¥20〉─5─自治体、電力と並ぶ「御三家」は過去の栄光に…地銀の末路。〜No.104No.105 ⑩ 

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 2022年5月31日 プレジデントオンライン
 自治体、電力と並ぶ「御三家」は過去の栄光に…返すアテもない公的資金で命をつなぐ地銀の末路
 © PRESIDENT Online 記者会見する川越浩司きらやか銀行頭取=2022年5月13日午後、山形市
 公的資金を申請した「きらやか銀行」の台所事情
 地方銀行公的資金注入の第二幕が開けようとしている。背景には将来が見通せない地方銀行に共通する苦しい台所事情がある。自治体、電力会社と並ぶ「御三家」と呼ばれ、地方の就職人気ランキングで常に上位を占めてきた地方銀行の時代は過去のものとなりつつあるようだ。
 じもとホールディングス仙台市)傘下で山形県を主地盤とする「きらやか銀行」が5月13日、公的資金の申請検討開始を表明した。同日、本店で記者会見した川越浩司頭取は申請の理由について、「コロナの影響を受けている取引先の事業再構築に伴う設備投資などを考えるなら、必要な資金だと考えている。地元の中小企業をしっかり支え、守ること、それがわれわれの使命だ」と強調した。
 公的資金を受けることで自己資本を充実し、コロナ禍で苦しむ地元企業への資金供給に万全を期すというわけだ。200億円規模の公的資金を申請すると見られている。
 しかし、金融界の見方は少し異なる。「きらやか銀行は、過去に注入された公的資金の返済期限が2年後に迫っている。今回の申請はその借り換えのようなものだろう」(メガバンク幹部)という見方だ。
 米利上げで37億円もの損失を計上
 きらやか銀行の今年3月末時点の自己資本比率は8.42%で、公的資金を返済しても6%台の自己資本比率を確保できるとみられている。国内銀行に求められる最低比率は4%以上であることから、十分に余裕があるのだが。
 「コロナ禍で地元企業が予想以上に疲弊しているのではないか。とくに山形県はこれまでインバウンド需要で潤っただけに、その反動が大きい。宿泊、飲食関連企業などが落ち込んでいると聞きます」(大手信用情報機関)というのだ。
 そこに追い打ちをかけたのが、連邦準備制度理事会FRB)の強烈な利上げとロシアによるウクライナ侵攻だった。世界中でインフレに歯止めがかからず、米利上げに伴い世界のマネーが米国に回帰し始めている。
 中でも「これまで米債投資に積極的だったきらやか銀行は、米国の利上げで大きな含み損を抱えた」(某地銀幹部)というのだ。きらやか銀行は地元経済の悪化もあり21年3月期に最終赤字に転落していたが、さらに21年4~9月期に外債など有価証券投資で37億円もの評価損を計上している。
 きらやか銀行は当初、第三者割当の優先株の発行などによる資本増強も検討したが、疲弊する地元企業に新株を引き受ける体力はなかったということだろう。結果、国に資本増強を頼む公的資金申請を決断した。とくに今回の公的資金は20年に施行された改正金融機能強化法に基づく「コロナ特例」が適用される。この特例は、公的資金を受けても経営責任が問われない立て付けになっている。まさに経営不振を極める地銀にとって助け船となる。
 本業で稼げない中、有価証券投資に乗り出すも…
 実は金融庁は4年前から地銀の有価証券投資に懸念を示していた。「体力を超える有価証券投資にのめり込み、含み損が拡大している地方銀行がある」。18年夏、金融庁幹部はこう指摘していた。
 念頭にあったのは、18年3月期決算で7年ぶりに純利益が赤字に転落した福島銀行で、同年6月に業務改善命令を出したのはその象徴だった。同行は、マイナス金利政策に起因する資金利鞘(りざや)の縮小に加え、含み損を抱えた投資信託の解約・売却に伴う損失処理(19億円)で赤字に転落したのだ。
 この投資信託の含み損の早期解消は、金融庁の指導によるもの。赤字の責任をとって、森川英治社長(当時)や幹部が辞任した。その後任社長には、地元のライバルである東邦銀行の元専務で、「とうほう証券」社長であった加藤容啓氏が就く異例の人事も断行された。
 福島銀行への業務改善命令は、地銀の現状を如実に映し出していた。本業の預貸で収益が望めない中、大半の地銀は海外の有価証券投資に乗り出したが、世界的な金利上昇局面で損失を被ったところが少なかった。「今期のコア業務純益予想を上回る評価損を抱えている地銀も散見される」と金融庁関係者は吐露していた。
 市場が予想に反して動けば致命傷となりかねない
 このため金融庁は、複数の地銀に対し「経営の持続可能性」を検証するため立ち入り検査に入った。「経営の持続可能性」と謳(うた)っていたが、最大の課題は過大な有価証券投資と含み損の存在にほかならなかった。「経営体力対比で過大なリスクテイクを行っている地銀が多数確認される。経営計画で掲げた配当を達成するために、本業利益で賄えない分を有価証券投資で補う業務計画や、有価証券の含み損を先送りする計画を策定する地銀がある」(金融庁関係者)というものだ。
 こうした過度に有価証券投資に依存した収益確保は、市場が予想に反して動いた場合、致命傷となりかねない損失を被るリスクがある。このため金融庁では有価証券の含み損の早期処理を促す一方、含み損を処理しても適切な自己資本比率が維持できる水準に投資をとどめることや、期間収益で対応できる範囲内に有価証券投資を抑えるよう指導した。
 だが、本業の預貸で儲(もう)けられない地銀にとって、有価証券投資は望みの綱。そう簡単に抑えられるものではない。
 「数が多すぎる」が、再編もうまくいかない
 そうした苦しい台所事情を抱えた地銀にショックを与えたのが菅義偉政権の誕生だった。菅首相は就任早々の20年秋に、「将来的に(地方銀行は)数が多すぎるのではないか」、「再編も一つの選択肢になる」と語った。ここからにわかに地銀の再編がクローズアップしていく。
 市場では次の再編地銀を予想して、先回りして株式を仕込む動きもみられたほどだった。しかし、地銀の経営は地盤とする地域経済に依拠する部分が大きく、そのありようはさまざま。経営が比較的良好なところもあれば、お先真っ暗のところもある。
 金融庁は、そうした個々の地銀の実情に合わせた持続性のある経営戦略を求めているが、悩みの種となっているのが公的資金を受けたにもかかわらず、思うように収益が上げられず、いまだに返済できていない地銀の面々だ。
 これら地銀が受けているのは金融機能強化法に基づく公的資金で、当時、13行を数えた。返済期限の近い地銀からピックアップすると、北洋、福邦、南日本にはじまり、みちのく、三十三、東和、高知、北都、宮崎太陽、豊和、仙台、筑波、東北、そしてきらやかと続いた。大半は人口減少と地元経済の縮小に喘(あえ)ぐ地銀である。
 しかし、日銀のマイナス金利に象徴される超低金利環境はこれからも続く可能性が高く、伝統的な預貸業務で収益を上げることは難しい。さりとて外債など高利回りの有価証券投資で無理をして、サドンデスとなっては元も子もない。有効な処方箋は優良な地銀との経営統合となるが、統合相手はなかなか首を縦には振らない。結果、公的資金は残ったままとなる。
 「一般企業では倒産していてもおかしくない」
 こうした経営不振地銀にいま、ひとすじの光明が射している。20年8月14日に施行された改正金融機能強化法だ。この法律は、従来の金融機能強化法が、公的資金を受けた地銀に経営責任を含む厳しい改善措置を求めるのに対し、「新型コロナウイルス感染拡大の影響が認められれば、コロナ特例として公的資金を受けても収益性・効率性の目標や経営体制の見直しを求めない」(金融庁関係者)という。
 まさに公的資金を返せないでいる地銀にとっては渡りに船の法律だ。公的資金を返せないでいる地銀が、改正金融機能強化法で公的資金の借り換えをするのではないかと、金融界ではもっぱらだ。
 改正金融機能強化法の「コロナ特例」では、経営者の責任を問われることがなく、かつ、従来の金融機能強化法では15年以内に返済を求められていた期限が事実上撤廃された。「期限のない」とは「返さなくてもよい」と言い換えてもいいような公的資金だ。
 きらやか銀行に続き、経営不振に喘ぐ地銀の公的資金申請が相次ぐ可能性が高い。「公的資金は銀行だから受けられる優遇策だ。一般企業では倒産していてもおかしくない」(財界関係者)という厳しい指摘も聞かれる。コロナ禍で苦しむ地域企業を支援することを口実にした、地銀救済がまかり通ろうとしている。

                    • 森岡 英樹(もりおか・ひでき) 経済ジャーナリスト 1957年生まれ。早稲田大学卒業後、経済記者となる。1997年、米コンサルタント会社「グリニッチ・アソシエイト」のシニア・リサーチ・アソシエイト。並びに「パラゲイト・コンサルタンツ」シニア・アドバイザーを兼任。2004年4月、ジャーナリストとして独立。一方で、公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団(埼玉県100%出資)の常務理事として財団改革に取り組み、新芸術監督として蜷川幸雄氏を招聘した。 ----------

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