🌁26〉─3・C─如何に法律を改正しても外国人技能実習生にとつて日本はブラックである。~No.101 ⑬ 

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 2023年12月2日 YAHOO!JAPANニュース プレジデントオンライン「「日本人が考えるほど甘くはない」外国人技能実習生の失踪、不法就労、犯罪を引き起こす"利権の闇"
 閣議に臨む岸田文雄首相(中央)ら=2023年11月24日、首相官邸 - 写真=時事通信フォト
 厳しい職場環境に置かれた技能実習生の失踪や関連する事件が相次いだことから、制度の在り方を検討してきた政府の有識者会議が2023年11月24日、最終報告書をまとめた。現行制度を廃止し、人材の確保と育成を目的とした新制度「育成就労制度」の創設を提言するが、これで問題は解消するのか。長年にわたり実習生や外国人留学生問題を追及してきたジャーナリストの出井康博さんは「現行制度の“看板のかけ替え”にすぎず、本質的な問題は何も解決しない」という──。
 【写真】紹介料の実態が生々しい、ベトナムの仲介業者から日本のある監理団体に送られてきたメール
■制度の基本は変わらない
 11月24日、外国人技能実習制度の見直しを議論してきた政府の有識者会議が最終報告書をまとめた。報告書では、すっかり悪名が定着した実習制度を“廃止”し、「育成就労」という制度を創設することが提言されている。政府は自民党などの意見を踏まえ、来年の通常国会に関連法案を提出する見通しだ。
 ただし、法案が成立し、名称が「育成就労」となっても制度の基本は変わらない。現在と同様、実習生は「送り出し機関」と呼ばれる母国の人材派遣業者を介して来日し、日本側の「監理(かんり)団体」が就労先へと斡旋(あっせん)する。3年間働けば在留資格を「特定技能」に移行でき、日本で長期にわたって働けることも同じである。
 今回の見直しで、関係者が最も注目していたのが、同じ仕事で職場を移動できる「転籍」の問題だった。現在は就労先に問題がない限り、実習生の転籍は許されない。それが新制度では、就労開始から1年以上経ち、初歩的な日本語能力があれば認められる方針のようだ。
■失踪した実習生の3人に2人がベトナム人
 実習制度を使い日本で働く外国人は今年6月末時点で35万8159人に上り、日本人の働き手が不足する職種に労働者を供給するツールとなっている。
 一方で、制度への批判は強い。実習生への暴行などの人権侵害が度々報じられ、職場から失踪する者も後を絶たない。事実、2022年の実習生の失踪者は9006人と、過去2番目の多さだった。
 「転籍の自由がないため実習生が職場から失踪する」
 そうした指摘を受け、転籍制限の緩和が決まった。実習制度“廃止”にも、失踪問題が影響したことは間違いない。では、新制度になれば問題は解決するのだろうか。
ベトナムの送り出し業者から届いたメール
 実習生の過半数、失踪した実習生に至っては実に3人に2人がベトナム人だ。実習制度をめぐる問題、とりわけ失踪は「ベトナム問題」だといえる。
 そのベトナム実習生を仲介している関西の監理団体に10月末、1通のメールが届いた。〈お客様 各位〉で始まる一斉送信されたメールで、送り主はベトナムの送り出し業者「A社」である。
 タイトルが〈高度人材・技人国・特定技能ならA送り出し機関〉となっていることからもわかるように、労働者の売り込みメールだ。
 「技人国」とは、ホワイトカラーの専門職向けの在留資格「技術・人文知識・国際業務」の略称である。「特定技能」は2019年に始まった制度で、日本での長期就労を希望する実習生が利用するケースが多い。
■生々しい「紹介料」の実態
 メールには、1人当たりの紹介料も記されている。技人国の場合、日本語能力試験で上から3番目の〈N3レベルは10万円〉、1つ上の〈N2レベルは15万円〉、特定技能外国人は10万円とある。
 そして肝心の実習生については、メールの最後にこう書いてある。
 〈受入企業を紹介してもらう場合に紹介者に20万円/名を支払います。〉※原文ママ
 つまり、実習生以外の斡旋ではA社への紹介料が発生するが、実習生に限っては逆にA社から監理団体に紹介料が支払われる。しかも1人につき20万円という高額だ。
■帳簿に載らない「賄賂」
 メールを受け取った監理団体は、過去にA社から実習生を受け入れていた。団体の関係者が言う。
 「高度人材などのことも書かれていますが、A社の主なビジネスは実習生の送り出し。1人につき20万円のキックバックを我々に払っても、多くの実習生を日本へ送りたいんです」
 関係者はさらにこう続ける。
 「キックバックや接待はベトナムの業者の多くがやっていて、業界関係者なら誰でも知っていること。ただし、キックバックは帳簿には載らない賄賂(わいろ)です。金額は口頭でやりとりするもので、堂々とメールに書いてあることは珍しい」
■実習生から高額な手数料を徴収して日本へ送る
 実習生の送り出し国、また日本以外で出稼ぎ先となる国々では、日本をはるかに上回るペースで賃金が上昇している。そこに昨今の円安も追い打ちをかけ、出稼ぎ先としての日本の魅力低下は著(いちじる)しい。
 とはいえ、少なくともベトナムでは、依然として日本側の「買い手市場」が続いているようだ。だからA社は、キックバックの金額まで明かし、必死で実習生を売り込んでいる。
 キックバックの出所は実習生だ。彼らから送り出し業者が徴収した手数料の一部が回される。
 手数料の金額は、国によって大きく異なる。フィリピンのように徴収を原則禁じる国がある一方で、高額な手数料が定着している国もある。最たる例がベトナムだ。
 出入国在留管理庁が昨年7月に公表した調査によれば、ベトナム人実習生が来日前に母国の送り出し業者と業者以外の仲介者に支払った費用は平均約69万円と、調査対象となった6カ国の実習生で最も高かった。ベトナム人の次に多いのが中国人で約59万円、最も少ないのがフィリピン人の約9万円だ。
■「200万円払えば日本に行ける」
 「69万円」でも安くはないが、実際には100万円以上の手数料を払っているベトナム人は多い。関東の監理団体で働くベトナム人スタッフが言う。
 「手数料はすべての職種で同じではない。仕事が大変で、ベトナム人も嫌う建設業などでは手数料が50万円以下のケースもある。特に建設業は実習生のニーズが高いので、監理団体にキックバックを支払う必要もない。でも、製造業のように人気の仕事だと、手数料は100万円を超えることが多いですね」
 業者によっても手数料の違いが大きい。A社からメールを受け取った監理団体幹部はこう話す。
 「うちがA社から受け入れたベトナム人実習生には、200万円の手数料を払っていた子もいた。別の送り出し業者経由で来日したベトナム人の手数料が100万円だったと知り、ショックを受けていましたよ」
 手数料をボッタくるような業者になど頼らず、なぜ他の業者を使わないのか──。日本人の感覚では、そう思えてしまう。だが、日本の常識はベトナムでは通用しない。ベトナムは賄賂が蔓延(まんえん)する国で、手数料には「定価」がない。そして実習希望者たちは「本当に日本で働けるのか」との不安を抱えている。
 「200万円払えば日本に行ける」
 と業者に持ちかけられれば、従ってしまう者がいるのである。
■実習生の失踪が多い「本当の原因」
 実習生は母国でも貧しい層の若者たちなので、手数料は借金して支払う。来日後に働いて返済していくが、実習生の報酬は最低賃金レベルである。しかも仕事はきつい肉体労働だ。嫌になって職場から失踪し、より稼ぐため不法就労する者が現れる。
 ただし、すべての国の実習生で失踪が問題になっているわけではない。たとえば、フィリピン人の場合、3万人近くの実習生が在留していた昨年の失踪者はわずか70人だった。割合にして0.2パーセントと、ベトナム人の3.4パーセントと比べずっと少ない。同じように転籍を制限されながら、フィリピン人はほとんど失踪しないのだ。
 日本と同様に人手不足が深刻化し、多数の外国人労働者を受け入れる台湾の状況も参考になる。台湾の外国人労働者は約75万人だが、昨年1年間で4万人以上が失踪した。労働者が希望すれば転籍は認められるのに、失踪者は日本よりもずっと多いのだ。
 台湾で失踪した外国人のうち、約83パーセントはベトナム人だった。台湾の外国人労働者全体に占めるベトナム人の割合は35パーセントなのである。そして台湾のベトナム人労働者も、やはり多額の手数料を業者に支払い、借金漬けで渡航している。
 台湾の実態からも、失踪と「手数料」「借金」の因果関係は明らかである。言い換えれば、転籍制限を少し緩和したところで、手数料の問題がある限り失踪は減らない可能性が高い。
■「ルール」の制定で問題は解決するのか
 日本側は以前からベトナム政府に対し、問題への対処を求めてきた。
 ベトナムはこれに応じ、昨年1月に新たな法律を施行した。送り出し業者が実習生から徴収できる手数料の上限を、従来の「3600ドル」(1ドル150円で54万円)から「日本での月収3カ月分-業者の管理費3年分」へと変更したのだ。実習生の月収が18万円、業者が実習生の就労先から受け取る「管理費」(仲介料)が月1万円の場合、手数料は18万円となる。
 このルールが守られれば、ベトナム人実習生が背負う借金は減る。しかし、今でもキックバックの慣習が続いていることからして、改善の見込みは乏しい。そもそも以前の「3600ドル」からして、まったく守られていなかったのだ。
 では、日本が新制度を導入すれば、手数料問題は解決するのか。有識者会議の最終報告には、次のような一文がある。
 〈不当に高額な手数料等の徴収、監理団体・受入れ機関への饗応やキックバック等を行う送出機関の取締りを強化するなどして、悪質な送出機関の排除の実効性を高める。〉
 「ベトナム」を名指しこそしていないが、有識者会議も接待(饗応)やキックバックの横行を認め、〈取締りを強化〉すべきだと提言している。ただし、〈実効性を高める〉ための手段は〈送出国政府との間での二国間取決め(MOC)を新たに作成〉とあるだけだ。問題は〈送出国政府〉が信頼できるのかどうかという点である。
■「ベトナム側の実態」を知らないはずはない
 有識者会議としては、すべての罪を〈悪質な送出機関〉にかぶせたいのだろう。しかし手数料やキックバックの問題は、送り出し業者だけのせいではない。
 業者は監理団体以外にも、許認可権を握るベトナム政府担当者への賄賂が必要となる。ベトナムのある業者幹部は、「認可を得るための賄賂や接待に日本円で1000万円以上使った」と私に証言する。しかも賄賂は認可を得た後も渡さねばならず、相手は1人ではない。
 こうして実習生が借金して工面する手数料の一部が、送り出し業者を経て政府担当者の懐(ふところ)に入る。
 業者は賄賂を介して担当者と癒着(ゆちゃく)していれば、法律が定める手数料の上限を守らなくても罰せられることはない。ベトナム一党独裁体制を敷く共産党の関係者が、業者の運営に関与するようなケースもある。
 ベトナムでは、日本への実習生送り出しが特権階級の利権となっているのだ。そんなことは、会議に集められたほどの有識者であれば十分理解しているはずである。
■「日本人が考えるほど甘い国ではない」
 一方、手数料問題に関し、最終報告ではこんな提言もなされている。
 〈手数料等を受入れ機関と外国人が適切に分担するための仕組みを導入し、外国人の負担の軽減を図る。〉
 実習生の就労先(受入れ機関)にも、手数料の一部負担を求めるべきだというのだ。一見すると「受益者負担」の理にかなっているが、これではベトナムの現状にお墨付きを与えるに等しい。
 そもそも就労先は実習生を受け入れる際、1人当たり数十万円の初期費用を負担している。その一部は、現地で実習生をリクルートし、研修を施す送り出し業者に入るべきものなのだ。しかし現実には、業者は監理団体にキックバックまで渡して実習生を売り込んでいる。
 仮に就労先が手数料を負担したところで、実習生の支払いが減る保証はない。前出・監理団体のベトナム人スタッフもこう述べる。
 「いくら日本がルールをつくっても、ベトナム政府の利権がある限り、実習生の負担は減りません。ベトナムは日本人が考えるほど甘い国ではないんです」
■関係者が群がる「利権の巣窟」
 今年6月時点でベトナム人実習生は約19万人まで増えている。1人100万円の手数料を支払っていれば、総額で1900億円である。「利権」の大きさがわかってもらえるだろう。この莫大(ばくだい)な金を送り出し業者が集め、そこに日本の監理団体やベトナム政府の関係者が群がっている。
 現状はベトナム人実習生にとって不幸である。彼らの失踪は、不法就労のみならず犯罪をも誘発しかねない。
 日本社会にとっても好ましくない。手数料問題が解決されないのなら、ベトナムからの実習生受け入れを一時停止することも考えるべきではないか。
 韓国では日本の実習制度に似た「雇用許可制」のもと、16カ国から昨年末時点で約37万人の外国人労働者が就労しているが、ベトナム人の主な送り出し地域である北中部4省からの人材の受け入れは一時停止している。失業や不法就労が多いからだ。
 ちなみに、雇用許可制を使い韓国で働くベトナム人は3万人に満たず、日本のような「ベトナム人頼み」にはなっていない。一時停止の措置は、長期的に見れば実習生たちのためにもなる。だが、最終報告にそんな指摘はない。
 ベトナム人の受け入れが止まれば、実習生の数が確保できなくなる。結果、実習生頼みの企業、業界から不満が噴出することを恐れているのだ。
■背後に見え隠れする「大物政治家」たち
 さらに言えば、日本がベトナムに気を使う背景には、大物政治家たちの存在も影響しているのかもしれない。
 超党派の「日本ベトナム友好議員連盟」会長を長年務めるのは、安倍晋三菅義偉両政権下で自民党幹事長を担った実力者・二階俊博氏である。そして岸田文雄首相も同連盟で長く活動し、幹事長まで務めてきた。岸田政権発足後、初めて日本へ招いた外国首脳もベトナムのファム・ミン・チン首相(当時)だった。
 こうした“親越派”政治家への忖度(そんたく)もあってか、実習制度見直しを託された有識者会議には「ベトナム問題」解決への本気度が感じられない。現制度への批判に対し、「何かやってる感」を出そうとしているだけなのだ。
 しかし、現状を放置していれば、ベトナムから日本への出稼ぎ希望者は確実に減っていく。他国の賃金が急上昇している中、多額の借金までして「稼げない日本」など選ばないからだ。
 政府としては、実習制度の看板をかけ替え、実習生の転籍制限を緩和すれば、国内外からの批判が収まると考えているのかもしれない。ただし、その裏では、現制度最大の闇である「ベトナム問題」は今後も引き継がれていく。

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 出井 康博(いでい・やすひろ)
 ジャーナリスト
 1965年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。英字紙『The Nikkei Weekly』の記者を経て独立。著書に、『松下政経塾とは何か』『長寿大国の虚構―外国人介護士の現場を追う―』(共に新潮社)『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社+α新書)近著に『移民クライシス 偽装留学生、奴隷労働の最前線』(角川新書)などがある。

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