ感染症では、勃発時に遺伝情報などを隠蔽する愚も行った。そうした国が世界経済の覇権を争う一方の雄にのし上がっている。これは脅威であり、問題であるのは間違いない。
 日本は、モノマネ癖など「模倣経済」や極端な「不動産バブル」などから、中国経済をことさら軽視してきた。日本の矜持(きょうじ)といえば矜持であり、「新興の中国経済などいずれ破裂する」、と。
 だが、いまや中国を軽視ばかりしていては大きく間違うことになる。イデオロギーや好悪感情に任せるのは極力抑え、プラグマティズムでリアルに見ていく必要がある。仮に間違うにしても、過小に評価してではなく、過大に評価して間違うべき対象になっている。
 中国は2021年には8~9%内外の成長を目指すとみられる。米国が新型コロナ禍でもたつけば、21~23年には中国のGDPは米国のそれの75~80%近辺にまで膨張する可能性がある。
 そうなれば、ほぼ米国経済に肩を並べることになる。ハイテク産業育成策「中国製造2025」の遂行で半導体など先端技術製品の「自国化生産」能力も徐々に追い付いてくれば、軍事覇権の膨張にも一段と拍車がかかる。
 中国の習近平国家主席が進めているのは、中国のサプライチェーン(供給網)への「依存関係」を強化するという戦略である。「国際的な産業チェーンのわが国との依存関係を強め、外国が供給を止めようとすることに対する強力な反撃・抑止能力を作らなければならない」(20年10月31日 共産党理論誌「求是」)と指示している。
 習主席はこの指示を2020年4月10日に共産党中央財政委員会で発令している。この指示は、湖北省武漢市の「都市封鎖」、その解除と関係している。武漢は、新型コロナの世界最初の発生源であり、都市封鎖は1月23日~4月7日の長期に及んで行われた。武漢の都市封鎖解除がなされたのは4月8日午前0時。習主席の指示発令があった4月10日は、武漢の都市封鎖解除からわずか3日後ということになる。
 武漢では強権的に大規模検査を行って成り振り構わず新型コロナの抑え込みを終了させた。習主席は、いわば「後顧の憂い」を絶って、中国のサプライチェーンへの「依存関係」強化に歩を進め「有効な反撃能力」を備えよと指示をしている。
 この時期、原油価格は大底値に低迷していたが、中国はいち早く原油購入再開を行った。4月後半には原油は徐々に底入れ気配に転じている。中国の反転攻勢はここから開始されていた。
 トランプ大統領は、中国は米国の資本、技術、雇用など「富」のすべてを盗んだとして、中国に高関税を課し、通信関連事業などからファーウェイ(華為技術)を全面的に排除するなどの封じ込め政策をとった。
 米国以外の企業、例えば日本企業も米国製製造装置で作った半導体はファーウェイに供給してはならないといった規制が行われている。いわば、市場経済に一部規制をかける格好で、デカップリング(米中経済の切り離し)を断行した。
 同時に過剰なほど集中している中国へのサプライチェーン見直しも進められた。中国へのサプライチェーンの依存・集中は、各国の安全保障からみて危険性が内在している。日本も日系企業の中国から本国への回帰、あるいは中国以外のアジア、すなわち東南アジア諸国連合ASEAN)、インドなどへの移転に補助金を出すことで見直しを推し進めた。
 高関税、さらにはデカップリングによる中国封じ込めという孤立化政策、加えて中国のサプライチェーンへの依存・集中を見直すという動きは、中国にとっては大きなピンチにほかならない。中国の「富」の源泉、成長力の原動力をそがれる恐怖がよぎる。中国はその危機感を持っていたからこそ武漢の都市封鎖を長期断行した。
 武漢は、中国の自動車やその部品、半導体産業のサプライチェーンの一大拠点である。復旧を「大返し」で果たさなければサプライチェーンの「依存関係」は弱体化され分断される。中国にはそうした恐怖があり、いわば中国包囲網のピンチに立たされていたからこそ成り振りを捨てて新型コロナの封じ込めに取り組んだとみられる。
 08~09年のリーマンショック時、中国は内需拡大を行い、ピンチをチャンスに切り替えた。中国は、遅れていた高速道路、高速鉄道、空港など国内インフラ投資に4兆元(57兆円)を投入。これにより10年には、中国はGDPで日本を追い抜いて2位に躍り出た。
 この時点では中国と日本のGDPは大きな差はなかった。だが、その後の成長率は大きく違っていた。「失われた20年」、日本は長らくデフレに苦しんだ。安倍前首相による「アベノミクス」はデフレ克服に果敢に挑戦したが低成長を脱却することはできなかった。
 一方の中国は、人為的計数による底上げが一部あるにしても二桁台の高成長が続いた。「不動産バブル」破裂などでいずれ行き詰まるという予測が一般的だったが、潜在的な成長力が勝った。
 そして貧富の格差が拡大し、富裕層も形成された。巨大な国内インフラ投資で鉄鋼、セメントなどの生産能力が膨大化した。それが米国への超安値輸出などに回り、米国の製造業に打撃を与え、雇用を喪失させた。それが「米中貿易戦争」の引きがねになった。
 米中の経済覇権をめぐる戦争だが、習主席の言う中国のサプライチェーンへの「依存関係」強化は着々と進んでいる。中国は、昨年11月には東アジア地域包括的経済連携(RCEP)に参加を果たした。習主席は、あろうことか環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)にも「参加を積極的に検討する」と表明している。
 中国はデカップリングどころか、ズブズブの「カップリング」に抱きつく戦略をとっている。この「抱きつき戦略」は米国のデカップリングに対する中国の反撃にほかならない。習主席が4月に指示した「強力な反撃・抑止能力」とはまさしくこれだったわけである。
 TPPはもともと中国への封じ込めを意識して企画されたが、米国はトランプ大統領の反グルーバリズムによる「一国主義」から一転して不参加となった。
 では、バイデン氏はどうかといえば、サンダース上院議員など民主党左派が反グローバリズムであり、TPP参加には強く反対している。米国が「一国主義」でもたつくようならば、習主席の中国がちゃっかりTPPに参加する意欲を示すだけでも米国には大きな牽制になる。
 米中デカップリング、あるいは封じ込めといっても、すでに中国を中心とするサプライチェーンが構築されている。これは市場経済をベースに形成されており、分断するのは容易ではない。習主席の言う「依存関係」を強める、あるいは弱めるといった綱引きゲームでしかない。デカップリング、そして封じ込めは、市場経済に逆らうものであり長期的には無理を生じかねない。高関税も関税を払うのは輸入するサイドで、例えば高い鉄板は購入する自動車産業などに高コストを背負わせるという側面がある。
 「戦略的忍耐」ということで何もせず手をこまねいたオバマ政権とは対照的にトランプ大統領は中国に対して厳しい措置断行を連発した。これはトランプ大統領ならではの「荒事」な芸当であり、高く評価しなければならない。だが、高関税を含む封じ込めやデカップリングは「大統領選挙マーケテイング」、あるいは「ディール」といった駆け引き材料の面もあったといわなければならない。
 中国はトランプ大統領の予測不可能な政策に当惑、いわばトランプ大統領の荒事にヨロめいたが、ようやく体制を立て直している。トランプ大統領の策は、決定打ではなく、中国の経済成長に一時的に歯止めをかける牽制に近いものだった。
 そしてバイデン氏は、これらの策を継続するとしている。確かにトランプ大統領の遺産として手元に置き、限定的であるにしても、牽制や揺さぶりに有効に使うということなるに違いない。
 米国は経済覇権で中国を圧倒するには、最終的には市場経済が決戦場にならざるを得ない。米国は、「GAFA」を生み出してきたが、新たな巨大ビジネスを生み出す資本主義のダイナミズムを取り戻すのが本道だ。
 いまでは米国で巨大化した「GAFA」が批判の対象となっている。だが、皮肉なことに米国経済が必要としているのは、激しい新陳代謝の繰り返しによる従来にないビジネスの創造にほかならない。いわば次の時代の「GAFA」を生み出すことでしか中国を引き離せない。米国はどうあれ市場経済で中国を打ち負かさなければならない。
 最後に日本経済だが、トヨタ自動車が、日本企業のトップに立ってすでにおよそ半世紀近く過ぎている。トヨタが優れた経営を行ってきたのは事実だが、トヨタを追い抜くような新たなリーディングカンパニーが見当たらない。
 新陳代謝の停滞、日本の資本主義が閉塞を抱える根底にそれがある。日本こそ、いまの時代を体現する新産業や企業を生み出すことができないとしたら、「失われた経済大国」になる局面を迎えることになる。」

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¥14〉─1─展望2021。日本は先進国から脱落も リモート化に壁。~No.52 

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 2021年1月2日 MicrosoftNews Reuters「展望2021:日本、先進国から脱落も リモート化に壁=野口・一橋大名誉教授
 [東京 2日 ロイター] - 野口悠紀雄一橋大学名誉教授は、デジタル化が加速するポストコロナ時代には、日本が先進国グループから脱落する可能性があると指摘する。言葉の壁に加え、働き方改革の遅れなどが障害となるという。脱炭素社会に向けては、他国より高い製造業依存の産業構造を高度サービス産業中心に再編する必要があるとみている。
 ロイターとのインタビューで語った。
 <リモート化による国際化加速、言語と働き方の壁>
 リモート化の進展で国境の壁が低くなり、デジタル化が広がるポストコロナ時代。社会の在り方や経済構造はどうかわるべきなのか。
 野口氏は「コロナ禍の中で日本の問題が浮き彫りとなってきた。その問題点を適切にとらえて、次の時代に生かすチャンスとすべき」と指摘。世界の流れとそれに対して日本が取り組むべき課題として2つを挙げた。

第1は、国際化の加速だ。「リモートワークの加速は、世界中で移動することなく会議を開催したり、居住地から離れた場所で仕事をすることを可能とする。国境の壁を取り払う効果がある」とみている。
 しかし、日本には世界のリモート化への壁がある。野口氏が指摘するのが、英語で仕事ができるかと言う言語の問題、そしてオフィスに「居る」ことに価値を置く働き方の問題だ。「日本企業がどこまでリモートワークを推進できるかは、成果主義の導入と不可分で、それができないと、生産性は低いままで、世界から孤立する可能性がある」と懸念を示す。 「現在の日本の生産性はOECD諸国でも下から数えた方が早い位置にいるが、 言葉と働き方の壁を克服できなければ、最下位に転落しかねない」という。
 日本の生産性が低い主因はサービス産業にあるが、リモート化が普及すれば、世界中の人的資源の活用が可能になり、人材不足の解消、通勤時間の短縮などにつながり、生産性が改善できる可能性もある。
 野口氏は、米国が高成長を実現できているのも、すでに20年以上前からインドの人材をリモートワークで活用していることが大きな要因だとみている。
 <デジタル化、政府の個人情報集約に危険も>
 2つ目はデジタル化。リモートでの活動にはデジタル化が不可欠だ。野口氏は、今回のコロナ禍において日本のデジタル化が世界から遅れをとっていることがはっきりしたと指摘。「菅政権もデジタル化推進を重要な政策課題と位置づけているが、問題はそれをどう進めていくかにある」とみている。
 野口氏は「デジタル化には大きな危険が潜む」と指摘する。
 政府はデジタル化の際に必要となる本人確認のIDにマイナンバー・カードを利用しようとしている。野口氏は「国民の全ての情報が政府に集中し、政府が把握する危険をはらむ。マイナンバー・カードは中央集権的に運営されるIDであり問題だ」とみている。
 日本ではかつて住民基本台帳をネットワーク化し、本人確認ができる全国共通のシステムとして構築しようとしたが、情報漏洩への懸念もあり 導入は失敗に終わった。マイナンバー・カードにも同様の懸念がある。
 野口氏は「本人確認IDを分散管理するシステムとしてブロックチェーンを活用すべきだと思う。ブロックチェーンを利用したIDの技術は現在開発中であり、その方向を進めるべき」との考えを示す。
 <脱炭素時代、製造業の比率を下げる必要>
 ポストコロナ時代には脱炭素への流れが世界各国で共通の目標となるが、日本はどう対応していくのか。
 野口氏は「この問題は原発問題と密接にかかわってくる」と指摘。政府は再生可能エネルギーの利用拡大のために風力の推進を掲げているが、「コストや技術の面で現実的には難しい」とみている。しかしそのため、電源構造として原発の比率は高まっていかざるを得ないとの議論には問題があるという。
 「日本の場合、他の先進国と比較して製造業の比率が高い。ただちに原発の比率を高めるとの結論に短絡するのではなく、製造業の比率を下げ、産業構造を高度サービス産業中心へと変える必要がある」との見方を示す。
 特に製造業の中でも基幹産業である自動車産業に関して「自動運転の時代には大きく変わる。ハードウエアを作る産業というよりは、ソフトウエアをいかに開発し、どのようなサービスを提供できるか、という高度サービス産業になっていく」と指摘する。
 実際、米グーグルは自動運転車開発部門のウェイモ(Waymo)において、第5世代の自動運転システムを搭載した車を開発している。
 野口氏は、自動車産業においても、主導権を握るのは自動車メーカーというより、グーグルのような高度サービス産業の可能性があるとみている。
 *インタビューは12月21日に行いました。 (中川泉 編集:石田仁志)」
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🌁20〉─1─日本の世界一、鉄道、宅配、コンビニ、病院などがが次々にブラック化するワケ。~No.81 

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   ・   ・   {東山道美濃国・百姓の次男・栗山正博}・   
 日本人は、若者や現場の発想は柔軟性が飛んでいて素晴らしいが、経営者や指導者による運用・経営は硬直化して下手で利益を生み出すどころかダメにする。
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 元寇を撃退した北条時宗は、文永の役では23歳であり、弘安の役では30歳であった。
 日本の近代の扉を開いた阿部正弘は、38歳であった。
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 日本軍では、現場の若い将校や下士官・兵士は優秀だったが、軍司令官や幕僚などの中年の高級将校は無能であった、といわれている。
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 歴史的偉業を達成した日本人は、20代から40代までで50代以降ではない。
 昔の50代は、時代遅れとなった事を自覚し、金儲けや実利追求は意欲的で強欲になっれる若者達・後進に道を譲って隠退・退職し、自由な時間を利用して人間性の高みを目指し高尚な趣味や高度な文化を極め人格を磨いた。
 現代の日本人と昔の日本人は別人のような日本人である。
 現代の日本と昔の日本には似たようなブラック社会と同調圧力や場の空気が存在したが、その本質は両者で全然違う。
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 昔の老人は、活き活きとして陽気で朗らかであり、前向きで、好奇心が旺盛で、新しもの好きで、実行力と行動力があった。
 比べて現代の老人は、活気がなく、陰気で陰湿で、ひがみっぽく、意固地で、新しい事に関心も興味もなく、考えもしなければ動こうともしない。
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 2020年13月30日 MicrosoftNews ITmedia ONLINE「鉄道、宅配、コンビニ、病院が、次々とブラック化するワケ
 街中に”便利”があふれている
 © ITmedia ビジネスオンライン 街中に”便利”があふれている
 日本で生活していると、そのありがたさになかなか気付かないが、実はこの国ほど生活インフラが充実している国はない。よく言われるのが、鉄道だ。時刻表通りに秒単位の正確さで目的地に到着する、いわゆる「定時運行」は、日本人の生真面目さと規律正しさを象徴する鉄道文化として、多くの外国人が「世界一」だと評価している。
 ただ、そういう分かりやすいものだけではなく、実は「世界一」は日本にあふれている。例えば、今も年末で大忙しの「宅配」。米国の宅配技術企業「ピツニーボウズ」が10月13日に発表した年間世界宅配便件数指数によると、宅配便取扱個数は中国がダントツで世界一だが、年間1人当たりの受け取った荷物の数では、平均72件で日本が「世界一」となった。
 では、なぜ日本人は世界で最も宅配を利用するのかというと「世界一便利」だからだ。低価格で全国どこにでも驚くほど迅速に届けてくれて、しかも細かな時間指定や再配達にまで対応してくれる。「遅い!」「荷物が壊れている」と文句を言う人も多いが、ここまで手厚い宅配サービスを提供している国は、世界を見渡してもそれほど多くない。
 日本人が荷物を届けることに強いこだわりを持っているのは、郵便サービスの質が世界トップレベルであることからもうかがえる。万国郵便連合(UPU)が世界170の郵便事業を調査した「郵便業務発展総合指数」で日本は17年、18年と「郵便のサービス品質が高く他国に優れている」「アジア太平洋地域で抜きん出た郵便サービスの品質を維持している」などベタ褒めされて3位に輝いている。
 また「世界一便利」ということでいえば、忘れてはいけないのが、コンビニだ。24時間いつでも食品、弁当、惣菜、雑誌などが買えるだけではなく、ATMや各種支払いができて、チケットや宅配の受け取りもできる。最近では、カフェまで併設して飲食ができる。ここまで便利なコンビニは世界を見渡してもそうない。
●医療の手厚さも「世界一」
 これを実現させているのは、大手コンビニチェーンのネットワーク力だ。現在、日本には5万5906店(日本フランチャイズチェーン協会 20年11月度)のコンビニがあって、その9割を大手3社が占めている。コンビニの数だけ見れば、日本よりも人口の多い米国や中国のほうが圧倒的に多いが、「寡占」ともいえるほどはりめぐらされた大手チェーンの店舗ネットワークは日本だけだ。
 例えば、日本の約2.6倍ほど人口のいる米国のコンビニ市場は15万3000店と言われているが、そのほとんどはガソリンスタンドに併設した「個人商店」なので、サービスの質はバラバラ。日本国内で2万1038店舗(20年11月末現在)あるセブン-イレブンも、米国とカナダを合わせて約9800店舗ほどの展開で、米国内でのシェアはわずか1割にも満たない。
 国土の中にはりめぐらされたネットワークによって、手厚いサービスを提供することでいうと、他の追随を許さないほど「世界一」なのが「医療」である。
 日本の病院数が諸外国に比べてダントツに多く、「世界一」であることはよく知られている事実だが、実はそこで行われている医療の手厚さに関しても「世界一」だということは、あまり知られていない。
 スタンフォード大学で医療政策部を設立した国際医療経済学者のアキよしかわ氏が立ち上げた、グローバルヘルスコンサルティングジャパン(以下、GHC)という会社がある。このGHCは、24時間体制で急性期患者(重症患者)の治療を行う大きな病院――いわゆる「急性期病院」を対象に経営改善支援を行っており、国内800以上の急性期病院のビッグデータを有している。
●手厚い医療体制
 そんなGHCが12月23日に出した『医療崩壊の真実』(アキよしかわ/渡辺さちこ著、エムディエヌコーポレーション刊)には「日本の世界一手厚い医療」がうかがえるデータが多く掲載されている。分かりやすいのが「在院日数」だ。
 諸外国で急性期患者の治療にどれだけの日数を費やしているのかという平均在院日数の国際比較を見ると、ドイツや韓国が7.5日、スウェーデン5.5日、オーストラリアが4.2日と概ね1週間で退院しているところ、日本は16.2日と2倍以上も長く入院させているのだ。
 実際、諸外国では「日帰り手術」をしているような疾患でも、日本では何日か患者を入院させる。例えば、諸外国では局部麻酔での手術が多く、90%以上が「日帰り」である白内障手術も、日本の病院の場合、「日帰り」は52.9%にとどまる。
 もちろん、これは入院させたほうが病院にとって「得」になることも大きい。GHCのデータでは、白内障手術の医療費は14.7万円だが、2泊3日の入院治療だと22万円。また、欧米では外来治療が一般的なポリペクトミー(内視鏡でのポリープ切除)も、日本では外来が7.3万円、2泊3日の入院だと18.1万円だ。つまり、「世界一手厚い医療」は純粋に「患者のため」だけではなく、病院経営的なメリットから施されている部分もあるのだ。
 いずれにせよ、日本には世界一たくさんの病院が乱立して、諸外国ではありえないほど世界一手厚い医療を国民に施してくれている事実は変わりがない。
●日本のインフラが崩壊しつつある
 という話を聞くと、何かに気付かないだろうか。そう、実はここまでご紹介した「世界一のインフラ」は近年、「崩壊の危機」が叫ばれているものばかりなのだ。
 日本の「世界一の定時運行」を象徴する新幹線は、3年前にあわや大事故につながる重大インシデントが発生。背景にあるのは、正確で安全な運行を陰で支える保守点検作業員の深刻な人手不足である。これがいよいよシャレにならなくなってきていることは、鉄道各社が「終電繰り上げ」に踏み切っている事実が雄弁に語っている。
 「世界一の宅配」に関しても、数年前から「宅配クライシス」が叫ばれている。ドライバー不足や低賃金などの劣悪な労働環境から、いままでのような水準の宅配サービスが提供できないと現場から悲鳴が上がっていて、これまでご法度だったライバル社同士の配送協力や、鉄道やバスなどの公共交通機関の活用なども始まっている。
 「世界トップレベルの郵便」は高齢者をカモにしたかんぽ保険の不正など不祥事続発。現場に厳しいノルマをかけるなどのパワハラも多数報告され、経営陣が「再発防止」を叫ぶも状況はまったく改善されていない。
 「世界一のコンビニ」も同様だ。バイトが集まらないところに、サービスの多様化によって仕事量が増えている。以前から労働環境のブラック化が指摘され、19年はセブン-イレブンの24時間営業問題をきっかけに、さまざまな問題が噴出した。
 そして、「世界一の医療」についてもはや説明の必要はないだろう。日本よりも桁違いに多くの感染者や死者が出ている欧米ではもはや聞かれることが少なくなった「医療崩壊」がなぜか連日のように叫ばれている。現場の医療従事者によれば、もはやいつ崩壊してもおかしくない危機的状況だという。
●人口減でインフラにひずみ
 では、なぜわれわれの便利と安心を長く支えてきた「世界一のインフラ」がここにきて示し合わせたように一斉に音をたてて崩れてきているのか。
 1つには「人口減少」があることは言うまでもない。ITなどで効率化できるインフラもあるが、鉄道、宅配、郵便、コンビニ、そして医療というのは、どうしても安全面などから「人」に依存する部分が大きい。というわけで、人口が減少に転じていけば当然、現場の負担は重くなって、労働環境は急速にブラック化していく。
 つまり、今の鉄道、宅配、郵便、コンビニ、医療などで叫ばれる「危機」の本質は、人口増時代に調子に乗って日本中に広げすぎたインフラが維持できなくなっているということなのだ。ただ、この本質はなかなか語られることが少ない。あれが悪い、こいつが悪いと犯人探しをして「広げすぎたインフラをたたむ」――つまり再編・統合を頑なに避けてきた。
 分かりやすいのが「宅配」だ。もう忘れている人も多いだろうが、宅配クライシスが叫ばれたとき、当初「アマゾンが悪い」と叫ぶ人たちがあらわれた。「配送無料」のアマゾンでポチポチと買うことが、ドライバーの皆さんを苦しめているということで、アマゾンのヘビーユーザーを叩くようなムードもあった。
 しかし、ヤマトが残業代を230億円も未払いしていたことからも分かるように、アマゾン以前からとっくに日本の宅配は崩壊寸前だった。アマゾンはその背中を押しただけに過ぎないのだ。
 そして、実はこれとまったく同じ構造が今の「医療崩壊」に言える。マスコミや日本医師会は、コロナ患者が急激に増えているので、医療が崩壊寸前だと叫ぶが、コロナ以前からとっくに日本の医療は崩壊寸前だ。
●病院は世界一多くて、手厚いが……
 先ほども申し上げたように、日本の病院は世界一多くて、世界一手厚いが、人口1000人当たりの医師数は、OECD平均が3.5人のところ、日本は2.4人しかない。看護師も先進国の中では平均並だ。
 そのように諸外国と比べて大して多くもない医療従事者が、世界一多い病院に振り分けられ、世界一手厚い医療を提供させられる。諸外国ではあり得ないほどのブラック労働が起きるのは容姿に想像できよう。中でも特に虐げられるのが、患者と最もよく接する看護師だ。
 「第9回医師の働き方改革に関する検討会」(2018年9月3日)で配布された「諸外国の状況について」という資料の中に、諸外国の医療体制を比較した一覧がある。その「病床百床あたり臨床看護職員数」を見ると、米国は394.5、英国が302.7、ドイツが164.1、フランスが161.8であるのに対して、日本はどうかというと、83と断トツに少ない。
 このように病院の医療従事者を世界一劣悪な環境でこき使ってきた国が、新型コロナを「2類相当」として感染者を公立病院や地域の急性期病院に集中させれば、どんな阿鼻叫喚の地獄となるのかは、分かりきっていたことなのだ。
 そして、世界一多い病院に医療従事者が「分散」させられることの弊害も生じる。ある病院にはすさまじい数の患者が押し寄せて、医師や看護師は目が回るほど忙しいが、ある病院はコロナを恐れて患者がまったく来ないで閑古鳥が鳴いていて、医師や看護師も通常通りという「格差」ができる。
 実際、GHCの調査でも今年の2~6月にコロナ患者を受け入れていない266の病院のうち、35病院(15%)で集中治療専門医や救命救急専門医が常勤し、89病院(39%)に呼吸器内科専門医がいた。コロナ重症患者の命を救える専門知識を持つ人たちが、コロナ医療に関わっていない現実があるのだ。
 これらの問題を解消するには、「医療体制の再編・統合」をしなくてはいけないのは明らかだ。
●インフラを整備してきた問題
 では、なぜそんな分かりきったことを今日にいたるまでやらなかったのかというと、日本の医療政策に影響力を持つ日本医師会が「医療体制の再編・統合」に対し、後ろ向きだからだ。よく言われるように、日本医師会は現在、医療崩壊の危機が叫ばれているような病院の「代弁者」ではない。
 日本医師会会員数調査(令和元年12月1日現在)によれば、会員総数17万2763人のうち8万3368人は「病院・診療所の開設者」であり、その内訳は、病院開設者が3985人に対して、診療所開設者は7万473人と大多数を占めている。こういう比率なので、日本医師会の提言は、町の小さな医院や個人クリニックを利するようなものが多いと言われているのだ。
 日本の多すぎる病院を統合・再編をして医療資源を集中させるとなれば、10万2105施設(厚生統計要覧令和元年度)ある診療所もその影響をモロに受ける。地域内に分散された医療インフラを集約するためにも、整理統合や規模拡大が促されていくだろう。
 つまり今、議論になっている「生産性向上のために中小企業の合併・統合を促す」政策と同じようなことが、町の医院、個人クリニックにも起きるかもしれないのだ。
 町の医院、個人クリニックの業界団体である日本医師会にとって、そんな暴論は断じて認められない。中小企業の業界団体である日本商工会議所が「中小企業再編」に頑なに反対しているのとまったく同じだ。
 地域に大小さまざまな病院があふれている国は、一見すると医療が充実しているように見えるが、「人」という限りある医療資源をそれだけ分散させていることでもある。医療従事者の数に対して病院や病床という「器」が多すぎるので、1人当たりの負担が重くなって結果、医療現場を弱体化させている。これが、世界一病院が多くて、世界一手厚い日本の医療が、欧米の数十分の一程度の感染者で崩壊寸前になっている理由だ。
 人口右肩上がりの日本では、「大きい」「多い」は無条件で素晴らしいことだとされてきたが、もはやそういう時代は終焉(しゅうえん)を迎えた。
 調子にのって広げすぎたインフラをこれからどうやってたたんでいくのか。日本人としてはなかなか受け入れ難い現実だが、いい加減そろそろこの問題と向き合わなくてはいけないのではないか。(窪田順生)」
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⛲41〉─2─餓死母親の息子「無戸籍で助け求められず」。~No.246No.247 ㉑ 

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 2020年12月27日 産経WEST「餓死母親の息子「無戸籍で助け求められず」水と塩で…
 大阪府高石市の民家で9月、住人の高齢女性が餓死し、同居の息子も衰弱して入院した。生活費が底をつき、最後は水と塩だけでしのいでいた親子。いずれも戸籍がなく、息子は「無戸籍だったので助けを求められなかった」と語ったという。無戸籍であることに負い目を感じていたのか。近所の住民ら関係者の話からは、境遇や困窮ぶりを周囲に知られないように暮らしていた親子の姿が浮かぶ。
 「おはようございます。母が亡くなりました」
 近所の自治会長の70代男性宅に息子が訪ねてきたのは秋分の日の9月22日午前8時ごろ。深く一礼し、淡々とした様子で息子が告げた事実に男性は驚いた。
 慌ててはだしのまま女性宅に駆けつけると、1階6畳間のベッドの上に女性があおむけに寝ていた。体はやせ細り、手を腹の上で組んでいた。栄養不足による餓死で死後数日が経過。息子も衰弱しており、入院した。
 女性は長崎県五島列島出身で死亡時は78歳、息子は49歳で学校に通ったことがなく、最近は無職だったとみられる。息子とともに戸籍がなかったが、内縁の夫と3人で暮らしていた。
 「きちっとした性格で、よく家の周りの排水溝の蓋を開けて掃除していた」と近所の住人。人付き合いがよい方ではなかったが、好きな甘酒を手作りし、分けることもあった。平穏な暮らしに影が差したのは平成28年。内縁の夫が死亡し、息子と2人で遺産頼みの生活が始まった。次第に困窮し、今年夏ごろには食べるものもなくなった。
 8月末、女性は金を借りようと知人を訪ねた。しかし、言い出せず、そうめんをもらって帰った。それがほぼ最後の食事だったとみられ、この頃から女性は衰弱して歩けなくなり、息子が看病するようになった。
 女性が以前、「引っ越す」と言っていたこともあり、近所の人たちは家にはもう誰もいないと思っていた。雨戸も閉め切った中で2人きり。女性は自力で水も飲めなくなり、息子が布に含ませて与え、自身も塩で飢えをしのいでいたという。そんな状況が2~3週間続いた。そして-。
 「なぜきづけなかったのか」
 「無戸籍だから助けを求められなかった」。息子は追い詰められた理由をそう語った。2人が無戸籍である理由は分かっていないが、誰かが気づくことはできなかったのか。
 高石市は、女性が亡くなるまで無戸籍の親子の存在を把握していなかったという。女性は周囲に自身らの境遇を打ち明けず、窮状を訴えることもなかったため、行政が親子に関与したことはなかった。
 ただ、夫が亡くなり死亡届が出された際、市は家の相続の関係で戸籍を調べたという。結局、夫の親族が相続放棄をしたが、この過程でも女性らの存在には気づかなかったとしている。
 阪口伸六市長は「行政に相談がなく死亡されたことは残念。今後、こうした事案がないように地域住民の力を借り、関係機関と連携しながら対応したい」とのコメントを出した。
 自治会長の男性は後悔をにじませる。「SOSを出してくれたら何かできることはあったはず。出ていたのかもしれないが、なぜ気づけなかったのか」
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 【無戸籍者】 親が出生届を出さなかったなどの理由で戸籍がない人。法務省の把握では全国で約900人とされるが、民間支援団体は約1万人と推計している。出生届を出さない理由はさまざまだが、「離婚後300日以内に生まれた子供は前の夫の子供と推定する」という民法の「嫡出推定」の規定が適用されるのを避けるためというケースが、7割以上を占めるとされる。戸籍がなくても行政サービスや生活保護を受けることは可能。自治体や法務局に相談し必要な手続きを経れば、無戸籍を解消することもできる。」
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⛲41〉─1─食の格差。母娘餓死 付近住民「生活に困っている様子なかった」~No.245 

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 2020年12月15日 産経新聞「母娘餓死 付近住民「生活に困っている様子なかった」 大阪
 大阪市港区のマンション一室で今月11日、女性2人の遺体が見つかり、司法解剖の結果、いずれも餓死したとみられることが15日、大阪府警港署への取材で分かった。1人は、住人で職業不詳の女性(42)と判明。もう1人は60代の母親とみられ、同署は身元の特定を進めるとともに2人が死亡した経緯などを調べている。
 同署によると、この部屋は母娘の2人暮らしだったとみられる。職業不詳の女性の死因は低栄養症による心機能不全、もう1人の死因は飢餓による低栄養症で体重は約30キロだった。いずれも死後数カ月程度が経過していた。
 マンションの管理会社から「部屋の郵便物がたまっている」と親族に連絡があり、同署員らが駆け付けたところ、2人が室内の床に倒れていた。冷蔵庫に食べ物は入っていなかったという。
 亡くなったとみられる2人の生前の様子を知る近隣住民からは、戸惑いの声が聞かれた。
 近くに住む女性(73)は「あいさつをするくらいの関係だったが、生活に困っている様子は見受けられなかった」と振り返る。
 この女性によると、2人は少なくとも十数年前からこのマンションで暮らしていたが、近隣住民と関わりを持つことはほとんどなかった。最後に見かけたのは今夏で、食料品を持って笑顔で帰宅していたという。
 近くの60代男性は「数カ月前、2人でテレビ番組を見て盛り上がっている声も聞いた」と話した。」
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