🚱32〉─2─「売れなくなった」築60年分譲マンションを抱える高齢住民の末路。~No.136No.137No.138 

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 2022年8月17日 MicrosoftNews FRIDAYデジタル「「売れなくなった」築60年分譲マンションを抱える高齢住民の末路
 © FRIDAYデジタル 昭和49年の東京・早稲田(新宿区)。この頃ベビーブームで次々とマンションが建設されていた
 「自力で生活できなくなる前にこのマンションを売って、老人ホームへ入居する資金の一部にしようと思っていたんです。でも、どうやらそれも叶わなさそうで…」
 今年80歳になるというシルバーヘアを丁寧に束ねた佐久間恵子さん(仮名)は、そう語った。
 東京23区の文教エリア。山手線の内側に立つ築56年のマンションは、シンプルな外観ながらも、外壁と内壁の壁は厚く、重厚な造りであることが窺える。現在30世帯の住民が住んでいるが、そのうちの三分の一が佐久間さんと同じ新築時からの住民で、中には昭和一桁世代の高齢者もいる。佐久間さんが語る。
 「目の前を都電が走り、銀座の数寄屋橋まで行けたので交通の便がとても良かったんです。しかも、この一帯には国立大学や名門中学、高校がたくさんあります。と言っても学校のすぐそばはもっと高いんです。でも、ここは10分くらい歩くので、相場よりは少しだけ安かった。だから、購入されたのは、お子さんをこれらの学校に入れたいと願う若い夫婦ばかりだったんです」
 昭和42年、佐久間さんはこのマンションの41平米の部屋を493万円で購入した。当時のサラリーマンの平均年収は43万円であり、なかなかの高額物件だったということがわかる。ただ、土地の持ち主はこのマンションを施行した建設会社で、住民は現在も月約5000円(世帯平均)の地代を払い続けているという。
 現在、このマンションの一室が売りに出されている。43平米1LDKで約2500万円。物件概要欄には『借地期間〜2025年3月まで、月額賃料4,220円』とある。仲介している不動産業者が話す。
 「かなり強気な価格だと思います。ただ、正直、ここから価格を下げても売却は難しいでしょう」
 なぜ売却が難しいのか。実はこのマンション、問題点が山積みなのだ。
 「一つは、借地です。2025年3月に60年の賃借契約が満了します。しかし、住民の方はみなさん契約を更新したいとお考えです。地主さんも弊社の問い合わせに対し、『更新には応じるつもりです』とおっしゃいました。しかし、更新の話し合いは2024年4月から行われることになっており、正直、どうなるかわからないというのが現状です」(前出の不動産業者)
 佐久間さんも、そのことをかなり気にしている様子だった。
 「実は、去年からこの一帯に再開発の話があるんです。この街は、山手線の方から放射状に伸びる形で数年前から再開発が進んでいます。このマンションを含む一帯の区画にも高層マンション化の建て替え計画がデベロッパーから持ちかけられているんです。地主さんにしてみれば更新して地代をもらうよりは土地を売ったほうが莫大な利益が出ますよね。だから私たちは更新せずに売ってしまうのではないかと戦々恐々なんです」(佐久間さん)
 そして、もう一つの問題点が、管理形態が「自主管理」ということだ。
 「マンションの管理組合は一般的には、管理会社に委託していろんな業務を代行してもらいます。例えば、借地契約の延長に関する話し合いもそうですし、管理費や大規模修繕のための修繕積立金といった金銭的な長期計画や課題を住民と話し合って決めていきます。しかし、このマンションは昭和42年からずっと『自主管理』でやってきた。そのため、きちんと改修工事をやってきたかどうか疑問がある。見た感じかなり老朽化が進んでいますし、この先もずっと住み続けるためには大規模な改修工事が必要になるかもしれません」(前出・不動産会社)
 この問題について、現在のマンションの管理組合の会長に話を聞いた。
 「実は、3年ほど前にマンションの下水管の老朽化で取り替えが必要になったんです。見積もりを出すと、その費用は3000万円でした。しかし、管理組合のプール金だけでは1000万円ほどショートしてしまい、1階のテナントから地下2階まで所有している地主さんにいくらか協力してほしいとお願いしました。しかし、『建物補修を負う義務はない』と言われてしまって、結局、30万円(一戸平均)ずつ住民から集めてなんとか住宅部分の総取り替え工事を行いました」
 他にも問題があるという。
 「実は昨年、地主さんから、『費用はこちらも負担するので耐震診断を受けたい』と相談がありました。マンションの前面道路は一般緊急輸送道路に指定されているので、たしかにこのマンションには耐震診断が義務化されています。費用を負担してくださるというので同意し実施したら、『耐震基準を満たすための補強工事代に3億円かかる』という診断結果が出てしまいました。そんなお金すぐには捻出できません」(同前)
 これらの問題点に関して、長年、不動産の有効活用に関するコンサルタント業務を行っており、不動産専門サイトで執筆活動も行っている田中和彦氏は、次のように解説する。
 「あくまで一般論ですが、借地契約では、借地期間が満期を迎えると、借地上の建物が法定耐用年数以内なら、地主に買い取り請求できるのですが、法定耐用年数を超えている場合、住民にはマンションを自費で解体して土地を地主に返却する義務が生じます。その一方で、借地権の更新を住民が望めば、地主は、更新を拒む正当な理由がない限り、更新しなければいけません。しかし、この物件の場合、更新して住み続けるためには耐震補強をしなければいけません。住民はその費用を捻出することができないということですから、そうなると、地主は、『耐震補強できないのであれば、借地契約の更新はできない』と、正当な事由をもって契約の更新を拒否できます。極端な話、『解体費用はこちらが負担するので、速やかに退去してもらいたい』と主張できるのです」
 仮に更新となっても、今後も住み続けるためには3億円近い費用をかけて耐震補強する必要性に迫られるだろう。佐久間さんは諦めたように、こう呟いた。
 「60年近くここに住み続けたんです。住民同士の仲もよく、これまでトラブルも一度もありません。でも、最後にこんなことになるなんて…」
 ベビーブームを迎えた昭和47年ごろから、このようなマンションは大量に造られ分譲された。60年の定期借地権の満期を迎えるマンションは今後、次々と増えていくだろう。このマンションの問題は、まさに人ごとではない。」
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