🌁2〉─2─日本人の所得格差の原因は非正規雇用者の賃金格差。~No.3 @ 

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 2021年10月17日 MicrosoftNews 東洋経済オンライン「日本人は賃金格差の原因をイマイチわかってない いかに労働規制で対処しても問題は解決されない
 © 東洋経済オンライン 企業規模別の資本装備率の差に着目する必要があります(写真:builderB /PIXTA
 所得格差をもたらす大きな原因の1つは、賃金格差だ。
 日本では、企業規模別に大きな賃金格差がある。それは、資本装備率が企業規模別に大きく異なることが原因になっている。
 この問題を解決しない事後的な所得再分配政策では、いつになっても同じ政策から脱却できない。
 昨今の経済現象を鮮やかに斬り、矛盾を指摘し、人々が信じて疑わない「通説」を粉砕する──。野口悠紀雄氏による連載第54回。
 賃金格差は、単純な再分配政策では解決できない
 岸田内閣は、所得再分配を経済政策の柱にしている。
 所得格差を生む原因としては、さまざまなものがある。
 第1に、相続等によって生じる資産保有額の違いは、所得格差の大きな原因だ。
 第2に、何らかの理由で働くことができず、収入の途を断たれている人々がいる。
 こうしたことを原因として生じる所得格差に対しては、税制や財政支出での対応が必要だ。
 所得格差を生む第3の原因は、賃金格差だ。
 後述するように、現在の日本では、大企業と零細企業の間に大きな賃金格差がある。あるいは、正規雇用者と非正規雇用者の間に賃金格差がある。
 所得格差の大部分は、こうした賃金格差によって生じている。
 したがって、分配を重視するのであれば、賃金格差の問題を避けて通ることはできない。賃金格差是正のための政策は、分配政策のなかで中心的な比重を占めるべきものだ。
 ところで、賃金格差については、事後的な再分配政策をいくら手厚く行っても、問題を解決したことにはならない。
 なぜなら、事後的な再分配政策だけでは、賃金格差を生んでいる原因を是正することはできないからだ。
 格差の原因を直さない限り、いつになっても同じような再分配政策から脱却できない。
 したがって、賃金格差問題については、その原因を正しく把握し、対策を講じる必要がある。
 以下では、賃金格差がどのような原因で生じているのか、それを是正するにはどのような措置が必要なのかを考えることとしよう。
 法人企業統計調査(金融業、保険業以外の業種)によって、2020年度における企業規模別の賃金(従業員一人あたりの給与・賞与の合計)を見ると、図表1のとおりだ。
 (外部配信先では図表を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)
 資本金10億円以上の企業(「大企業」と呼ぶ)の賃金は575万円であり、資本金1000万円未満の企業(「零細企業」と呼ぶ)の236万円の2.4倍にもなる。
 日本の高度成長期において、「二重構造」ということが言われた。経済成長を牽引する製造業の大企業と、中小零細企業や農業との間で、生産性や賃金に大きな格差があるという問題だ。
 日本経済は、現在でもこれと同じような問題を抱えていることになる。
 賃金格差の原因は、資本装備率の差
 上記のような賃金格差の原因としてまず考えられるのは、分配率(付加価値に占める賃金の比率)だ。そこで分配率を企業規模別に見ると、図表1のw/v欄に示すとおりだ。
 分配率は、むしろ大企業の場合に低い。したがって、分配率の差が賃金格差の原因とは考えられない。
 ただし、零細企業の分配率は低い。これについては後述する。
 賃金格差の原因として第2に考えられるのは、資本装備率の差だ。ここで、「資本装備率」とは、従業員一人あたりの有形固定資産だ(なお、法人企業統計調査は、これを「労働装備率」と称している)。
 この値は、大企業が2887万円であるのに対して、零細企業では790万円と、大企業の3.7分の1でしかない。
 このように、資本装備率において、企業規模別に顕著な差があり、大企業が高く、零細企業が低い。
 これが賃金格差の基本的な原因と考えられる。
 法人企業全体での有形固定資本は490兆円だ。そのうち43.6%を占める213兆円が、従業員数では全体の18.6%でしかない大企業に保有されているのである。
 賃金や資本装備率などを産業別に見ると、図表2のとおりだ。
 製造業と非製造業を比較すると、あまり大きな差はないが、製造業がやや高めだ。
 問題は、宿泊・飲食サービスなど対人サービス業における賃金が低いことだ。
 ただし、これは、宿泊・飲食サービスでは、零細企業が多いためかもしれない。そこで、従業員数や付加価値において大企業が占める比率を産業別に見ると、図表3のとおりだ。
 従業員数で見ても付加価値で見ても、製造業では大企業の占める比率が高いのに対して、非製造業では製造業より大企業の比率が低い。
 そして、宿泊・飲食サービス業では、従業員数で見ても付加価値で見ても、大企業の比率がかなり低い。
 したがって、産業別に資本装備率や一人あたり賃金の差が生じる基本的な原因は、大企業の比率が産業別に異なることだと考えることができる。
 つまり、賃金格差をもたらしている基本的な原因は、企業規模の違いなのだ。
 理論値との比較
 以上で述べた観察結果を、理論モデルの結果と照合してみよう。
 「コブ=ダグラス型」と呼ばれる生産関数を想定し、産出の労働弾力性をaとする。ここで、「産出の労働弾力性がaである」とは、労働力がx倍に増加したとき、付加価値生産額がxのa乗倍だけ増加することを意味する。
 このモデルから、つぎの結論が得られる(証明略)。
(1)労働分配率(付加価値生産額に占める賃金所得の比率)は、aに等しくなる。
(2)資本装備率をkで表すと、賃金は、kの(1-a)乗に比例する。
 このモデルにしたがって理論値を計算すると、図表4のようになる。ここでaとしては、全産業の労働分配率の値0.538(図表1参照)を用いた。
 理論値は、実際の賃金の傾向をかなりよく説明している。
 つまり、資本装備率の差が賃金格差をもたらすと考えてよいことになる。
 ただし、詳しく見ると、資本金5000万円未満の企業につき、現実値は理論値より小さめになる。
 これは、このサイズの企業では、労働組合が組織されておらず、交渉力が乏しいためかもしれない。そうであれば、政策的に介入の余地がある。
 原因と結果を取り違えてはならない
 賃金格差が生じる原因として、しばしば非正規労働者の存在が指摘される。「非正規労働者が多いから、賃金が低くなる」という意見だ。
 表面的には確かにそのとおりなのだが、これは、原因と結果を取り違えた議論だ。
 因果関係としては、零細企業では、生産性が低いために非正規労働者に頼らざるをえないのだ。
 だから、「同一労働、同一賃金」を導入し、非正規労働者の労働条件を正規並みにしたとしても、問題は解決できない。そうすれば、非正規労働が削減されるだけの結果にしかならない。
 また、賃金格差を解消するために最低賃金を引き上げるべきだと言われることがある。
 しかし、そうしたところで問題の解決にはならない。雇用が縮小するだけのことだ。
 低賃金を生み出している原因を解決しない限り、いかに労働規制で対処しても、問題は解決されない。
 中小零細企業の賃金を大企業並みに引き上げるためには、中小零細企業資本装備率を高める必要がある。
 そのために、中小零細企業に対する政策融資措置が必要だ。」
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