🌁19〉─3・B─「転職が日本人の給料を上げる」根拠 「転職できるのはハイスキル層だけ」は事実無根〜No.80  

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 2023年4月14日 MicrosoftStartニュース 東洋経済オンライン「データが示す「転職が日本人の給料を上げる」根拠 「転職できるのはハイスキル層だけ」は事実無根
 デービッド・アトキンソン
 転職を「当たり前」にして、経営者にプレッシャーをかけるべきだといいます(撮影:尾形文繁)
 © 東洋経済オンライン
 オックスフォード大学で日本学を専攻、ゴールドマン・サックスで日本経済の「伝説のアナリスト」として名をはせたデービッド・アトキンソン氏。
 退職後も日本経済の研究を続け、日本を救う数々の提言を行ってきた彼の新刊『給料の上げ方――日本人みんなで豊かになる』が上梓された。
 「いまの日本の給料は、日本人のまじめさや能力にふさわしい水準ではありません。そんな低水準の給料でもガマンして働いている、その『ガマン』によって、いまの日本経済のシステムは成り立っています。でも、そんなのは絶対におかしい」
 そう語るアトキンソン氏に、日本人「みんな」の給料を上げるために必要なことを解説してもらう。
 【今回のポイント】
アメリカでは転職したほうが1.5倍、給料が上がる
アメリカでは、2022年に5048万人も自ら転職した
・日本の転職率はアメリカの7分の1
 転職する人の生涯給料は、しない人より1.5倍も伸びる
 前回の記事「「給料が上がらない会社」はいますぐお辞めなさい」で説明したとおり、日本人労働者の大多数は真面目に一生懸命働く一方で、自らの処遇に関して文句を言わずに、経営者の決定に従順に従っていました。
 【グラフ】転職者数がきわめて多いアメリカでは、給料の伸び率が高い
 このような受け身の慣習が経営者たちの甘えを許し、横暴を助長してしまい、30年間賃金が一向に上がらないという異常な事態を引き起こす一因となっています。
 さらには、このような異常な事態を払拭するために、なるべく多くの人が「給料交渉」をして、経営者に要望をするべきだと説明しました。
 今回は、経営者へのプレッシャーが給料を引き上げることを、さらに詳しく見ていきます。プレッシャーを与える最大の武器は「転職」です。
 世界各国の統計データを精査すると、同じ会社で働く期間が長ければ長いほど、給料が上がらない傾向があることが確認できます。逆の言い方をすると、転職をすればするほど給料が上がることになりますが、確かにこのこともデータで確認できます。
 つまり、労働市場流動性が高いほど給料が増えるという事実が、世界的に確認されているのです。
 この傾向は、とくにアメリカで顕著です。1990年から2020年の間に、アメリカの給料は1.5倍になりました。もちろんこれは、G7でトップの伸び率です。
 データが示す「転職が日本人の給料を上げる」根拠 「転職できるのはハイスキル層だけ」は事実無根
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 そんなアメリカの給料の伸びは、実は転職経験者によって支えられています。事実、アメリカでは転職経験がある人の給料の生涯伸び率は、転職しない人の1.5倍にもなっていることが明らかにされています。
 アメリカでは、給料が上がらないとすぐに転職する
 アメリカで自ら会社を辞めた人の退職理由を調べたPew Research Centerによる調査では、「給料の不満」が63%、「出世の不満」が63%、「産休・育休の問題」が48%という結果がでています(注:複数回答)。
 給料に対して不満を持った労働者が、自らさっさと辞めてしまうのです。経営者は、給料をちゃんと上げないとみんな辞めてしまうので、上げるしかありません。
 ここで重要なのは、アメリカでは、その給料が払えるように、経営者が会社のビジネスモデルを常に改善し続けているということです。
 アメリカと日本の違いは、大谷翔平選手の例を見ればわかります。おそらく、大谷選手が日本の球団に所属していれば、年収は7億円程度ではないでしょうか(日本プロ野球の最高年俸は山本由伸選手の推定6億5000万円)。
 一方、大谷選手の今季の年俸は40億円程度とされています。同じ大谷選手でも、アメリカにいるのとの日本にいるのとで、5倍以上の差が生まれるのです。
 ですが、アメリカの企業は別にその年俸で困っているわけではありません。ちゃんとその年俸が払えるように、野球のビジネスモデルを工夫しています。高い給料を払わないと人が辞めてしまう環境では、経営者は常にビジネスモデルを改良し続けるプレッシャーに晒されるのです。
 さて、日本はアメリカと違い、転職しても給料が上がらないと思われがちですが、それは違います。実は日本でも、特に49歳までの場合、転職を経験した人のうち、60%以上の人の給料は、従前と変わらないか、高くなっています。転職したほうが得をするわけです。
 データが示す「転職が日本人の給料を上げる」根拠 「転職できるのはハイスキル層だけ」は事実無根
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 日本では今後人口が減少していくため、人手不足に伴って転職する人が増えると予測されています。その場合、転職経験者が高い賃金を得やすくなる傾向が、より強くなることが予想されます。
 アメリカでは、とんでもない数の労働者が転職する
 では、最も給料が上がっているアメリカでは、年間どのぐらいの人が会社を辞めて、転職をしているのでしょうか。
 2022年には、なんと5048万人もの人が自主的に転職していました。5048万人というのは、世界一の経済大国であるアメリカの全雇用者の、実に32.7%、3人に1人に相当します。
 2001年以降でみると、毎年の転職者数は平均3332万人ですが、2009年以降は毎年、絶対数も、雇用全体に占める比率も上がっています。2022年には、雇用全体に占める転職者の割合は史上最高の32.7%を記録しました。
 データが示す「転職が日本人の給料を上げる」根拠 「転職できるのはハイスキル層だけ」は事実無根
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 前回の記事(「給料が上がらない会社」はいますぐお辞めなさい)に対して、「転職ができるのは、一部のスキルの高い人だけでしょう」という消極的な指摘がかなりありましたが、これは事実に反します。アメリカでは、全就業者数の32.7%が転職しているのです。これがすべて「スキルの高い人」だということはありえません。
 労働者は常に求人を確認して、労働市場における自分の価値を確認するべきなのです。
 ちなみに、日本の就業者数は2023年2月時点で6667万人でしたので、アメリカの転職者数は日本の全就業者数の75.7%に相当します。日本でもアメリカと同じように32.7%の就業者が転職をすると仮定すると、年間の転職者数は2180万人にのぼります。
 2022年の実際の転職者数は303万人でしたから、日本ではいかに転職が少ないか、おわかりいただけると思います。日本の転職率は、アメリカの7分の1でしかありません。
 さて、日本では「海外で労働市場流動性が高いのは、経営者が人を解雇できるから」という説がまことしやかに語られているようですが、これも事実を正確にとらえてはいません。
 改めてデータを確認すると、2001年以降、アメリカでは平均して毎年2321万人もの人が解雇されてきました。2321万人というのは、アメリカ全体の雇用者の16.7%に相当するので、驚くべき数字ではあります。
 しかし、さきほど説明したとおり、自主的に転職した人は平均3332万人にのぼります。会社の都合でバンバン従業員の首が切られてしまうという印象の強いアメリカでさえ、離職者の6割は自主退職者なのです。
 データが示す「転職が日本人の給料を上げる」根拠 「転職できるのはハイスキル層だけ」は事実無根
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 2022年に限ってみると、この傾向はさらに強まります。アメリカでは2022年のたった1年で、転職と解雇を合わせて43.6%の雇用者が離職したのですが、その75%を自主退職者が占めていたのです。
 この事実は、アメリカの労働者が「仕事は仕事」と割り切り、納得のいく見返りが期待できない以上、我慢して働き続けてはくれないことを物語っています。
 経営者からみると、給料を正当な水準まで上げていかないと、社員が辞めてしまうのです。アメリカの企業経営者は、労働者という「戦力」を失ってしまうリスクと常に隣り合わせにいるので、労働者の働きに対して、正当に給料を上げて応えなくては務まらないのです。日本のように、30年も賃金を上げずに内部留保金を貯め込むなんて、もっての外です。
 解雇規制緩和は海外の生産性の高さの主因ではない
 日本の経営者団体や一部の学者などからは、海外のデータを基に「生産性を高めるためには労働市場流動性を高めなければならない。そのためには解雇規制を緩和すべきだ」と訴える声を聞くこともあります。マスコミでも同様の意見を聞く機会が少なくありません。
 これらの主張は「日本では解雇規制が厳しいため、労働市場流動性が低い。だから生産性の上昇が鈍い」という考えがバックボーンになっているようです。
 しかし、先のアメリカの例のように、雇用者が自らの意思で離職するため流動性が高くなっている国も存在します。つまり、解雇規制の厳しさと、労働市場流動性の低さは、必ずしも連動しないのです。
 このように詳しい検証もせず、「厳しい解雇規制」がゆえに「労働市場流動性が低くなる」と、2つの事実を並べて、あたかも因果関係があるような主張は、とりわけ日本でよく見られる論理の飛躍そのものです。
 たしかに、海外では解雇規制が緩和されていて、労働市場流動性が高い国が多いことも事実です。しかし、解雇規制の緩和と生産性向上・給料上昇の因果関係は、日本で言われるほど明確ではありません。この2つには、たまたま強い相関が見られるだけの可能性も高いのです。
 つまり、解雇規制を緩和するだけでは、生産性が向上しないことも十分にありうるので、「生産性を高めるためには労働市場流動性を高めなければならない。そのためには解雇規制を緩和すべきだ」という主張は、根拠薄弱と言わざるをえないのです。
 労働者自ら給料アップに立ち上がるべき
 いずれにしても、前回の記事でも述べたとおり、日本では労働者が自ら働きかけないかぎり、経営者は賃金を上げてはくれません。このことは、直近30年の賃金の動向からもハッキリしています。その間、企業は規模の大小にかかわらず、内部留保金を貯め込み、労働者への分配を減らし続けてきたのです。
 仮に、政府が一部の声に押されて解雇規制を緩和したとしても、大きな効果は期待できないのは、今回の記事で説明したとおりです。
 人口が減少しつづける日本では、皆さんが自ら働きかけを行わず、これまでのように他力本願でいては、過去30年と同じことの繰り返しになりかねません。
 とにかく自助努力を欠かさないこと。いまいる会社では給料を上げてくれそうにないのであれば、人材の確保に積極的な企業を探して転職すべきです。
 最近ではだいぶ薄れてはきましたが、日本ではいまだに新しい会社にうつるために会社を辞めることに、後ろめたさを感じる人がいるように聞きます。しかし、そんな考えは今すぐ捨てるべきです。
 社員に見捨てられてしまったとしても、責めを負うべきなのは、まともな賃金を払わない経営者なのですから。
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