🚱30〉─2─人口減は「希望」脱成長社会への転換。都市集中より地方分散。〜No.124No.125No.126 

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 2019年9月23日 産経WEST「【ニュースを疑え】人口減は「希望」脱成長社会への転換 広井良典・京大教授
 日本の人口は10年連続で減少し、1億2477万6364人(今年1月1日現在)となった。社会保障や医療費の膨張、労働者不足などの問題が山積し、なかなか明るい未来予想が描けない時代だ。しかし広井良典・京都大こころの未来研究センター教授は「希望」という言葉で人口減少を語る。拡大や成長を当然としてきた発想から、いまこそ転換すべき時だと説く。(聞き手、坂本英彰)
 ひろい・よしのり 公共政策と科学哲学を専門とし、人間や社会のあり方を研究している=京都市左京区京都大学(彦野公太朗撮影)
 --人口減少が希望とはどういうことですか
 「江戸時代後半は人口が3000万人ほどで、ほぼ一定していました。ところが明治から急増し、人口増加と経済発展の同時進行が続いてきたのです。急な坂道を駆け上るように相当無理を重ねてきたともいえる。いまだに大都市圏では過労死といったことが起こり、また幸福度の国際比較では概して日本は良好といえない。人口減少社会への移行は、これまでひたすら拡大や成長を追求してきた方向から、真の意味での豊かさを実現していくターニングポイント、あるいは新たな出発の時代ではないかと思うのです」
 「急成長時代に脇に置いてきたものが手掛かりになるでしょう。江戸末期に来日した外国人は、日本人は怠惰だとかのんびりしていると見ていたようです。勤労の習慣がこの国にはないようだなどと書く一方、これほど幸せそうな国民もないといった記述もある。過労死のような働き過ぎは、急坂を上るなかで生まれた弊害ではないでしょうか」
 離陸の時代、着陸の時代
 --西洋に追いつき追い越せでしたからね
 「ところが日本はいつの間にか、非成長社会のフロントランナーになった。国内総生産(GDP)は1990年代半ばから500兆円前後で推移し、人口は10年連続で減少している。人口や経済の拡大期は飛行機が離陸するように自然や伝統、地域社会から離れていった。今は着陸の時代に入ったといえる。別の見方をすれば、離陸の時代に顧みなかったものを取り戻すチャンスだと思うのです」
 「ただ昔に返るのではなく、現代の視点で取り戻せないか。たとえば神社やお寺はコンビニより多い。心のよりどころにもなる寺社を核に人がつながり、金や物がローカルに循環する仕組みができないでしょうか。私はそんな『鎮守の森コミュニティ・プロジェクト』を提唱し、各地で進めています」
--「着陸の時代」という比喩は面白いですね
 「GDPで本当の豊かさは測れないと言う人は多い。英国のジョン・スチュアート・ミルは著書『経済学原理』(1848年)ですでに、経済はやがて定常状態に達し、そうなって初めて本当の幸せが訪れると論じています」
 「当時は農業が経済の中心で、土地の有限性に直面すると考えたのです。その後の工業化でミルの議論は一時忘れられたが、今度は地球資源の有限性にぶつかった」
 --資源は無尽蔵ではないのですね
「1929年の世界恐慌市場経済は一度行き詰まったが、英国のケインズは政府が公共事業を行って低所得層にお金を行き渡らせ、需要を喚起すればいいと唱えた。資本主義は生きながらえたが、いよいよ拡大路線ではない社会のあり方を考える時期に来ています。1972年、民間組織ローマクラブが発表した『成長の限界』は非常に注目されました。2008年の世界的な金融危機リーマン・ショックは金融資本主義の限界も示しました」
 「心のビッグバン」と「精神革命」
 --歴史的な転換点ということですか
 「ええ。大きな話になりますが人類史は拡大と定常のサイクルを繰り返してきました。最初は20万年前から5万年前。人類誕生で狩猟採集社会が地球上に広がり、獲物の枯渇などで限界に達し定常期に入った。2回目は1万年前から紀元前5世紀ごろで、農業で生産が拡大したが土壌浸食などで限界を迎えた。3度目のサイクルが17世紀ごろからの工業化で始まり、いま3度目の定常期に入ろうとしているといえる」
 「興味深いのは過去2度の定常への移行期、人間の意識に大きな変化が起きていることです。5万年前には洞窟壁画や装飾品など実用性を超えた作品が一気に生まれ、人類学などで『心のビッグバン』と呼ばれています。紀元前5世紀前後には、ユダヤ教や仏教、儒教ギリシャ哲学などの普遍的な思想が現れた。これは『精神革命』といわれています。いずれも当時の生産の拡大が資源や環境の限界に直面し、物質的な豊かさを超越した高次元の価値観を獲得したのです」
 都市集中より地方分散
 --激変の時代に考え方を変えて乗り切ったともいえるが、現実にはいろんな問題が出てきそうです
 「じつは日立京大ラボという研究チームとの共同研究で『2050年、日本は持続可能か』というテーマを設定し、人工知能(AI)を使ったシミュレーションをしました。その結果、都市集中か地方分散かが、今後の日本社会の行方を決める重要な分岐点になると出たのです。しかも、地方分散を選んだ方が日本社会の持続可能性は高いという結論になった。たとえば出生率は東京が最低で、地方が高い。東京一極集中が進むほど人口減少が加速していくということです」
 「人口がずっと減少し続けるのはよくない。日本の合計特殊出生率(女性1人が生涯に産む子供の推定数)は昨年は1・42でしたが、2に向けて回復させる必要があります。今世紀末に8000万人ぐらいで下げ止まれば、安定した社会になると思います。実は国連の推計で2100年の世界人口は109億となり、以後はほぼ横ばいと予想されている。20世紀は人口爆発の時代でしたが21世紀の増加は緩やかで、グローバルな定常型社会に向かっているといえるのです」
 --今世紀末はまだ先で喫緊の課題は多い。外国人労働者社会保障はどうあるべきでしょう
 「移民など人々が国境を越えて移動するのがよいという考え方は近代特有のものですが、人口減を補うために外国人を入れるのは問題が大きい。どうしても住み分けになって社会の分断が生じるのは避けられず、多くの国で問題が起きている。人口減少期には人々は、それぞれの土地で生きていく傾向が強くなっていくでしょう」
懐かしい未来
 「社会保障は、高齢期偏重を是正しもっと人生の前半に振り向けるべきです。出生率低下の背景には若い世代の生活不安があるからです。不人気な意見でしょうが、欧州並みの高い税率は不可欠。現在のように、1000兆円を超える借金を将来世代にツケ回しするという方向はすぐにでもやめるべきではないでしょうか。また、社会保障費は一般歳出の半分以上を占め、家族を超えた相互扶助という側面が非常に強い。税金はお上に取られるものだという古い考えを捨てる、意識改革が必要なのです」
 --なかなか難しい意識改革ですね
 「たしかにそうですが、令和の時代は人口減少社会にどう向きあうかが最大のテーマです。昭和は人口や経済が拡大を続けた時代でした。平成は人口減少に転じたが成長路線から抜けきれず、現実とのギャップが広がった。近年に企業による不正の隠蔽(いんぺい)など不祥事が続出したのは、構造的な矛盾も原因でしょう」
 「経済成長に問題解決を委ねた昭和的な発想では、もう立ちゆかない。着陸の時代の発想は江戸時代にも学べます。たとえば近江商人には、『売り手よし、買い手よし、世間よしの三方よし』という思想があった。利益の最大化だけを求めず、経済と倫理を両立させる思想です。私たちが向かうのは全く未知の世界ではない。ある種の先祖返り、懐かしい未来という言い方もできるでしょう」
 【プロフィル】広井良典(ひろい・よしのり) 1961年4月、岡山市生まれ。東京大教養学部卒、同大学院総合文化研究科修士課程修了。厚生省(現厚生労働省)、千葉大教授などを経て2016年から京都大こころの未来研究センター教授。専門は公共政策と科学哲学。医療や社会保障地域再生に関する政策研究を行う。著書に「コミュニティを問いなおす」「ポスト資本主義」「人口減少社会のデザイン」など。
 【ニュースを疑え】
 「教科書を信じない」「自分の頭で考える」。ノーベル賞受賞者はそう語ります。ではニュースから真実を見極めるにはどうすればいいか。「疑い」をキーワードに各界の論客に時事問題を独自の視点で斬ってもらい、考えるヒントを探る企画です。」
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