🚱28〉─3─崩壊の道を静かに進む「水道」老朽化の悲惨な未来。外資に売られる水のインフラと資源。〜No.116No.117 

   ・   ・   ・   
 関連ブログを6つ立ち上げる。プロフィールに情報。
   ・   ・   {東山道美濃国・百姓の次男・栗山正博}・   
 2022年12月9日 YAHOO!JAPANニュース 東洋経済オンライン「崩壊の道を静かに進む「水道」老朽化の悲惨な未来、「蛇口をひねっても出ない・・・」
 「優等生だった」日本の水道インフラは今、崩壊への道を静かに進んでいる(写真:HEILAI Zhengnan/PIXTA
 日本の水道管は総延長にして地球17周分、うち4周分は法定耐用年数の40年を過ぎており、「水道インフラは今、崩壊への道を静かに進んでいる」と言うのは、加藤崇氏です。いったい日本の水道に今何が起きているのでしょうか。同氏の新著『水道を救え』を一部抜粋し再構成のうえ、お届けします。
 【写真】「竹下通り」知られざる深夜のごみ収集作業の裏側
■「蛇口をひねっても水が出ない」そんなことが現実に!? 
 蛇口をひねっても水が出ない──。
 こう聞くと、どこか遠い国のできごと、あるいは古い時代の物語のように感じられるかもしれない。しかし、これは日本の近未来だ。僕たちの生活を支えている水道インフラは今、崩壊への道を静かに進んでいる。残念ながら、これは事実だ。
 このままでは、自宅の蛇口をひねっても水が出ず、その代わりに、街を歩けば道路のあちこちで、水道管の破損が原因の水漏れが起きている、そんな風景が冗談ではなくなるのだ。
 「日本では水道水が飲める」
 2021年に開催された東京五輪でも、海外から来日したメディアの中にはこの事実に目を見開く人もいた。
 「たいていの国では水道水は飲めない」ことを、海外旅行をきっかけに知ったという人もいるだろう。ガイドブックには水道水を飲むなと書かれていたし、水はビンやペットボトルに入ったものを買い求めるのが常識とされていた。レストランでも、ワインやコーラと同じように水は有料だという常識に驚いた人もいるはずだ。
 もちろん、海外には上下水道が布設されていない国もある。そうした諸外国と比べると、飲み水に簡単にアクセスできる日本の水道は優等生だった。
 では「優等生だった」日本の水道が、なぜ、崩壊の危機にあるのか。理由はシンプルだ。もともと儲からなかった水道事業が、輪をかけて儲からなくなってきたことに尽きる。
 なお、上下水道については「敷設」という表記のほうがなじみがあるかもしれないが、水道法では「布設」という言葉が使われているので、それに倣うことにする。
 日本の水が危ないということは以前から言われてきた。ただ、その場合は、水源が枯渇してしまうのではないかとか、その水源が汚染されてしまうのではないかとか、資源としての水そのものに注目されることが多かった。また、渇水にあえぐ地域がある一方で水害に見舞われる地域があるといったように、バランスも話題になることがあった。
 しかし今、最も危機を迎えているのは、当たり前のように存在してきた水道というインフラだ。
 よく知られているように、日本の人口は約1億2780万人だった2011年以降、減少の一途をたどっている。人口減少先進国である日本の2022年3月の確定値は約1億2510万人で、2055年には1億人を割るとも言われている。
 人口減の理由は少子化だ。2021年の出生数は約81万人と過去最少を記録した。戦後の第1次ベビーブーム、1949年の出生数は約270万人、第2次ベビーブームの1973年には約209万人だったことを考えると、激減だ。1989年には合計特殊出生率が1.571を記録して1.57ショックと言われたが、2020年のそれは1.34にまで下がっている。
■水の需要のピークは2000年
 一方、2021年の死亡数は約144万人。新しく生まれる赤ちゃんが減り、その1.8倍近くの人が亡くなっているのだから、人口が増える理由がみつからない。
 人口減はさまざまに影響を与える。労働力が不足する、消費をする人口が減る、国力が下がる、などいろいろなことが言われるが、もちろん水インフラにも無関係ではない。人口が減ると、水道管を通して各家庭や事業所に水を届けている水道事業者にとっては、お客さんが減ることになる。
 総務省の統計によると、2021年の日本の人口は2020年に比べて約64万人減っている。この64万人という数字は、東京のベッドタウンでもある千葉県第2の自治体・船橋市の人口に匹敵する。たった1年で船橋市民がいなくなり、船橋市民向けの水道施設が使われなくなる計算だ。64万人のために巨額の投資をして整備してきたインフラが、無用の長物となってしまう。
 この傾向は今後も続く。また、実際には、人口が減るよりも前に水の需要は減っていた。
 国内での水の需要のピークは2000年で、それ以降、右肩下がりが続いている。節水型の洗濯機やトイレの普及や節水意識の向上が水の需要を減らしたと見られる。無駄遣いが減るのはいいことだ。
 しかし、水道事業者の視点に立てば、これは収入減を意味する。実際に、2011年には年間2.7兆円だった収入は、2016年には2.3兆円になっている。4000億円の減収だ。人口減と節水は、水道事業経営者にとっては弱り目に祟り目なのだ。
 収入減は、とくに小規模な水道事業者を直撃する。厚生労働省によると、2021年時点で、日本には一般の需要に応じ水道によって水を供給する水道事業者は3819あり、うち1312が給水人口5000人を超える、上水道事業と呼ばれる事業者で、残り2507が、給水人口が5000人以下の簡易水道事業と呼ばれる小規模な事業者だ。2507の簡易水道事業者が対象としている給水人口は約174万人。
 どういうことかというと、水道事業者全体の数の3分の1しかない上水道事業者が日本の人口の約99%に水道事業を提供し、3分の2を占める簡易水道事業者が約1%に水道事業を提供しているのだ。
 こうした小規模な事業者は地方に多く、そして、地方ほど人口は急速に減っている。だからといって、チェーン店が不採算店を閉めるようには撤退ができない。水道管は網の目のようにつながっているし、それになにより、水道は生活に欠かせないインフラだからだ。
 たった1人でもそこに住み続ける人がいる限り、水は供給し続ける必要がある。だから、給水人口が少ない都市ほど料金収入の総額が少なく、赤字の組織も多い傾向にある。地方ほど、人口減の影響を強く受ける。この点は電力事業と異なる。
■地球約17周分の水道管が日本の地中に埋まっている
 いきなり話がわき道にそれるが、電力需要も水道事業と同じように人口減と節電によって減少すると思われる方もいるかもしれない。しかし、それはどうも違うようだ。確かに人口は減っているし節電家電が普及し節電意識も高まっている。
 気候変動対策として排出する二酸化炭素の量を減らすため、これまでガソリンや灯油がカバーしてきた部分を電力で賄おうとする動きが急速に進んでいる。電気自動車しかり、キッチンの電化しかりだ。ゆえに、電力需要は水需要ほど落ち込まないどころか、増えていくという試算もある。従って、水道事業と電気事業は別に考えるべきだろう。
とにかく、水の需要は減っていき、水道事業者の収入は減っていく。収入が減れば十分な投資ができなくなる。何に対してかというと、すでに建設された水道インフラに対してである。
 日本の水道普及率は98%を超えている。山がちな島国の津々浦々に、水道管網が張り巡らされているのだ。すでに触れたが、水道管路の延長は67万6500km、地球約17周分の水道管が日本の地中に埋まっていることになる。この充実したインフラが家庭や事業所への水の供給を支えている。
 しかし、形あるものはいずれ壊れる。しかも、それぞれのペースでだ。いつか必ず交換しなくてはならなくなる。それがいつなのか。日本では法定耐用年数40年と決められている。
 1918(大正7)年に初めて定められたこの耐用年数は、当初はその素材の物理的な耐用年数を根拠としていた。しかしその後、技術の進化が素材の寿命を延ばしたことで改定が進み、徐々に、資産としての経済的陳腐化も加味されるようになった。
 ともあれ、2016年の時点で全体の14.8%が40年を超えて使われており、この数字は20年後、つまり2036年には23%に達するということだ。
 おまけに、これまでに寿命を迎えた水道管はすべて更新されているのかというと、そうではない。新しくなっているのはほんの一部で、更新の遅れが漏水や破損事故につながっているとされている。
 日本では毎年2万件以上の漏水・破損事故が起きている。
 ここ数年を振り返ると、2018年7月には東京都北区で50年前に布設された水道管が破損して、商店街が水浸しになった。2019年2月には静岡県浜松市で、老朽化のため撤去予定だった水道管が破損し、5kmほど離れたところでも水の濁りが確認されている。
 2019年3月には千葉県旭市だ。市内の7割以上にあたる約1万5000戸が断水した。この旭市では2022年2月にも水道管破損によって断水し、小中学校が休校するなどの影響が出た。2020年1月には横浜市で約3万戸が断水した。
 まだまだある。2021年10月、和歌山市内を流れる紀の川にかかる水管橋と呼ばれる水道用の橋が老朽化のために崩落し、約6万戸が断水。その後の調査で崩落の直接的な原因は、水道管と橋の構造部をつなぐ部分の塩害や鳥の糞の蓄積などによる腐食とされたが、この断水は6日間続いた。
 2022年は6月に札幌市の住宅街で、布設から48年が経った水道管が、同年7月には北九州市で、布設から56年が経った水道管が破裂した。北でも南でも商店街でも住宅街でも、こうした事故が、規模はともかくとして1日当たり50件以上起きている。
 なかでも記憶に深く刻まれているのは、2011年6月に京都市で起きた破損事故だ。水道管の破損は近くにあったガス管の破損を招き、水道だけでなくガスインフラにも被害を及ぼしてしまった。
■水道管の更新率は0.667%
 どれも、老朽化した水道管やその周辺設備を更新していれば防げた事故だ。頭のいい人はすぐにそう指摘できる。しかし、現場での対応が追いついていないのが現状だ。
 追いつかないのは人間の心理も同様だ。ニュースなどで、道路から水が噴き出している映像を見て「明日はわが身」と思える人は少ない。見ている現象は、老朽化というどこででも進行している事態によるものだが、何かしらの特殊な事情がそこにあったと思い込んでしまう。
 今、日本全体の水道管の更新具合を示す更新率はだいたい何%くらいか見当がつくだろうか。
 答えは0.667%(2018年度)。2016年度には0.75%。2001年には1.54%あったが、現在のそれははるかに及ばない。1980年以前に布設され寿命を迎えた水道管を、平均的に更新していくには、1.14%という数字が求められるが、それを下回っている。インフラの更新は老朽化に追いついていないのが現状だ。
 では、今のペースではいつになったら水道管の更新が終わるのか。10年後?  ご冗談を。20年後?  とんでもない。50年後?  まだまだ。
 答えは130年以上先だ。
 すべての水道管を更新し終わる頃には、今、この瞬間に更新が終わった水道管が、とっくに寿命を迎えている。
 蛇口をひねれば(最近は、スライドさせたり手をかざしたりするだけのことも多いが)いつでも水が出るという現状が、いつまで保たれるかはわからないのだ。
 加藤 崇 :フラクタ会長、東北大学特任教授(客員)
   ・   ・   ・