⛲29〉─1─認知症の親の介護で追い詰められる子供に、わき起こる親の殺害衝動。 ~No.153No.154No.155 @ 

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 2019年1月10日 産経WEST「【オトナの外来・完】親を殺したい…深刻な介護問題
 私事ですが、3年前に「親を殺したくなったら読む本」(マキノ出版)を出版しました。あまりにも衝撃的な本なので国内ではあまり売れていませんが、台湾で出版したいという話があり、翻訳されました。先日、この本がよく売れているので増刷したという報告がありました。親を大切にするという儒教の影響のあるところでは、親の問題は深刻なのかもしれません。
 私を含めて、ある程度の人は一生に2度ほど親に死んでほしい、殺したいと思ったことがあるはずです。
 最初は若いとき、過干渉や虐待などで親を憎んだことのある人は少なからずいると思いますし、親に向かって「死ね!」と罵倒(ばとう)したこともあるでしょう。
 それは思春期の反抗期として大きな問題とならなければ笑い話ですみますが、時に傷害事件などに発展することがあります。そんな過激な感情を押し殺すのではなく、うまく発散して衝動的になったときに気持ちを抑える薬を服用すれば数年で落ち着くことがほとんどです。
 2度目は親の介護のときです。特に認知症になって徘徊(はいかい)したり、暴力をふるったり、万引をしたりすると「いい加減に死んでほしい」と思っても不思議ではありません。
 老老介護で追いつめられた高齢介護者が連れ合いを殺すという、介護殺人や心中が後を絶ちません。もちろん積年の恨みからくる殺人もあるかもしれませんが、多くは仲の良い親子や夫婦であったようです。
 認知症で人格が崩壊し、手に負えなくなった親やパートナーに殺意を抱いても異常なことではないと思います。特に親が嫌がるからと施設にお願いせずに、自宅で介護している場合が危険です。
 親を大切にしたいという気持ちと、介護のストレスが複雑に交錯し、衝動的な行動に出る可能性があります。育児も大変ですが、子供の成長とともに出口が見えてきます。しかし、介護の場合は出口が見えないばかりか、次第に事態は深刻化してきます。
 われわれの親の世代も親の介護をやってきたと言いますが、医療や空調も整ってない40〜50年前は寝たきりになれば2〜3か月でお迎えがきたので、今のように長期間患って延々と介護が続くこともなかったのです。しかも平均寿命が70歳前後だったので、認知症を患う人もそれほど多くなく、寝たきりの多くの原因は脳卒中だったのです。
 認知症の最大のリスクは加齢で、80歳を超すと認知症の患者さんが急速に増えます。そして、体が健康であれば長い闘病が続くことになります。こんな時代に親の介護をしっかりしなさいと言うのは酷なことです。
 特に働き盛りの中年が、親の介護のために仕事を辞める「介護離職」は一家崩壊を招きかねません。離職により生活基盤を失い、夫婦は離婚の危機を迎え、当人は親の年金で細々と生活するという悲惨な状態になります。世話になった親の介護をするのは子供の務めという儒教的な考えが悲劇を生む可能性があります。
 特に自宅で中高年男性がひとりで親を介護する場合は、自分の生活自立も十分できてないので、次第に追い詰められます。さらに、男性は周囲に援助を求めるのが下手なので、自分の精神状態が悪くなっても、ショートステイなどの制度を使わずに、イライラした気持ちを親にぶつけ、虐待する可能性もあります。
 さらに追いつめられると、心中や殺人に発展しかねません。実際に介護殺人や心中は男性が引き起こしていることが多いという報告もあります。
 こんな事態にならないように、自宅での介護は3カ月ぐらいにとどめ、親が嫌がっても施設にお願いすることが望ましいでしょう。
 嫌がる親を無理に施設に送り込むことに後ろめたさを感じる人もいるでしょう。そんなときには「親は子供の幸せを一番に考えている。『家にいたい』とわがままを言うのは、認知症が進んでそのような感情が希薄になっているので、本当の親の気持ちではないでしょう。子供のあなたが楽になる方法を考えてください」とアドバイスをしています。
 私もこのような気持ちで母を施設に入れ、昨年みとらせていただきました。次は自分の番だと覚悟はしています。子供たちには私が自立できなくなっても施設に入るのを嫌がったときには、それは私の本来の意思ではないので無理に入れなさいとエンドノートに書き留めています。
 私のコラムは今回で最後になります。これまで失礼な話も多かったかと思いますが、読んでいただきありがとうございました。
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 【プロフィル】石蔵文信(いしくら・ふみのぶ) 昭和30年、京都市出身。内科、循環器科専門医。大阪大学人間科学研究科未来共創センター招聘教授。三重大医学部卒業後、国立循環器病センター、大阪警察病院などに勤務。米メイヨークリニックへの留学後、大阪大学大学院医学系研究科准教授を経て現職。平成13年より大阪市内で「男性更年期外来」を開設し、中高年の心と体の専門家として丁寧なカウンセリングと治療に定評がある。「親を殺したくなったら読む本」など著書多数。

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