¥3〉─4・C─日本が「円安地獄」にハマって抜け出せない真因 日本と欧米でインフレ要因は大きく異なる。~No.9 

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 2022年9月15日 MicrosoftNews 東洋経済オンライン「日本が「円安地獄」にハマって抜け出せない真因 日本と欧米でインフレ要因は大きく異なる
 リチャード・カッツ
  © 東洋経済オンライン 円は当面激しく揺れ動くことが予想される。その理由とは(写真:Akio Kon/Bloomberg
 世界的なインフレと、それに対抗するための金利上昇が、日銀に大きなジレンマを与えている。もし日銀が国内事情だけを考慮するのであれば、金利をゼロに近づけるのは至極当然のことである。だが、その副作用として円相場は急落し、欧米との金利差が拡大するのと連動して円安が進み続けている。
 (日銀とFRBのデータをもとに筆者作成)© 東洋経済オンライン (日銀とFRBのデータをもとに筆者作成)
 日銀の黒田東彦総裁は、円安は日本の輸出を押し上げるので「純便益」であると、繰り返し述べている。しかし、円安が進みすぎた結果、今やコストのほうがメリットを上回るようになっている。円安は食料品、エネルギー、その他の必需品の価格を上昇させている。
 さらに、6月の調査では、調査対象の企業の半数近くが円安により打撃を受けていると答えた(「円安が業績に貢献している」と答えたのはわずか3%だった)。そのうえ、日銀が認めているように、円安は過去ほど輸出を押し上げてはいない。
 日本での価格上昇は食料品とエネルギーに偏っている
 日本、アメリカ、そしてヨーロッパを襲うインフレは、それぞれ異なるものであり、それゆえに異なる対策が必要である。
 2022年4〜7月期の日本のヘッドラインインフレ率(食料品やエネルギー価格を含む総合インフレ率)は2.2%と、アメリカの8.6%、ユーロ圏19カ国の8.1%に比べて低いだけでなく、その原因も異なる。
 日本のインフレ率の88%は輸入集約的な食料品とエネルギー製品に起因しているが、これらは個人消費の27%に過ぎない。残りの項目、すなわちコア指標は、日本のインフレ全体の12%に過ぎず、アメリカの61%、ユーロ圏の32%をはるかに下回っている。
 © 東洋経済オンライン (出所:OECD
 コア指標は長期的なトレンドの予測に適している。対照的に、食料品とエネルギーは、パンデミック、戦争、中国の成長の変動など、国家がコントロールできないグローバルな事象に対応して大きく変動する。日本の7月時点のコア指標は0.4%に過ぎず、日銀の目標値である2%をはるかに下回っている。これに対し、アメリカのコア指標は6%に上昇し、ユーロ圏では4%に達している。
 このため、黒田総裁は日本のインフレは一過性のものであり、金利を上げる必要はないと見ているのだ。7月の展望レポートで日銀は、消費者物価指数(除く生鮮食料品)は2023年度には1.2〜1.5%に下がると予測した。これに対し、アメリカやヨーロッパの中央銀行は、今、インフレの上昇モメンタムを積極的に抑制しない限り、インフレが自己増殖し、さらに高い水準に上昇することを懸念している。
 日本と欧米のインフレの違い
 黒田総裁は、日本のインフレは「コストプッシュ型」であると主張している。一方、データによれば、アメリカでは「デマンドプル型」が強く、ヨーロッパでは両タイプのバランスがとれている。
 デマンドプル型とは、総需要が、経済がその需要を満たす能力(すなわち総供給)よりも速く上昇していることを意味する。このため、経済が持続可能な速度よりも速く成長する、いわゆる「オーバーヒート」が発生し、インフレが引き起こされる。
 パンデミックの間、アメリカ政府は不況をおそれて家計に対し大量の現金を提供したが、そのお金の多くはロックダウンなどで使い途がなく貯蓄にまわされた。そして今、その現金が過剰な需要を生んでいるのである。
 これに対する救済策は、金利を引き上げて需要を減速させ、需要が供給と均衡するようにすることだ。残念ながら、景気を後退させることなくこの減速を実行するのは難しい。インフレが高まれば高まるほど、またインフレが長引けば長引くほど、ソフトランディングの難易度は増す。
 一方、コストプッシュ型とは、原材料価格が上昇によるもので、例えば現在自動車生産を妨げている半導体不足や、ロシアによるヨーロッパへの石油・ガスの供給停止などによって引き起こされる。その結果、GDPが低下しても物価が上昇することがあり、これを「スタグフレーション」と呼ぶ。
 コストプッシュ型インフレへの対処は複雑である。例えば、ある日突然、重要な原材料価格が10%上昇したが、年々上昇するわけではないとする。その場合、インフレは自然に元に戻る。当初、アメリカの中央銀行に当たる連邦準備制度理事会FRB)とECBはそう踏んでいたし、日本銀行はまだそうだと考えている。
 しかし、コストプッシュの圧力がインフレ率を毎年上昇させ続けるなら、人々の行動は変化する可能性がある。労働者は賃金の引き上げを要求し、企業はコスト上昇分を顧客に転嫁することに成功するかもしれない。だが今のところ、こうしたスパイラルが起こる兆候はほとんどない。アメリカやヨーロッパで今後5年間に予想されるインフレ率が急上昇しているわけでもない。
 円安はメリットより代償の方が大きい?
 黒田総裁は、日本のインフレは一過性のコストプッシュ型であると主張しており、金利を上げる必要はないばかりか、金利を上げてしまうとGDPの成長も、需要主導の健全なインフレ率2.0%を達成しようとする日銀の努力も損なわれることになるとしている。
 悩ましいのは、他国が金利を上げるなか、結果として日本の金利と他国の金利の差が大きくなることだ。そのため、投資家は日本から欧米に資金をシフトし、円は大きく下落する。
 このジレンマは、黒田総裁の主張とは逆に、多くのアナリストが円安はメリットよりも代償が大きいと考えていることから生じている。最も基本的なことは、円安は食料品やエネルギーなどの輸入に依存する消費財や、企業が必要とするさまざまな原材料の価格を上昇させるということである。
 結果、消費者や内需系企業は、輸入品以外の製品、すなわち、国産製品に回す資金が減ることになる。輸入品にさらなる資金を使うことは、日本の消費者や中小企業から外国の生産者に所得が移転することを意味する。輸出と海外資産でより多くの利益を得ている国内の多国籍企業にも所得は移転する。
 必要な輸入品に対する円の購買力(価格調整済み)は、1971年以来最も低くなっている。これは、新型コロナの影響や消費税増税と並んで、個人消費が長年低迷し、2013年当時より4%減少している理由の1つである。
 加えて、企業投資は2019年のピークから9%減少している。円高を補強するための金利引き上げは、その回復を阻む逆風をさらに強めることになる。さらに、7月の公式の失業率は2.5%に過ぎないが、これとは別に3.7%の労働人口が「被雇用者(であるが)就業していない」、つまり何の仕事もしていない被雇用者が政府の補助金で給料をもらっていると記載されている。
 民間内需がこれほど弱く、国内で生み出されるインフレ率がこれほど低いなかで、黒田総裁が金利引き上げに反対するのは理解できる。しかし、この政策の代償として、円の急降下が続く可能性がある。
 円安を受け、黒田総裁は10年債金利を0.25%以上に引き上げざるを得ないと考える金融トレーダーは少数派である。そのため、彼らは6月に日本国債を大量に売却し、黒田総裁の決断を促した。日銀は彼らの動きを制するために、わずか1週間で800億ドルという前代未聞の出費をしなければならなかった。
 間違いなく、金融トレーダーたちはさらなる試みを行うであろう。しかし、そうなれば黒田総裁の決意はさらに固まる。もし市場が最終ラインの0.25%を突破したなら、どこで止まるのだろうか。過去25年間、「日銀は利上げを阻止できない」と賭けた人たちは、トラック一杯の大損を繰り返してきた。日銀に不利な賭けをする人たちはこう言い返す。「今回は違うんだ」。
 円はまだ激しく揺れ動く
 黒田総裁にとって良いニュースは、FRBが主要な政策手段であるオーバーナイト金利を引き上げていても、10年債金利は同じようには動かないということである。政策金利の引き上げは一時的なものに過ぎないからだ。
 実際、FRBによる引き締めが景気後退を引き起こすと投資家が懸念する場合、10年債の利回りは政策金利よりも低くなることが多い。9月上旬には1.65%から2.4%に引き上げられたにもかかわらず、10年債の利回りは6月の時点よりも低くなった。
 したがって、FRBが9月20〜21日の会合で政策金利をさらに引き上げ、予想されている通りその後の会合でも引き上げを続ける場合、10年物金利がどのような動きを見せるかはまだわからない。アメリカのインフレと金利の動向に関するムードスイングも円を上下させる。
 シートベルトを締めたほうが良いだろう。円は激しく揺れ動くことになる。」
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