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「母親に、死んで欲しい」: 介護殺人・当事者たちの告白

「母親に、死んで欲しい」: 介護殺人・当事者たちの告白

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   ・   ・   {東山道美濃国・百姓の次男・栗山正博}・  
 介護殺人は、2010年から15年までの6年間で138件で、2週間に1件の割りで起きている。
 加害者が、息子は32件、娘は15件。
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 2016年7月15日号 週刊ポスト「決して他人事ではない
 介護殺人と老後破産
 親子共倒れの下流老人が妻を殺める悲劇
 NHKスペシャル『〝介護殺人〟当事者たちの告白』は衝撃的な内容だ。事件の加害者たちを追い詰めた生活環境と精神状態は、『自分には起こり得ない』と決めつけることはできない。『老後破産』と『介護殺人』は紙一重なのだ。
 『ごめんね、ごめんね』
 介護のために追い詰められ、長年連れ添った妻や夫を、あるいは親を手にかける──。そんな悲惨な事件が、いまや決して他人事とはいえない状況になっている。
 6月25日、埼玉県坂戸市で87歳の夫が85歳の妻を殺害する事件が発生した。足腰が弱り、物忘れがひどくなった妻を、夫がおよそ10年にわたって介護してきた。しかし、『俺はもうダメだ』と、介護用ベッドで寝ていた妻の首を手で締めたり、鼻や口を手で強く押さえつけたりして殺害したのである。
 殺された妻は6月上旬に市内の介護施設を出たばかりで、近く再入所する予定だったという。なぜこのタイミングで殺人が起きてしまったのか。
 『この地域の人は昔気質で、自分たちが介護されたり、老人ホームのやっかいになったりするのを嫌がる人も多い。殺してしまった旦那さんも、「息子たちの負担になる」ことを一番気にしていた』(近隣住民)
 親の介護に疲れた子供が親を殺した。昨年11月21日、埼玉県深谷市を流れる利根川で、両親の面倒を見ていた三女(47)が一家心中を図った、〝利根川心中〟事件である。 三女は認知症パーキンソン病を患う81歳の母親の介護を10年以上続けていたが、新聞配達で一家の家計を支えてきた74歳が病に倒れてしまう。父親と三女は生活保護を申請したが、その翌日に父親が心中をもちかけ、三女も同意したという。
 三女は両親を車に乗せて利根川に突っ込んだが、屋根まで水没しなかったため、車を出て右手に父親、左手に母親の服をつかみ、水深が深い方へと進んだ。『死んじゃうよ、死んじゃうよ』と手足をばたつかせる母に『ごめんね、ごめんね』と繰り返し謝り続けたという。
 いつのまにか父親の服から手が離れ、三女も流れに身を委ねていたが、浅瀬に流れ着き、ひとり死ぬことができなかった。
 殺人と自殺幇助の罪で起訴された三女は、被告人尋問で『本当は3人で死にたかった』『父を証言台に立たせることにならずよかった』と嗚咽をもらした。6月23日、さいたま地裁が言い渡したのは懲役4年の実刑判決だった。
 周辺住民によれば、3人はとても仲がよい親子だったという。
 『娘さんはお母さんの認知症がひどくなったために、仕事を辞めたと聞きました。よくお母さんと一緒に散歩していて、その時は笑顔を見せていたのに・・・』
 献身的な娘が両親を殺さなければならない。それが日本の現状なのである。
 『じいじ、かんにん』
 冒頭の2つの事件のみならず、ここ数年の間に『介護殺人』は頻発している。
 5月10日には、東京・町田市で87歳の妻が92歳の夫を絞殺した後、首を吊って自殺した。夫は数年前から認知症の症状が現われ始め、体力が落ちて車椅子なしでは動けない状態だった。さらに今年に入ってから両目の視力もなくなり、認知症が一気に進んでいた。
 夫は介護サービスを受けるのを拒否していたため、妻が献身的に介護していたが、夫の状態が悪化してからは『夜も眠れない』と漏らしていたという。
 夫がようやく介護施設への入所に同意し、手続きがほぼ済んだ矢先に起きた事件だ。妻の遺書には夫に宛てたこんな言葉があった。
 『一緒にあの世へ行きましょう。じいじ、苦しかったよね。大変だったよね。かんにんね。ばあばも一緒になるからね』
 夫婦は何十年間も愛読していた新聞を、1ヶ月前に『お金がないから』といって辞めていたことからも、経済的困窮も一因だった可能性がある。
 介護疲れの末に殺害し、自らも命を絶ったという点は、今年2月5日に埼玉・小川町で起きた事件にも共通する。
 ……
 介護疲れだけでなく、貧しさゆえに将来を悲観し、殺害に至るケースも少なくない。
 15年1月17日、千葉・野田市で77歳の妻が72歳の夫を刺殺した事件では、介護施設への入所費用の捻出が引き金となった。
 『夫婦は息子夫婦と同居していたが、夫の介護施設に入れるための費用がなく、自宅を売却しなければならないと考えていた。そのことで息子夫婦との仲が悪化したことも、妻を追い詰めたようだ』(大手紙記者)
 14年12月には東京・大田区で77歳の夫に睡眠薬を飲ませ、バットて殴った80歳の妻が殺人未遂容疑で逮捕。事件を招いたのは、無職の長男の存在だった。
 『夫の状態が悪化していくことに加え、収入は年金だけなのに無職の長男の金遣いが荒かった。さらに自身の体調も不調だったことから、将来を悲観し、夫を殺して自分も死のうと決意したようです』(同前)
 15年7月8日に大阪・枚方市で起きた事件では、逆に親を支えていた71歳の息子が92歳の認知症の母を小刀で刺し殺した。息子は大阪地裁での裁判員裁判で、『体にムチ打ってアルバイトをしていても、貧困から抜け出せなかった』と、老後破産と老々介護の凄まじい実態を吐露した。
 日本福祉大学の湯原悦子・准教授(司法福祉論)の調査によれば、過去18年間(1998〜2015年)に起きた被害者が60歳以上の介護殺人事件は実に716件もある。今年に入ってからも15件が発生しているという。
 また、この調査では『男性が女性を殺すケースが多い』ことも明らかになった。716件のうち殺害者が男性(夫や息子など)だったのが512件で全体の72%を占め、女性は194件で27%にすぎなかった(残る10件は複数犯など)。厚労省の調査によれば、在宅介護の担い手の7割は女性だから、少数派の男性が加害者になるケース
多いことになる。
 さらに716件の内訳を見ると、夫婦間の介護殺人333件のうち、夫が加害者だったケースは240件(72%)で、妻が加害者だったのは93件(28%)にすぎない。
 『男性は介護のことで困っていても、周囲に家庭内の悩みを相談する習慣がありませんし、人に頼るという発想も出にくい。介護の負担や経済的な悩みをひとりで抱え込んで、孤立してしまいやすいのです』(湯原氏)
 親子間での介護殺人でも男性が加害者であるケースが多い。
 介護殺人は日本の構造的な問題なのかもしれない。
 子供が親の老後資金を食いつぶす
 湯原氏によれば、介護殺人の原因は、『介護疲れ』と『将来への悲観』の2つに大別されるという。
 埼玉・小川町や栃木・那須町の事件などは、典型的な介護疲れによるものだ。
 『配偶者の気持ちを汲んで施設に入所させず、自らが介護を一身に背負うことになった。老老介護なので、自分自身の体調も思わしくなくなる。仲のよい夫婦であればるほど、相手を不憫に思い、行き詰まって殺害に至るというパターンは多い』(湯原氏)
 一方、そうした介護の苦痛に加えて、経済的な事情から将来を悲観することで起きる事件も多い。〝利根川心中〟事件も、老後破産が生んだ介護殺人のひとつだ。
 老後破産とは高齢者が貧困のために破産状態に追い込まれることで、いま全国で約200万人以上がこの状態にあるといわれている。 
 利根川心中事件では、最後には父親の新聞配達だけが収入源になっていた。『3人で死のう』という話は事件の数日前からあったが、生活保護受給のための聞き取りがきっかけで、『惨めに思った』『死ぬ日を早めよう』と決めたと娘は法廷で語った。
 湯原氏はこの事件を次のように分析する。
 『三女は介護を嫌がっていたわけではなく、自分で納得した上で母親を介護していたと思われるので、必ずしも「介護疲れ」によるものとはいえません。ただ、生活保護の受給審査を受ける時に、「自分はすべてを失っていた」と気づいてしまったのかもしれない。生活が今後よくなる見通しがなく、明るい展望が描けない中で父親から心中を持ちかけられ、「3人で死にたい」と思うようになったのではないでしょうか』
 埼玉・坂戸市の事件では、妻を殺した夫は『介護に疲れた』と供述している。だが、『息子たちの負担になることを気にしていた。息子たちにお金を残したい気持ちがあったのではないか』と近隣住民が話していることから、『将来への悲観』も大きな要因だったのではないかと考えられる。
 湯原氏が話す。
 『高齢者の場合、たとえお金を持っていても、それが減ることに対して強い恐怖心を抱いてしまう。「この先、生活が困窮するかもしれない」という不安から、介護サービスの利用を控えるケースもあるのです』
 そうした高齢者たちをさらに追い込むのが、『働かない子供』の存在だ。職を失った息子や娘が実家に寄生し、親の年金を頼りに生活。親の老後資産を食いつぶして共倒れになってしまう『親子老後破産』が起きるのも、近年の特徴である。
 東京・大田区の事件では、無職だった同居中の息子の出費も、殺害の動機のひとつになった。
 『親がまだ現役の間は子供が働かなくてもなんとかなりますが、親がリタイアした後は貯金や年金を食いつぶすばかりで、親子で貧困に陥りやすい。しかもそのような子供には介護能力もないから、親が弱っていってもどうすることもできない』(湯原氏)
 老後破産は将来への悲観に直結し、最悪の場合、介護殺人にまで至ってしまう。それほど深刻な問題なのだ。
 喫茶店でお茶を飲む金もない
 淑徳大学総合福祉学部教授・結城康博氏が警鐘を鳴らす。
 『高齢者が増える中、高齢者間の貧富の差が激しくなっている。いま、年金受給者の4割が年155万円以下の低所得者ですが、これでは生活は相当苦しい。実は貧しいことと人間関係の孤立化は深く関係していて、ある程度お金のある人は人間関係を保つことができる。友人と喫茶店でお茶を飲むのにもお金が必要ですから』
 そのわずかな年金で無職や非正規雇用の子供の生活まで面倒を見なければならないとしたら、ますます老後破産は避けられない。
 『老後破産に陥ってしまったら、ためらうことなく生活保護を受けることですね。生活保護を受給できれば介護保険料もタダになり、自己負担はゼロですから』(結城氏)
 年金生活の親と非正規雇用の子供が同居している場合、世帯分離という方法で生活保護を分けてもらうこともできる。まずは相談窓口に連絡することだ。
 だが、〝利根川心中〟事件では、生活保護受給が『将来への悲観』につながり、介護殺人に至る要因のひとつになってしまった。
 湯原氏は社会のサポート体制が必要だと訴える。
 『心中事件の場合、介護者がうつであることが多い。周囲が早めに気づいてサポートするだけで介護殺人はかなり減少すると思います』
 将来、自分が介護殺人を招かないためにも、いまから老後破綻を回避するべく、老後に備えることが必須である」
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 2018年1月6日 産経ニュース「【殺人・殺人未遂】「介護で疲れた」元日に妻を包丁で刺す、殺人未遂容疑で74歳男を逮捕
 自宅で妻の胸を包丁で刺して殺そうとしたとして、大阪府警住吉署は6日、殺人未遂容疑で、大阪市住吉区苅田の無職、松原正典容疑者(74)を逮捕した。「介護で疲れていた」と容疑を認めているという。
 逮捕容疑は、1日午前4時ごろ、自宅の集合住宅の一室で、同居する妻(82)の胸を包丁で刺し、軽傷を負わせたとしている。
 同署によると、4日夜、入浴中の妻の左胸から血が出ているのを別居の息子が見つけ、事件が発覚したという。」
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介護殺人:追いつめられた家族の告白

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