🚷32〉─4・A─65歳必要貯蓄は3000万円強、9割の人が老後生活資金を賄えない。70歳への支給開始年齢引き上げは必至。~No.144 

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 2022年9月25日 MicrosoftNews 現代ビジネス「実は65歳必要貯蓄は3000万円強、9割の人が老後生活資金を賄えない 70歳への支給開始年齢引き上げは必至
 野口 悠紀雄
 2000万円貯めれば十分なのか?
 2019年6月に「老後生活に2000万円の貯蓄が必要」という金融庁・金融審議会の報告書が発表されて、大きな反響を呼んだ。
 © 現代ビジネス by Gettyimages
 多くの人が問題としたのは、「年金だけで老後生活を送れると思っていたが、2000万円も自分で準備しなければならないのか」ということだった。
 しかし、この反応は間違っている。政府は、年金だけで老後生活が送れるとは、一度も約束したことがない。
 問題とすべきは、「65歳時点で2000万円貯めれば、それで十分なのか?」ということだったのだ。
 なぜなら、以下で述べるように、多分、不十分だからだ。
 公的年金に関する財政検証は、都合のよい数字を仮定して、年金財政の深刻な問題を覆い隠している。実際には、公的年金財政が破綻する危険がある。その場合には、支給開始年齢を70歳にまで引上げる措置が取られる可能性がある。
 65歳から70歳までの給付相当分も必要になる
支給開始年齢の引き上げは、老後に向けての必要資金に大きな影響を与える。
 上記、金融金融審議会の試算で、収入のうち、社会保障給付は月19.2万円(230万円)だ。5年間では約1150万円になる。
 いま、支給開始年齢の70歳への引き上げは、65歳への引き上げが完了した2025年から行われるとしよう(これは単なる仮定であり、2025年から行われる必然性はない。後で述べるように、厚生年金の積立金は2040年頃までは枯渇しないと考えられるので、支給開始年齢引き上げは、もっと後の時点で行われる可能性がある)。2年で1歳ずつ引上げ、10年間かけて行なう。
 その場合には、つぎのようになる。
 1960年に生まれた人は、2025年に65歳となり、年金を受けられる。したがって、1960年以前に生まれた人は、上記措置の影響を受けない。
 2035年で70歳となる人は、1965年に生まれた人だ。70歳支給開始になるのが2035年であるとすれば、1965年以降に生まれた人は、70歳にならないと年金を受給できない。
 このように、70歳支給開始の影響をフルに受けるのは、1965年以降に生まれた人々だ。
 それらの人々は、単純に考えれば、2000万円に加えて、5年間分の年金額に相当する額を自分で用意しなければならない。したがって、65歳の時点で、約3150万円の蓄積が必要ということになる。
 もしあなたが詐欺や盗難にあって1000万円を失ったとしたら、あなたの老後計画は大きな打撃を受けるだろう。支給開始年齢の70歳への引き上げは、それと同じ結果をもたらす大事件なのである
 岸田文雄内閣は、NISAに投資すれば老後資金は安心できるかのような幻想を振りまいている。しかし、そんなことでは到底解決することができない大問題だ。
 退職金でもクリアできない
 厚生労働省、2019年国民生活基礎調査によれば、貯蓄額が3000万円を超えている世帯は、全世帯で8.9%、高齢者世帯で10.8%でしかない。
 だから、65歳までに3000万円貯めるというのは、容易なことではない。
 必要資金が2000万円なら、退職金を2000万円もらえる人は、なんとかクリアできる。もっとも、それは、一部上場の大企業、大学卒で、正規社員の場合だ。すべての人がそれだけの退職金を期待できるわけでない。とくに問題なのは、非正規職員だ。退職金がない場合も多い。
 ましてや、3000万円必要ということになれば、大学卒の大企業正規社員でも、退職金だけでは、まったく足りない。
 では、70歳支給開始になったとき、会社に70歳までの雇用延長を期待できるか?
 いまでも、50台後半に役職定年で給与が激減する人が多い。これからはもっと厳しくなるだろう。
 以上を考えると、ほとんどの人々が老後生活資金を賄えないことになる。生活保護の支えが必要な人が多数出るだろう。
 ゼロ成長では、2040年代に年金積立金が枯渇
 以下では、年金財政の将来を検討する。この計算は、複雑だと考える方がいるかもしれない。しかし、支給開始年齢引き上げが決して過剰な心配ではなく、可能性がきわめて高いものであることを納得していただくためには、こうした計算は不可欠だ。高等数学を用いているわけではないので、是非、読み進んでいただきたい。
 現在、公的年金の給付総額と収入総額は、どちらも約50兆円であり、ほぼ見合っている。今後も両者の伸び率が等しければ、収支均衡を続けることができる。
 しかし、今後は、人口構造の変化によって、給付を受ける高齢者が増える半面で、保険料や税を負担する労働年齢階層の人口が減少する。したがって、給付が増加する半面で収入が減少し、年金会計の収支は悪化する。
 まず最初に、実質賃金の伸び率を0%と仮定しよう。また、物価上昇率も0%であるとしよう。
 そして、年金支給額や保険料・税収入は、年齢階層別人口で決まるとしよう。2020年から40年を見ると、年金受給者である65歳以上人口は1.083倍になり、保険料・税負担者である15~64歳人口は0.807倍になる。
 すると、2040年には、給付は現在の1.083倍の54.2兆円になり、収入は0.807倍の40.4兆円になる。赤字は13.7兆円だ。
 したがって、20年間の累積赤字は(三角形の面積を求める公式により)、137(=13.7x20÷2)兆円となる。
 現在の厚生年金積み立て金は約195兆円なので、2040年代には使いはたすだろう。つまり、公的年金は破綻する。
 支給開始年齢を引き上げれば解決できる
 では、支給開始年齢を引き上げればどうなるか?
 図表1は、年次別の年金受給者の推移を示す。支給開始年齢を65歳のままとすれば、年金受給者は、65歳以上人口の推移にしたがって増加する。これが、ABCDで表されている。Dの数字は3921万人だ。
■図表1 支給年齢引き上げによる受給者の変化
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 仮に2025年において支給開始年齢の引き上げが開始され、2035年に70歳にまで引き上げるものとしよう。この場合には、年金受給者の推移は、ABEFになる。Fの数字は3013万人だ。AからFまでを均してみれば、年金受給者の増加率は0.833倍だ(年平均増加率でいえば、マイナス0.9%)。
 これは、先に述べた保険料・税負担者の増加率(0.807倍)とほぼ等しい。したがって、年金財政の問題はほぼ解決されるのである。
 過大な実質賃金伸び率を仮定して問題を隠蔽
 当然のことながら、支給開始年齢引上げに対しては、強い反対が予想される。
 そこで、財政検証は、マクロ経済変数を操作して、問題を隠蔽してしまった。具体的にはつぎのとおりだ。
 まず、受給者数と負担者の年平均伸び率は、0.399%とマイナス1.07%だ。これが図表2の「受給者数と負担者数」欄に示してある。
■図表2 支給開始年齢引き上げによる受給者の変化
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 物価や賃金に関して、2019年公的年金財政検証では、いくつものケースを想定している。どれを見たらよいのか迷うが、物価上昇率としては、0.5~2.0%が、実質賃金上昇率(名目賃金上昇率ー物価上昇率)としては、0.4~1.6%が想定されている。これを参照して、図表2では「物価上昇率」と「実質賃金上昇率」の数字を、1%と0.55%と置いた。
 さらに、「マクロ経済スライド」と呼ばれる制度がある。これは、人口構造の変化等に対応するために、年金額を毎年ほぼ0.9%減額する措置だ。これが図表2に示してある。
 以上を合計すると「計」の欄の数字になる。
 この場合には、給付より収入の伸び率が高くなるので、将来も年金制度を維持することが可能だ。
 ただし、1%をこえる実質賃金の伸び率は、現実に比べて過大だ。最近では実質賃金の伸び率がマイナスになっていることを考えても、これが実現できないことはほぼ明らかだ。
 しかも、財政検証が設定した値では、実質賃金の伸び率が実質GDPの伸び率よりも高くなっている。これも、現実にはあり得ないことだ。
 また、マクロスライドを実行するには、物価上昇率が0.9%を超えなければならない。現在は海外からのインフレで物価上昇率が高くなっているが、これを将来も続けられるかは疑問だ。
 だから、財政検証は、過大な伸び率想定に立脚した架空の見通しといわざるをえない。
 年金財政を確実に改善するのは支給開始年齢引き上げなのだが、これを表に出さずに、マクロ変数を都合よく仮定して、問題を隠蔽しているとしか、言いようがない。
 次回の財政検証は、2024年に行なわれる。そこでは、マクロ経済変数についての現実的な見通しに基づいて、公的年金が抱える深刻な問題に関する真摯な検討が行なわれることを期待したい(なお、正確にいうと、賃金が上昇すると、新規裁定者の年金は増加する。しかし、この効果は図表2では無視した)。」
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